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黒之戦記  作者: 双子亭
第1章 戦火の花嫁
22/33

『クレヴァー・ロータスの戦い』第3話

    クレヴァー城跡、城内広場ーーーー









 ユウキが走り去った後、リンは追いかけようとしたがアレインに止められた。リンもまたそれに応じて無理に追いかけることはなかった。リンもまたアレインと同じ気持ちを抱いたからだった。



 結婚式に戻った2人はジークリンデにユウキ不在の件を伝えるとジークリンデは悲しい顔をしたが、了承し結婚式を始めた。



 この世界の結婚式は地球の教会式の結婚式と大差はない。今回は神父となる者がいないので、ユウキの次に指揮権をもつジークリンデが神父代行となった。



 式は順調に進み、ジークリンデの前でお互いの愛を誓いあった後、指輪交換を行う所だった。



「………ふふっ」

「? どうした?」



 ウィリアムは向き合っているイリアに小声で訊いた。



「こんな形であなたと結ばれるなんて思わなかったから」

「………そうだな。お互い生きてきた場所は戦場だった。結婚式くらい落ち着いて挙げたかったがな」

「でも、たくさんの方に祝福してもらって、私は幸せよ」

「私もだ」



 式に参列した者は皆静かに2人の一挙手一投足を見ていたが、そんな中でもウィリアムは城外の気配を知ることが出来た。徐々に近づいてくる賊は速度を上げてこちらに接近してくるのがよく分かった。



(式の終わりとともに戦闘開始か………)



 そんなことを考えていると、イリアがギュッと手を握ってきた。



「戦いのことは後にして、ね?」

「あぁ、そうだな」


 ウィリアムはイリアの手を取り、イリアの左手薬指に指輪を付けてあげると、イリアも同様にウィリアムの左手に指輪をはめた。









    ゾクッーーーー









 指輪交換も終わり、後は誓いの口付けだけとなった時、ウィリアムは言いようのない気配を感じた。目の前のイリアも同様らしく目を見開いて気配が発せられた方向を見つめていた。手練れた者も皆同じ方向を見つめ、他の者も何事かと同じ方向を見た。





 見つめた先にあるのクレヴァー城で一番高い塔がある。





 確か、さっきアレイン殿がサイトウ殿があの塔に駆けて行ったと言ったな、と心の中で思いながらウィリアムは見つめた。



 気配の発せられた塔の最上階を見上げると、最上階のあたりが段々、白い光で包まれ始めていき、そして収束したかと思うと、爆ぜるようにして光の粒は周りに飛散した。



「なんて、濃密な霊力なの………」



 ジークリンデの言葉がウィリアムの耳に入った後、クレヴァー城は白い光に完全包まれていった………………









    クレヴァー城外ーーーー









 クレヴァー城が白い光に包まれる光景は賊にもはっきりと見えていた。月も出始めた頃から城跡が光り始め、賊は皆見たことのない現象に浮き足立っているが、唯一落ち着いた感じで見つめている者が1人いた。



 騎乗の黒ローブは下唇を噛みながら苦い表情をした。噛み過ぎたためか、一筋の血が手綱を握った手の上へと落ちた。



(遅かったか……… いや今ならまだ……)



 黒ローブは傍らに控える従者に合図を送る。従者は頷くと角笛を高らかに吹き鳴らした。

周りを取り囲む賊は不可解な事象に気後れを感じていたが、角笛の音とともに、獲物を狙う狼のような貪欲な表情を浮かべた。





 角笛の音は『狩りの始まり』の合図。





 事前に言われていた通りに賊は光り輝くクレヴァー城跡へ、獣じみた雄叫びを上げながら駆けて行った。見たこともない光り輝く城跡に、戸惑いもなく、である。これは角笛の『霊導具』としての効果であり、角笛の音を聞いた者の心をより欲望に忠実になるよう仕向けてしまう。



 黒ローブはクレヴァー城跡に駆けていく賊を眺めながら、腰の剣の柄に手を置いた。



(………必ずや討ち取ってやるぞ)



 剣の柄をしっかりと握ると勢い良く引き抜いた。



(ユウキ・サイトウ! 我が怨敵よ!)









