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黒之戦記  作者: 双子亭
第1章 戦火の花嫁
20/33

『クレヴァー・ロータスの戦い』第1話

投稿が遅れてしまい、すみませんでした。


    ロータス村ーーーー









 つい先程まで輝いていた月は雲に隠れ、暗い闇夜を赤かと照らすのは民家を燃やす戦火。村の中は昼のうららかな様子とは変わって、喧騒に満ちていた。

 押し入ってきた盗賊たちは、最初、近くの民家や店を襲ったが誰もいないこと、金目のものもないことを不審に思い始め、勢いが弱まってきた時だった。



「「「うおおおおおぉぉぉぉぉっっ!!!!」」」



 民家の脇や物陰から突如、武装した獣人が切りかかってきた。盗賊たちは驚きつつも獣人たちの攻撃に対処した。辺境の村ならば、村人として獣人が暮らしていることは然程珍しいことでもない。村人の中で力のある者が抵抗していると考えていた盗賊たちだが、徐々にその顔を油断しきったものから苦痛に歪めていった。



(クソッ、何なんだコイツら! ただの獣人じゃねぇぞ!!)



 獣人たちはまるで歴戦の戦士が如く、盗賊たちと戦っていった。2人1組となって着実に相手を倒していき、ある時は風のように退き、ある時は果敢に攻め込み、勢いで言えば盗賊たちを凌駕する程、彼らの攻め方は苛烈を極めていた。そんな姿を目にした盗賊たちは徐々に恐怖を覚え始めていた。




 しかしながら数で言えば盗賊たちが遥かに上回っている。




 どれだけ倒しても次々と盗賊たちが現れ、獣人たちに挑みかかっていった。戦闘は村全体で行われていたものが、いつのまにか教会前広場まで狭まれ、獣人たちも体に傷を負い、疲労で動きが鈍り始めていた。



 フェイはそんなことを想定しており、いや、彼が想定しているよりも大分時間を稼げたと思った彼は、5人がかりで攻撃してくる盗賊たちを一薙して、後ろに向かって叫んだ。



「おい、竜人族の! 出番だ! やれぇっ!!!」



 フェイの叫び声とともに、リンは教会から飛び出ると盗賊たちが固まる所を愛用の武器戦斧(ハルバート)で一閃、盗賊たちはまとめてそのまま民家の中へ吹っ飛んだ。



「こ、こいつは!!」

「あの頭の角、龍角!!」

「竜人族が何故ここに!!」



 広場にいる盗賊たちは突然の竜人族の登場に慌てだし、中には逃げ出す者もあらわれた。敵が浮き足立ってるのを確認したフェイは大声で命令した。



「竜人族の! 道を開け!」

「………ん」

「クロウ! 俺と道を広げるぞ!」

「おう!」

「残った奴らは全力で走れ!!」

「「「おうっ!!」」」



 アヤノを先頭にロータス村に残った者たちは一同、道を駆け抜け、北へと逃れていった。









    クレヴァー城跡、近隣を流れる小川ーーーー









 フェイたちを時間稼ぎのために村に残し、俺、アレイン、ウィリアム、リン、イリア、ジークリンデ、フェリアード、グラン、ベラ、ニコルはロータス村の村民や流民たちを女子供、負傷者は馬車に乗せ、その他の者は歩きや馬で北に向かった。ロータス村から北に向かうと古い城跡があり、昔は『クレヴァー城』と呼ばれていた。今ではその殆どが崩れ落ちているが、外壁はしっかりと残っており、一部の建物はまだ雨風を防ぐことができる。



 すでにニコルが領都に報告をしており、時間稼ぎをすれば、領都から応援が来る。しかしロータス村では賊の攻撃に耐えられないのは明白だったので、村民・流民を連れてここまで逃れてきた。



 馬上で振り返ると、ロータス村の方面の空は赤く染められている。赤く照らされ始めてから1時間くらい経っているが、賊共が近づいてくる気配がない。ただの大規模な盗賊団であるならば、可能性としては俺たちを見逃してくれそうだが、ここ最近の襲撃を考えるとそんな甘い考えが通用しない連中であることが嫌でも考えられてしまう。



