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黒之戦記  作者: 双子亭
第1章 戦火の花嫁
21/33

『クレヴァー・ロータスの戦い』第2話

    クレヴァー城跡ーーーー









「………うっ、ここは」



 目覚めが知らない部屋という状況はこの世界に来た時以来だと少し感慨深く思っていると、自分が今、どういう状況に置かれているのかを思い出し始めた。そして俺はベッドから起き上がろうとすると、



「くっ?!」



 左肩が熱く痛んだ。



(この展開、パターン化してきたな………)



 俺は左肩を抑えながら、ベッドを抜けると部屋の扉を開けた。





 扉を開けると御光が差していた。俺にもお迎えがきたか、と冗談をかましつつ、俺は周りを確認すると、どうやらクレヴァー城内の広場に面する二階の部屋の一つのようで、他の部屋は崩れていたりと使えるようには見えなかった。



 手すりを掴んで下を見ると、広場の隅に馬車がかためられ村民や流民たちが肩を寄せあっっており、元気の塊である子供たちが疲れきったような顔をしていたり、若い娘がすすり泣く様子を見ると心を締め付けるような気持ちになった。




 また別の隅では大きな机が置かれ、その周りを囲むのは先の戦いを戦い抜いた勇姿たちだった。



「………あっ、ユウキ!」



 その中の一人、リンが俺に気づき、俺の側に駆け寄ってきた。



「ユウキ! もうケガはいいの?」

「ああ。少し痛むが問題ない」


 俺は崩れかけた階段を下りながらリンに答えた。物資の確認をしていたニコルも駆け寄ってきた。



「ユ、ユウキ様! だ、大丈夫ですか! おケガは!」

「ありがとう。大丈夫だ」



 ニコルに答え、俺は皆が集まる作戦指揮台の輪の中に加わった。



「俺が気を失ってからどれくらい経ったんだ?」

「はい、ちょうど6時間くらいだと思います」



 答えたのはベラだった。6時間、結構な時間寝ていたんだな……… 俺は軽く頬を叩いて意識を覚醒させ、皆に尋ねた。



「それで、敵影は?」

「はい、城の周りには目視で敵影は確認できませんでしたが………」



 そこで、俺以外の者たちがお互いの顔を見合わせた。



「? どうした」

「………失礼ながら、上流に兵を使わされたのはサイトウ殿か?」

「あぁ。リンに頼んで上流に兵を配置した」

「………お尋ねしたいことがあります、サイトウ殿」

「なんだ?」



 ウィリアムが代表して俺に尋ねてきた。



「サイトウ殿が撤退して賊が半渡の時、上流から鉄砲水が襲いかかり、殆どの賊が押し流されていきました」

「上流から戻った兵に聞くと、上流に土で出来た堰があり彼らはそれの破壊を命じられたと言ってました」

「………」



 …………だいたい、何を聞きたいのか分かった気がする。



「元より、ユウキが上流に向かってから川の水位が不自然に下がっていった。ユウキ、何かあったのか教えてくれないか」

「………」



 どうしようか。『能力者』の能力(ちから)を話していいものか、どうか悩むな。ここにいる者たちは信用できると思うが、聞いたことで何かに巻き込まれるかもしれない。



 それに、ちらほらとこちらを見る団員や村民がいるが、この中に賊がいるとも限らない。簡単に開示するべきではないだろう、と俺は考えた。



「すまないが、今の段階では言えない。しかし、川の水を減らしたり、鉄砲水を生み出したのは私が原因だ、と言っておく」

「………」



 嫌な沈黙が続く。正直、ここまで命を賭けた戦いをしてきた仲で隠し事をするのは心苦しいものを感じた。



 そんな空気を変えてくれたのは、イリアだった。



「皆さん、サイトウ様にだって言えないことはあります。それに今回、サイトウ様のお陰で私たちは生き残れました。なのでこれ以上詮索するのはやめましょう」

「………そうですな。それよりも次の敵に備えるべく策を練る必要があるでしょう」



 グレンがそう言うと皆頷き合い、再び卓上の簡易に作られた地図に目を落とした。



「さっき”次の敵”と言ったが生き残りが攻めて来ているのか?」



 俺の問いかけに答えたのは、アレインだった。



「いや、ロータス村方面から新たな大部隊がこちらに向かって侵攻していることをニコル殿が『風の報せ』で探り当てた」

「本当か!」

「は、はい。かなりの数の集団がこちらに近づいているのは確かです、はい」

「そうか。城の耐久は確認したか?」

「はっ。それが、この城なんですが壊滅的に耐久がない」

「……………は?」

「壁は”申し訳”程度で、門も東西南北に4つあり、4つとも全壊しており今は兵士を置いて警戒に当たらせている」

「…………」

「しかし、ロータス村よりは賊の攻撃を耐えられるだろう……… して、ユウキ。これからどうする? 援軍の到着まで今日を合わせ3日はもたせないといけない」



 俺はしばらく考えると、



「………ニコル、フェイ、クロウ、グラン、アルテミス殿、兵を指揮して馬車を解体して4つの門を塞ぐように配置してくれ。足りないようならこの城にも廃材がそこら中に転がっている。石、廃材使えるものを全て使って門の封鎖・壁の補強を早急に行なってくれ」

