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黒之戦記  作者: 双子亭
第1章 戦火の花嫁
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『竜人族の戦士』第1話

投稿遅れてすみませんでした。

何とか4月中に投稿できてよかったです。

    ラインバレル地方イスタナ村ーーーー









「えい! やあ! えい! やあ!」

「全隊やめ! よし、小休止の後、戦術訓練に移る。各自準備を怠らないように!」

「はっ!」


 訓練兵が使い込まれた鎧を纏い、日に焼けた褐色肌に流れる汗が、拭われることなく太陽の日に煌きながら流れていく様を遠くから眺めているのは、今回の依頼主であり、領主代行としてイスタナ村に赴いていたユウキ・サイトウである。



「ユウキ、お茶、出来たわよ」

「ん、ありがと」

「ねぇ、ここに来てからもう1週間くらい同じようなことをしてるけど、訓練兵、本当に大丈夫なの?」

「それは俺なんかに聞くより、赤猫戦士団三位の戦士のリンの方がよく分かるんじゃないか」

「まぁ、確かに足の運びや重心移動もマシになってきたけど、もっとこう、いろいろな陣形を練習したりするものだって思ってたから」

「あぁ、まぁそういうのもできたらいいけど、基本の動き、前進・後退・攻撃が合図とともにできることが原則だからな。彼らにはそれをしっかり”体で”覚えてもらわないと」

「ふぅん」

「だが、仮に戦闘があったとしても俺自身が初陣だし、そんな手の込んだことはできないよ」

「………えっ、あんた戦争に出るつもりなの!」

「あぁ、そうだが」

「な、なんであんたが出るのよ! アレインにでもやらせておけばいいでしょ!」

「リン」



 リンの言葉を遮って、俺はリンの方へ向き直った。



「この時勢、戦いに全く関係ない人なんていないし、経験できるならみんながいる戦いを初陣にしたいと思うのは、だめか」

「いや、だめじゃないけど………」

「それにリンも一緒に来てくれるだろ?」

「あ、当たり前よ!」

「ならいいだろ……… それより、ニコルの姿が見えないけど、どこにいるんだ」



 ユウキは今、イスタナ村で空き家を借りてそこで生活をしている。家は村の広場に面していて、今も一階のリビングから調練の様子を見ているのだが、普段リビングでたむろしているニコルの姿が見えない。



「ニコルなら朝早くに出て行ったわよ」

「どこに?」

「それは…… あ、帰ってきたみたいよ」



 そう言うと玄関の方を指差した。扉を開いて姿を表したニコルは疲れ切った様子だった。



「ニコル、朝早くどこに行ってたんだ」

「………あぁ、ユウキ様。おはよう御座います…… えっと、僕はちょっとウィリアム殿の所へ行ってまして、はい」

「そうか、疲れている様だが大丈夫か?」

「はい…… ちょっと休めば、はい………」



 そう言うと、足取り重く二階へと上っていった。



「……何なんだ、あいつ?」

「さぁ?」









 お茶を飲み終わった後、俺は仮住居を出て村長の家へと向かった。日はもうすぐ頂上に届きそうという時間帯で、通りを歩く人の数も増えてきた。イスタナ村はラインバレル地方の村々とリトルベルクを結ぶ、いわば”ハブ”村としての機能もある。なので人が集まり、宿屋や飯店などの施設や治安維持のための自警団などが発達している。今も道を歩いていると帯剣して同様の鎧を身に付けた男たちとすれ違うことがある。



 通りを進み、村の中心へと来た俺は目的の家の前に立っていた。2階建ての家は村の中では一番立派な造りをしており、周りは塀に囲まれていて、門には兵士が番をしている。



「ユウキ・サイトウだ。村長に会いに来た」

「はっ。どうぞ、こちらへ……」



 兵士たちに案内された場所はこの村に初めてきた時に通された客間で、そこにはすでに村長が椅子に腰掛けて待っていたようだが、俺が部屋に入ると立ち上がって笑顔で迎えた。



「サイトウ様、お待ちしておりました。さぁ、こちらに……」



 席を勧められ、俺は村長の対面に腰掛け、早速用件を切り出した。



「今朝早くに村長の使いの者が来られて、言伝てと数枚の資料を渡されました。中身を確認させてもらいましたが……… あれは、本当なんですか?」

「はい……… 信じたくはないのですが、事実です………」

「そうですか。"イスタナ村近郊の街道で隊商が襲われ、護衛の傭兵と雇い主の商人の遺体が見つかった"ですか……… こういう事態を防ぐために私はここに来ているのに、何もできずに報告を聞くというのは、何とも悲しくなります。そこで村長に頼みたいことがあります」