 視線を前に戻すと、今は村民と流民の渡河の最中だった。元々、クレヴァー城跡までは道無き道をひたすら駆け、最短距離で来たため最寄りの橋まで遠回りすることができず、浅いと思われる所を探し、今は馬車を村民と流民たちが押したり引っ張ったりして渡っている途中だった。



 だがこの渡河で結構な時間を掛けてしまった。



 元々、ここまで碌な休息も入れず、移動し続けていたので、体力のない村民や流民たちは疲れ果てており、今は戦士や騎士たちもずぶ濡れになりながら馬車を押していた。



(やっぱりここで馬車を捨てるべきだったか………)



 俺はリンを供にして上流へ向かい、『錬成術士』の能力を使って簡易なダムを作って水量を減らしたが、それでもぬかるみなどで足を取られるなど思ったように進まなかった。



「サイトウ隊長! 後方から敵影! 数300騎!」



 斥候で放っていた者が駆け寄って来て、敵が近づいて来ていることを報告した。



「アルテミス殿! 頼みます!」

「了解した! 全騎士団員、私に続け!」

「「「はっ!」」」



 ベラは自分の配下を集めた後、迎撃のため南へ向かって馬を走らせた。



「フォルナンスさん、ニコルを補佐に付けますので村民と流民を率いて先にクレヴァー城跡に向かって下さい」

「あなたはどうするんですか?」

「私はここに兵を布いて賊の迎撃を。多分敵はこれからたくさん来るでしょう。なのでここでそれを足止めしますので、早く城跡へ」

「………分かりました。フェリ、ニコルさん、民を急がせましょう」

「分かりました」

「はっはい!」



 3人がクレヴァー城跡側の岸にたどり着いて民を率いていくのを確かめると、俺は指示を出した。



「アレイン、重装兵を率いて川を渡り対岸で陣を張れ」

「はっ」

「ウィリアムとイリアは残った騎兵で賊を迎撃、アルテミスの騎士団が撤退後に川を渡り対岸に向かえ」

「応」

「はい」

「グレンは槍兵・剣兵を率いて川岸付近で迎撃、号令とともに敵を引きつつ渡河せよ」

「御意」



 指示を出し終わった後、皆それぞれの任務を全うするため散っていった。



「………それで、ユウキ私たちはどうするの?」

「そうだな、俺の率いる弓兵は初撃を与えたらそのまま川を渡らせる。乱戦になると弓兵は戦えなくなるからな。そうだ、リン」

「なに?」

「何人かを上流の堰に向かわせて、合図があったら破壊するよう伝えてくれ」

「わかった」



 リンは近くにいた者に指示を出すと、その者は数名の者と上流へと駆けて行った。



 俺は周りを見回すとすでに兵は整列していつでも迎撃できるよう準備が出来つつあった。さらに南へと視線を移すと、アルテミスの率いる騎士団が300騎を相手に勇猛に戦っている姿が見えた。



(これが戦い、か………)



 辺り一面を支配する緊張と興奮がひしひしと全身に伝わることを感じながら、俺は己の弓と矢を構えた。









    侯爵家騎士団と盗賊騎兵団の戦場ーーーー









「はああああっっっっ!!!!」

「ぐあっ」



 アルテミスの一閃で一騎の盗賊騎兵はそのまま地面に切り落とされた。そこに一騎の騎士が駆けてきた。



「副団長! 賊の騎兵隊の全滅を確認しました!」

「了解。こちらの被害は?」

「はっ、死者はいませんが、負傷者が多数、また馬も疲労が重なっているのでこれ以上は」

「わかった、負傷者は下がらせて残りは”あれ”の対処をする」

「あれ?」



 騎士が振り返ると、そこには多数の盗賊たちがこちらに向かって押し寄せていた。手に手に得物や篝火を持った彼らはこちらに向かってくるのが津波のように押し押せてきた。



「ロータス村の獣人たちは失敗したのでしょうか」

「失敗したかどうかは分かりませんが、目の前に迫る敵は事実です。我々はあれを抑えなくてはなりません」

「我らで抑えきれるでしょうか、アルテミス副団長」

「無理でしょうね」

「なっ!」

「しかし、私たちでできる限り数を減らしましょう。伝令、騎士団は整列した後、あの盗賊団に突撃をします。準備を」

「は、はい!」



 騎士はアルテミスに敬礼した後、他の騎士に伝令するため駆けて行った。アルテミスは再び賊を眺めた。



(覚悟を決めるか………)