    クレヴァー城跡、塔の最上階ーーーー









 クレヴァー城跡が白く輝く中、俺は高塔の最上階にいた。勢いで短剣と指輪で錬成してしまったが、まさかこんなことになるとは思っておらず、戸惑いを感じていた。



(さて、どうしたら良いものか………)



 取り敢えず、目の前を埋め尽くす古代精霊文字を対処しなくてはならない。



《面白いことになっておるのぉ》

「! 誰だ!」

《ハッハッハ! 何、しがない老いぼれじゃよ》

「………………」

《そう構えるでない。儂はただ手助けしにきただけじゃ》

「手助け?」

《うむ。お主の目の前にある古代精霊文字を読めるようにしてやろうと思ってな》

「そんなことができるのか?」

《できるぞ。ほれ、もう目の前の言葉の意味がわかってきたはずじゃ》



 確かに、ただの形に見えていた文字が今は断片ではあるが、少しずつ理解できた。俺は言葉の理解で頭が一杯になり、『老いぼれ』と自称する声が最後に残した言葉を聞くことが出来なかった。



《………頼むぞ、混属(こんしょく)の使徒。お主だけが、頼りじゃ………》









 アレインたちは白い光に包まれた時は身動きが取れなかった。周りを眩く照らされ、目を開けているのが困難だったからだ。



 しかしながら、その光りも徐々に弱くなっていき、辺りを確認できるまでになってきた所になってようやく周りの異変に気付いた。



 まず、地面が今まで土肌が見えていたのが、精巧に切り揃えられた石畳が敷かれていた。次に周りを取り囲む城壁が修復されているだけでなく、高さも更に倍に高くなっており城壁には一定間隔で小塔が設けられており、その上には見たこともない装置が設置してあった。そしてユウキがいるであろう高塔のあった場所には………



「なんということだ………」



 見たこともないような美しい白亜の城がそびえ立っていた。白亜の城などお伽話の中だけの存在、実際は石肌のむき出しであるのが普通であるからこそ、アレインは自分の見ているものを理解することが出来なかった。



「アレイン!」



 アレインは誰かに呼びかけられることで、やっと我に帰った。振り返るとそこにはユウキがいた。見たことのない剣とローブを纏った異様な雰囲気を醸しだした者を連れて。



「ユウキ、これはいったい………」

「話しは後だ。賊がこちらに押し寄せてきている。城壁にたどり着くのも時間の問題だ」

「!! 本当か!」

「あぁ、それでアレインは戦える者を集め、城門の前で待機させておいてくれ。命令はニコルの『風話』で伝える」

「あ、あぁ、分かった」



 アレインは深呼吸をして落ち着くと、兵たちのもとへ駆けて行った。ユウキはそれを見届けると隣りに控えるローブを纏った者に尋ねた。



「あの装置を動かしたい。できるか?」

「可能です」



 ローブの者はどこかヒトとは声質の異なった声で応え、ユウキは頷くと小塔の装置に向かって駆けて行った。









    クレヴァー城外ーーーー









 光りの収束とともに現れた城に黒ローブは驚きはしたが、しかし速度を変えず突撃して行った。そしてふっと上を見るといくつかある小塔の1つの最上部が淡く光り出していた。



(あの兵器か!)



 黒ローブは姿勢を低くして小塔からの兵器に備えた。そして光りが消えたかと思うと青白い光線がこちらに向かって放たれた。光線は地面に当たると周りにいる賊を巻き込みながら爆ぜた。土煙が収まった後、そこには大きなクレーターがあるだけで、賊の死骸すら残っていなかった。



(やはり”昔”も威力は変わらず、か………)



 黒ローブは軽く舌打ちして再び手綱を強く握って攻撃に備えた。



(古代兵器『メナス砲』が復活した………)



 怨敵を討ち取るにはもう遅いのではと思ったが、頭を振って弱気を振り払い、黒ローブはキッと眼前の城を睨んだ。









    クレヴァー城南門、見張り台ーーーー









 俺は大砲の射撃地点を眺めて絶句した。そこはクレーターを作っており、跡には何も残っていない。俺は隣りを向くと、再度の砲撃の準備に入り、霊力充填を行なっている『メナス砲』を眺めた。

 


 正式名称は『超弩級光線型霊導式大砲』、通称、製作者の名を取って『メナス砲』と呼ばれる代物はかなりの威力を誇る反面、膨大な霊力を消費することで古代精霊時代に製作が中止された兵器である。