「「「「「はっ!」」」」」



 敬礼すると指示を受けた者たちは各々散っていった。



「………はぁ、アレイン。賊の到達はいつぐらいになる」

「今夜には敵影が見えるようだ」

「…………」

「ユウキ、どうした?」

「今まで考えてたけど、改めて賊の狙いが何かなって」

「ただを村を襲うのであれば、我らを襲うのは変な話しであるな。ならば奴らの狙いがここにあるのか」

「………あるいは、ただ殺しが目当て、か」

「殺人狂集団か。願わくば、相手にしたくないな」



 俺とアレインは深い溜息をついた。









    クレヴァー城跡、城内広場ーーーー









 フェイたちの指示の下、東西南北の門に急遽、バリケードが作られ、崩れた城壁には兵が配置できるよう土台を整えたりなど、兵と避難民とともに汗を流しながら作業を進めた。日は傾き、空が赤く染まり始めた。



 その頃になると、南の方角の大地に黒い影がこちらに向かって進行してくるのが分かった。その光景は修復活動している避難民や流民たちの目に入っており、彼らの中の不安を駆り立てていった。



「お、おい、あれって……」

「盗賊どもがあんなに」

「こんな所にいて大丈夫なのか?!」

「あたしたち大丈夫なの」



 あちらこちらから不安や怯えを含んだ声が聞こえてくる。このまま放置していれば収拾がつかなくなってしまうだろう。



(………………)



 だが、俺は彼らを励ます言葉、いや、彼らの気持ちを変えられるような言葉をかける言葉が喉から出て来なかった。この場で指揮官である自分がこの悪い雰囲気を変えなくてはならないが、



(………………)



 何故だか言葉が出てこなかった。握り拳を作り、ただじっと階下の様子を見つめることしか出来なかった。









 そんなユウキの姿を、夕餉の用意をしていたイリアは眺めていた。そして丁度、食料を運んでいたウィリアムに声をかけた。



「ねぇ、ウィル。サイトウ様はさっきから悲しそうな御顔でこちらを見てるけど、やっぱり彼らの声が原因かな?」

「うむ、そうだな。この隊の隊長はサイトウ様だ。初陣ではあるが、長として彼らを勇気付けたいと思うが相応しい言葉が見つからないのだろう………」

「………ねぇ、ウィル。ちょっと………」

「ん?」



 手招きをされ、ウィリアムはイリアに近づいた。



「……………っていうのはどうかしら?」

「イリア、君は時々、とてつもないことを言うな」

「でも、私はいいと思うわ」

「………はぁ、わかった。アレイン殿に相談してみよう」

「フフッ。ありがとう、ウィル」



 頬を掻きながら、どこか照れたような表情をする恋人を見送りながら、イリアはこれからのために早速準備を始めるのだった。









 日も落ち、あたりが薄暗くなってきた頃、俺は気がついた部屋で相も変わらず地図を見つめていた。新たな可能性を見つけるためか、あるいは民の声を聞きたくないだけか、今はそんなことも考えることおもなくなった。



 明かりを求めて、部屋を出ると、外が騒がしいことに気付いた。



 不審に思い、部屋から出て階下を覗いてみると、休憩中の兵士が忙しなく動き回ったり、避難民たちが何かをせっせと用意しているように見られた。



(何やってるんだ?)



 兵士たちには見張りと周辺の偵察以外の指示をだしていない。俺は階段を降りたら、近くを通った兵士に尋ねた。



「何を皆、動き回ってるんだ?」

「あ、ユウキ様。今はウィリアム殿とイリア殿の結婚式の準備をしているんです」

「はっ?!」



 兵士は俺にそう応えると、足早に作業に戻っていった。



(け、結婚式? この事態に?)



 俺は現状を受け入れられなかった。もうすぐ大量の賊が着くというのに結婚式を開くという、正気を疑うような出来事に俺は軽い目眩いさえ覚えた。再び周りを見ると、今度はアレインを見かけたので確認したら、



「あぁ、そうだな。俺はそう聞いている」

「……………何故許した」

「士気の変化に繋がると思ったからだが」

「敵が目前に迫っているのに、か!」

「ならばこそだ」



 俺の怒気を含んだ声に、アレインは俺をしっかりと目で取られて言った。



「ユウキ、兵力も物資もないこういった状況だからこそ、暗い気持ちを切り替え、敵に臨むのが定石だ。結婚式という発想は独創的だが、良いきっかけになると思って………」

「ユウキ! もうすぐ結婚式始まるよ!」



 アレインが言い終わるより前に、リンが大声で遮った。リンの方を見ると、立会人らしきジークリンデの前に身だしなみを整えた新郎のウィリアムと、花冠を冠った花嫁のイリアが並んで立ち、その周りを兵士と避難民が囲むように思う思う立ったり座ったりしていた。彼らの表情は先に見た暗いものではなく、明るく見えた。だが……………



「くっ!!」

「ユウキ?!」



 リンの声を背後に聞きながら俺はその場から逃げた。なぜなら俺は彼らの表情が無理やり作った笑顔に見えたからだ。



(なんで、こうなった)



 村で迎撃しなかったから?



(いや、違う)



 俺が『能力』を使えばもっと良い状態で迎えれたはず。



(なぜ使わなかった?)



 親しい者、弱き者にいらない迷惑がかかるから。



(本当に?)



 いや、違う。俺自身が『能力』を使って狙われるのが怖かったから。



(だが、どうする?)



 決まってる。



 俺はイリーナ様から頂いた『メナスの短剣』と『王の指輪』を握りしめ、クレヴァーで一番高い塔を登り最上階に着くと俺は地面に短剣と指輪を置き、そして集中すると両の手を地面に押し付けた。









    ーーーーこれが後に『クレヴァー城』の礎となることに、ユウキはもちろん誰もが想像することはできなかった。

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