 アルテミスは自身の槍を握り直し、自身を鼓舞したが、不意に賊の後方が赤く照らし出されているのに気付いた。あの赤はロータス村の戦火ではない。あれは………



(あれは、いったい………)



 確かめようと目を凝らした時だった。





 雷が落ちたような爆音が辺りに轟いた。





 そして、目の前に迫っていた盗賊団が四方へ吹き飛んだ。



「…………」



 アルテミスは開いた口が塞がらない状態だった。そして一迅の疾風が脇を駆けたかと思うと自分の横には………



「………着いた」

「………エイジアス殿、ですか」



 半ば呆然としながらアルテミスは呟いた。しかし、眼前の敵が勢いを取り戻したことをきっかけに我に帰ったアルテミスはアヤノに尋ねた。



「他の獣人の方々は?」

「………もうすぐ、来る」

「そうですか。ユウキ殿はこの先の川岸にいますよ」

「………ん、わかった。でも」



 アヤノはハルバートを構え直した。



「………こいつらを倒したら行く」

「ご助力感謝致します」



 アルテミスはアヤノに一礼すると敵に向き直った。



「………全団員、突撃!」









    ロータス村側川岸、サイトウ陣ーーーー









「サイトウ隊長、迎撃準備整いました!」

「了解した。号令があるまで全隊待機」

「はっ!」



 伝令が一礼して配置に戻る後ろ姿を見送ると俺は傍らに佇むリンに尋ねた。



「堰の方は準備はいいか?」

「えぇ、合図があればいつでも」

「よし。グレン、敵の様子はどうだ」

「はっ、今もアルテミス殿率いる騎士団が勇戦しており、すでに賊の騎兵隊は壊滅、エイジアス殿も加わり歩兵隊の迎撃しておりますが、騎士団の疲労が見え始めているのでもう直限界かと」

「わかった」



 そして再び敵を見ると、何故かロータス村で時間稼ぎしていた獣人部隊が賊の中で暴れていた。



(あいつら、元気だな………)



 半ば呆れながらその光景を眺めていた俺は、撤退し始めた騎士団を確認し、ウィリアム・イリアに号令をかけた。



「騎兵隊、攻撃開始っ!」

「「「おおおおおおっっっっ!!!!」」」



 騎士団と獣人部隊の撤退に続くように侵攻する賊たちの追手をウィリアム・イリアがそれぞれの騎兵を従えて、左右から撤退する部隊と切り離すように攻め上げていった。



 ウィリアム・イリア率いる騎兵隊の攻撃の隙に騎士団と獣人部隊はサイトウ本隊へと向かって行った。



「サイトウ殿、申し訳ないが馬が疲れきっているのでこれ以上戦闘はできない!」

「ユウキ! 俺たちもだ! 戦ってここまで突っ走ってきて皆限界だ!」

「わかった! 2人とも川を渡って城跡に向かってくれ!」

「はっ!」

「応っ!」



 2人は応えると、部隊を率いて川を渡っていった。その様子を確認したウィリアム・イリアは自らが殿(しんがり)となって続いて川を渡って行った。



「ユウキ、あいつらこっちに向かって来るわよ!」

「ああ。弓兵隊! 第一射、構え!…………………………撃てっ!!」



 弓兵隊が引き絞った矢は放たれると弧を描きながら夜空を飛び、勢いを殺さず賊の集団へと降りかかった。時が夜ということもあり、賊徒は避けることも盾を構えることもなく体を貫いていった。



「ぐあっ!?」

「うぐっ!」

「なっ! くそ! どこからっ、うっ!」



 バタバタと仲間が倒れる中、そんなことにも動じず、ひたすらこちらに向かって突撃する賊徒たちは数は減っても退却する兆しは見られなかった。



「第二射、構え!…………………………撃てっ!!」









    クレヴァー城跡側川岸、アレイン陣ーーーー









 アレインは重装歩兵を率いて川を渡った後、川岸から少し離れた、小高い丘の上に陣を張った。ここはユウキ達の陣とクレヴァー城跡の間に位置し、自然と両方の様子を見ることができた。