(こんなモノがあと、11門もあるのかよ………)



 俺は半ば諦めな境地でメナス砲を眺めた。



「マスター、6号機の正常作動を確認しました。現在の戦闘能力では防衛困難と予測し、続けて4号機、5号機の作動開始を進言します」

「………そうしてくれ」

「了解。4号機、5号機の作動を開始します」



 俺のことをマスターと呼んだ”少女”は空中に浮き出たオレンジ色に輝くパネルのようなものを指で軽やかに打っていった。



 彼女の名前は『アテナ』。このクレヴァー城の『霊導統括』を行っている。つまり………







 この、クレヴァー城自体が巨大な『霊導具』であるということである。







 その事実を知ったのは白い光りが消えた後に現れた、『アテナ』の説明によって知った。そしてアテナ自身もまた、自分を『霊導脈制御用全自動人形』と称することや、見た目が人間とは異なり、耳が機械でできている感じだったことから彼女が人間でないことが分かった。



「10号機、11号機の発射準備完了。標的、所属不明武装集団。距離、1200。………発射」



 アテナの号令で2門の砲門が轟音を発して青白い光線が賊に向かって発射された。そして間髪入れず立て続けに大地にクレーターを作った。



「ユ、ユユユユウキ様! およ、お呼びで、ですか、はい!」

「ニコルか、『風話』で南門前で待機しているアレインたちに連絡したいんだが……… アテナ、あの中から敵指揮官を割り出せるか」

「可能です……… 現在敵影解析中………」



 アテナは手を耳にかざすような姿勢で瞳を閉じて集中しているようだった。



「………解析完了。現在武装集団は催眠状態にあり、霊力の流れから前方の騎乗に黒いローブを纏った者とその傍らに侍る従者らしき人物が敵指揮官の可能性が高いです」

「だ、そうだ。それをアレインに伝えてくれ」

「りょ、了解です、はい!」



 ニコルはすぐに腰から短杖を抜き出し、『風話』の準備に取り掛かった。



「アテナ、砲撃は一旦中断して、引き続き索敵を続けてくれ」

「了解です、マスター」



 俺は軋みながら開く南門の音と、アレインたちの鬨の声を聞きながら眼下の戦場を見下ろした。









    クレヴァー城、南門前戦場ーーーー









 南門が開くと、ウィリアムたちは眼前の戦場に向かって駆け出した。鬨の声を上げながら、兵は武器を構えながら賊に突撃していった。



「ふっ」

「ぐあっ!」



 ウィリアムは騎乗のままで愛槍を振り下ろし、賊の一人を切り伏せた。槍に付いた血を振り払いながら、周りを確認した。



 部隊隊長のアレインは騎乗のまま声を上げて指示を出し、ロングソードで飛矢を防いで兵たちを鼓舞していた。



 獣人戦士であるフェイやクロウ、リン、アヤノは風が駆けるように移動して、それぞれの得物で次々と賊を屠っていった。



 グレイやベラは指揮下の兵を率いて敵を掃討し、フェリアードは弓兵を城壁の上に配置し、精密射撃を繰り広げた。



 逃亡の疲れがあるかと思ったが、皆が善戦している光景を見てウィリアムはニヤッと笑った。



「ウィル、どうしたの?」



 騎乗して駆け寄って来たイリアが笑みを浮かべるウィリアムに尋ねた。



「いやなに。我らはどうにも戦場とは縁が深いと思ってな」

「ふふっ、そうね。私達が出会ったのも戦場だったわね」

「………なぁ、イリア」

「………なに?」

「私のことを、愛してるか」

「えぇ、愛してるわ」



 ウィリアムとイリアはお互い見つめ合うと、どちらからでもなく、口づけを交わした。



「……… あら?」

「ん、どうした」



 顔を離しながら、イリアはあることに気付いた。



「あれって、連絡のあった黒ローブじゃないかしら」

「なに!」



 ウィリアムは振り返ると、こちらに向かってくる賊の中に騎乗で黒ローブの者がいた。傍らには不気味に輝く角笛を引っ提げた従者が付き従っていた。



「それじゃあ………」

「うむ」

「「新郎、新婦の共同作業といこう!!!」」









    ーーーーウィリアムとイリアは笑い合いながら、敵に向かって駆けて行った。

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