「は、はい、なんでしょうか」

「傭兵たちを連れて襲撃現場に行きたいと思うのですが、その間は訓練が出来なくなるかもしれないのですが、よろしいですか」

「はぁ、それは構わないのですが、何故そのような所に?」

「いろいろと確認したいことがあるんですよ」

「分かりました……… あぁ、それとイリーナ様よりサイトウ様宛のお手紙を預かっております」



 そう言うと村長は蝋で封がしてある手紙を渡し、俺は受け取って封を解いて手紙を読んだ。



「………はぁ、何と間が悪い」

「どうかなさいましたか」

「ロータス村という名の村をご存知ですか?」

「確か西部の村だと思いますが」

「その村に医者と薬を運んで欲しいとのことです。何でも盗賊の襲撃があったと辺境部隊の風霊術士からの【風話】でリトルベルクに通達があったと」

「ロータス村もですか!」

「あそこは南の国境とも近いから南の獣人族の可能性もありますが、詳細がまだ分からないですね」

「………そのロータス村でお伝えしたいことがあります」

「はい?」

「リトルベルク傭兵ギルドマスターのバーデン殿の依頼を受けた隊商がロータス村に向けて出立したいと、先程もここに訪れておりました」

「出立したい?」

「襲撃の後は村外出立禁止令をしいておりまして、この村にいる隊商は皆足止めを食らっている状況です」

「なるほど。それで急ぎの理由は」

「何でも依頼の品物を期日までにロータス村に送りたいと。隊商の長である商人には盗賊のことを話したのですが、それでも、と」

「ふむ、分かりました。それについても私の方へ顔を出すように伝えてください」

「はい、そのように伝えます」



 その後いくつかの打ち合わせをした後、俺は村長の宅を後にした。



 確かに村長の言う通り、俺は借家に戻る途中いくつかの宿を通ったがどの宿でも馬車に荷を載せ、商人や傭兵らしき者たちが手持ち無沙汰にしている様子が窺える。"村外出立禁止令"と言っていたが他の村でもそのような指示が出ているとは思えないが、盗賊被害がいつまでも続くと領内の物資の行き来にも影響が出てくる。



(本当に早く片付けないとヤバいな)



 いつになく多少の焦りを感じながら、俺は借家へと急いだ。









    イスタナ村、村長宅ーーーー









「………あの方は帰られましたか」

「ん、あぁ、お前か。先程帰られたよ」



 領主代行としてこのイスタナ村に来られているサイトウ様をお見送りした儂は、自室に戻り一休みしていた所、妻が茶を持って儂の部屋に来た。



「また難しいお話ですか?」

「む、分かるか」

「えぇ、もう何年もの付き合いですもの。分かりますわ」



 そう言って妻は茶を机に置いた。儂はその茶を一口飲み、レーム茶独特の苦味が口の中に広がっていくのを感じた。



「あら、少し濃く入れすぎましたか?」

「いや、茶はいつも通りだ。ただ悩みの種の所為でこのような苦い顔になる」

「?」

「実は………」



 儂は盗賊の一件を妻に話し聞かせた。最初は普通に聞いていた妻も隊商の全滅という所では顔を青白くした。



「何と酷いことを………」

「うむ、賊の行いでも許されることはないが、これはそれ以上だ。サイトウ様のお話だと他でもこのような被害がでているとか」

「まぁ」

「サイトウ様はそういった状況を打開するためにこの村に来られている。儂も老体に鞭打ってでもお支えしなくてはならない」

「……………」

「ん、どうした?」



 ふと、静かになった妻の顔を見つめた。



「サイトウ様……… 本当に変わったお方ですね」

「こら! そのような口を……」

「ふふ、すみません。でも、あなたもそのように感じているのではなくて」

「……まぁ、そうだな」



 確かにあの方の噂は兼ねて聞いていたが、実際会ってみるとやはりどこか貴族としては異彩を放っているように感じた。



「伝承では黒髪をもつものは影の女神『デルフィニア』の加護を受け、惨忍な気質をもつとされていたが、あの方はむしろこの惨たらしい状況を変えようと尽力なさっている」

「貴族としても本当だったら私達の家を開放しなくてはならないのに、進んで空き家に拠点を置くなんて、貴族の方はもっと横暴な方が多いと聞いてましたが、そのような感じもありませんでした」

「ふむ、本当に不思議な方だな、サイトウ様は」



 儂はレーム茶をもう一杯飲んだ。今度はいつも通りの心地よい苦味が口の中に広がっていった。





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