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黒之戦記  作者: 双子亭
第1章 戦火の花嫁
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『きざし』第2話

    イリーナの館、ユウキの自室ーーーー





 自室に戻った俺は扉を開いて一番に思ったことは、



(何だこの匂いは………)



 そう、なんとも言えないいろいろなものが混じり合ったこの匂いの中でとてもでないが政務などできるわけがないが、自分の2人の部下は黙々と書類制作を行なっていた。その内の一人が俺が入ってきたことに気づき、慌てて立ち上がって一礼しながら、



「ユ、ユウキ様、お、お疲れ様です、はい!」



 新緑のような鮮やかな緑色の短く整えられた髪と、”豊かな”腹回りが特徴なこの男の名前は『ニコル・グレイブ』と言う。



「ニコル、この匂いは何?」

「へっ…… あぁ、こ、これのことだと思います、はい」



 どうぞ、と手渡されたもの見ながら自分の席に着き、



「何これ?」

「こ、これは『鰻福館』の新作肉饅頭です、はい。3種の肉を混ぜあわせて作られたこの肉饅頭を買うのに行列ができる程の一品で、ぼ、僕も並んで買いました、はい」

「……それだけではないでしょう」



 そう言ったのは、もう一人の俺の部下。美しい金髪を腰の辺りまで伸ばし、その金髪の間から狐耳がのぞいている少女、金狐族の『フウカ』と言う。



「ユウキ様、件の決算の書類がまとまりましたので、確認してください」

「ん、あぁ分かった。それでそれだけではないって?」

「……まず、その男の机です」



 ニコルの机を見ると山のように積まれた甘菓子。先程、肉饅頭の袋を出したせいで雪崩が起きているが、それでも机上の文具一切が見えない。ニコルは大の甘菓子好きで、仕事中も食べてないと落ち着かないらしい。



「それだけではありません……… その男もです」

「ニコル?」



 ニコルを指さしたフウカは汚らしいモノでも見るような目をしながら、



「………くさい」

「な、何を言ってるのですか! フウカちゃん! ぼ、僕この前もそう言われてお風呂に念入り入ったんですよ、はい!」

「フウカは獣人族だから俺らよりも鼻が利くんじゃないか」



 俺がそう言うとフウカはため息をつきながら答えた。



「確かにユウキ様からもにおいますが、ニコルはそれ以上です。それと、いい加減『ちゃん』づけで呼ぶのをやめてもらえませんか」

「れ、レディーを呼び捨てにすることはできないよ! それにフウカちゃんは年下だし……」

「それでもいやです。やめてください」



 ぐぬぬ、と唸るニコルに苦笑いを浮かべながら俺は二人に向き直った。



「二人とも、伝えたいことがあるんだ」



 そう言うと、二人は今までの姿勢を改めて、俺の方へ向いた。


「今、世間で盗賊が跋扈していることは二人とも知っているとは思うんだけど、その対策を俺が任されたんだ」



 おぉ〜、と二人から声が上がる。



「それで今度、傭兵ギルドに行って依頼してこようと思ってる」

「どのような依頼を?」

「練兵の依頼。イスタナ村の自警団の練兵を頼もうかと」

「ふむぅ…… な、ならばゲイルバーグ殿にもお声を掛けてみてはいかがでしょうか、はい」

「アレインか、そうだな声を掛けておくか」

「………それで、それだけですか? 伝えることとは」

「あぁ、うん。それでその依頼に俺も付いて行こうと思うんだ」



 えっ、とこれも二人から声が上がる。



「ユ、ユウキ様。お言葉ながら、南部は今非常に危ないです。ユウキ様の身が危うくなるような場所に行かせるわけにはいきません、はい」

「それに盗賊の対策を任されましたが、ユウキ様は依頼の他にもやらなくてはならないことがあるのではないのですか」

「他のことは紙にまとめてフウカにやってもらおうと思う」



 うぇ〜、とフウカから不満を隠さない声が漏れる。



「し、しかしそれでも何故ユウキ様が出向かなければならないのですか、はい」

「う〜ん、やっぱり被害地の様子を目で確かめた方が対策も考えやすいからかな」

「そ、そうですか……… そこまで仰るのでしたらお止めはしません、はい」

「では、私はこの部屋でユウキ様とニコルの無事帰還を願って仕事をしますか」

「? 何故僕も無事を祈られなくてはならないのですか?」

「あなたもいっしょに行くからでしょうが、何を……」

「え、えええぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!!」

「そうだね、ニコルには一緒に来てもらおうかな」

「そ、そんな。ぼ、僕なんか一緒に行ったって何の役にも……」

「何言ってるんですか、バカみたいに食べることとバカみたいに広域で使える風霊術の【風話】しか取り柄のないあなたが、ここで活躍しないでどこで活躍するんですか、馬鹿ですか、馬鹿なんですか?」

「そ、そんな4回も馬鹿馬鹿言わなくても…… わ、分かりました…… 行きます、行きますよぉ」



 泣く泣く承諾してくれたニコルは肩を落としながら自分の席に戻った。俺はニコルの紙袋を机に置き、引き出しから紙を一枚引っ張り出した。



(さて、まずは何をしてもらおうかな……)



 新たな分野の任務のことを思案しながら、俺はペンを握った。

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