「報告致します! 獣人部隊、騎士団が無事渡河致しました!」

「うむ」



 獣人部隊と騎士団が陣の脇を通る様子を横目に見ながら、騎乗のアレインは再び前を見た。



 対岸では第二射が終わり、弓兵隊が続々と川に向かって隊列を組んで駆けて行く所だった。だがしかし、弓兵隊を指揮していたユウキは動くことはなく、そのまま護衛のリンとともに残っていた。



(最後まで見届けるつもりか………)



 アレインはため息を付くと、隣りにいる副官に命令を下した。



「城に向かったフェイに伝えよ。まだ使える兵をかき集め、再編し待機するよう」

「しかし、フェイ隊長は帰還したばかりでは?」

「そう悠長なことも言ってられない。迅速に伝えよ」

「はっ!」



 副官は敬礼すると馬首を返して急いでクレヴァー城跡に向かって駆けて行った。



 川を挟んだ対岸では弓兵隊の撤退と同時に賊徒と剣兵隊・槍兵隊の苛烈な戦闘が始まった。怒号や悲鳴、剣戟のぶつかり合う音が対岸であるにも関わらずよく聞こえた。よくよく見れば、何故か竜人族の女戦士もユウキの周りでリンとともに奮闘しており、グレンも絶えず檄を飛ばし味方の士気を上げている。



(だが、苦しいな………)



 あるいは加勢に加わるか、と考えているとユウキたちの部隊は徐々に後退し始めたかと思うとそのまま陣を崩しこちらに向かって敗走し始めた。



(作戦は失敗か!!)



 焦ったアレインは戦闘準備の号令を下そうとしたが、突然、ユウキたちがいる辺りから一発の『火炎弾』が上空に放たれることを確認した。



(あれは、いったい?)









    渡河中、サイトウ陣ーーーー









「ユウキっ! 合図を上げたよ!」

「わかった! 全隊! 足を止めるな! 撤退、撤退っ!」

「「「おおおおおおおおっっっっっ!!!!!」」」



 俺は馬上で叫びながら、川を渡っていた。水飛沫を上げ、全身がずぶ濡れになりながら必死に川を渡る兵士とともに俺は馬を駆けた。殿(しんがり)にアヤノを置き、兵士たちには武器を捨てさせ、死に物狂いに駆けさせた。



(だいたいが渡り終えたか?)



 俺は半ば渡り終えてから振り返ると、不意に肩に衝撃と熱を感じた。



(な、なにが……?)





 そして、


 肩を見ると、


 黒い羽の矢が、


 左肩に、


 突き刺さっていた。





「うっ!!」



 あまりの肩の痛さにバランスを崩し、俺は馬から落ちてしまった。川岸の水が打ち寄せる中、俺は何とか起き上がろうとするが、体はビクとも動かなかった。



「くそ………」



 おそらく何らかの霊術が施されているのだろう、矢が先ほどから淡く赤く光っていた。徐々に視覚・聴覚も朧げになりつつある中、



「た、隊長ーーーー!!!」

「ちょ、あんたそんな所で何倒れてんのよ!!!」



 2人の声を聞きながら、意識を手放した。









「隊長! 隊長! しっかりしてください!」

「この矢、とんでも無い霊力を感じる…… それに気持ち悪い。どんな奴がこんなものを」

「おい、そこの者たちさっさと……!! ユウキ!!」



 リンは己の護衛対象が泥まみれになりながら、顔色悪く横たわっているのを見た。あまりの衝撃にリンは男の言葉がかかるまで、しばらく考えることが出来なかった。



「リン副隊長! 隊長が息をしているのですが、全く動きません!」

「! 私が敵の攻撃を防ぐから、お前たちはユウキを担いで撤退して!」

「「はっ!」」



 2人がユウキを両肩に担ぐと、リンは後方を注意しながらユウキを庇うように撤退していった。



(もう少しで、あともう少し頑張れば………)









    ーーーーリンは心の中でそう願い続けていた。そして、それに応えるかのように、踏みしめる大地が低く唸り始めていた。

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