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黒之戦記  作者: 双子亭
第1章 戦火の花嫁
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『ちから』第3話

更新が遅れてしまい、すみませんでした。

    リトルベルクの東、ユメミルの丘ーーーー





 イリーナ様の言葉を聞いた俺は、しばらく何も考えることが出来なかった。


 いつもはやさしい微笑みを絶やさない顔は真剣そのものであり、このような表情をするイリーナ様を見るのは初めてであったからだ。



「イリーナ様、お尋ねしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「えぇ、いいわよ」

「それを私が知ることで、誰かが傷ついたり、不快に思ったりしますか?」

「それもあなた次第ね」

「………」

「もちろん、聞かなくてもあなたの今後の人生に差し支えはないはずよ」

「………」

「……どうしますか」

「……わかりました。教えてください、その事を………」



 イリーナ様は俺の持つ力、『錬成術士』の力についての話を始めた。





 この世界には四大属性、二大極性の霊術の他に一部の者には『能力』または『祝福』と呼ばれる特殊な力を持って生まれてくる人がいる。『錬金術士』、『予見術士』、『治癒術士』、『転移術士』等、これらは過去・現在で確認されている能力だが、霊術とは異なった、しかし現在の理論では説明することのできない何かを使って能力を発現させると言われている。



「それで、あなたの『錬成術士』の能力だけど、物質の本質を見抜くだけでなく、『錬金術士』と同じ『錬』の字が入ってるから創造能力もあると思うわ」

「創造能力?」

「そう、創造能力。錬金術は金属のみ生み出すことができたみたいだけど、あなたの場合は少し違うかもしれないわね」

「どうやったらその能力は使えるのでしょうか」

「物質の本質を見抜くのは今のところ物質に手を触れて知りたいと思えばできるみたいね、創造能力は錬金術だと錬金したい金属を思うだけで錬金できたと聞いているわ」

「………」



 俺はそばに落ちていた小枝を拾い、それを握り念じてみた。



「………」

「………」

「………」

「…だめか」

「なにを考えたのかしら?」

「えっと、これを銅貨に変えようと」

「物質の変化は無理みたいね。だったら形状を変化させてみて」

「はい」



 俺は再び手元に集中した。その時、手の中が淡く光ったと思ったら………



「なっ!!」

「うわぁ…」



 俺の手の中を覗いていたネルは感嘆の声を漏らした。そう、手の中には先程まであった小枝はなく、変わりに木彫りの馬があった。細かい所まで作られたその馬は、今にも走り出しそうな感じであった。



「これ程繊細な作りをしているなんて……… エルフ族でさえこんな作りができるかどうか」

「エルフ、ですか」

「えぇ、そうよ。彼らは霊術だけでなく、こういった技術にも長けているのよ」



 再び手元に視線を戻した時、俺はネルがさっきからずっと木彫りの馬を見ていることに気づいた。



「………ネル」

「………はい」

「………欲しい?」

「え、いいんですか!」



 俺はネルの手の中に木彫りの馬を置いた。それを大事に胸の前で抱えて



「ありがとうございます、ユウキ様!」

「………」

「あら、どうしたの、リン。そんなに怖い顔をして」

「別に怖い顔などしていません」

「そう? てっきりネルがユウキから贈り物をもらっているから妬いてるのだと」

「ち、ちがいます! 私はもう子供ではないですから、贈り物を貰えないからって拗ねたりしません!」

「そう、ならリンはユウキからの贈り物はいらないということね」

「えっ、そ、そういうわけでは………」

「リン、俺、もう少しこの能力を調べたいから、その時にあげるよ」

「え、あ、あぁ、うん、そうだな。くれるのなら貰ってやらないこともないな」

「……フフッ」

「お姉ちゃんったら……」



 最後はイリーナ様の微笑みを区切りに昼飯は終わった。





    リーネンブルク侯爵領イリーナの屋敷ーーーー





 あれから数週間、俺はいろいろと自分の能力を調べた。それでわかったことは以下の通りだった。




  *形状の変化は可能だが、物質の変化は不可能。但し、物質の合成は可能

  *能力の発現は直接手に触れないと起きない

  *能力の源は不明だが、能力使用による副作用はない。また制限もない

  *干渉できる物質は生物以外。但し、植物については曖昧




 まぁ、何というか、うん。あんまり乱用しないほうが面倒事にはならないな、これ。



 と言う訳で、イリーナ様と話し合った結果、人前ではなるべく使用しないことにしたのだが、やっぱりこんな能力あるともっといろいろ試したくなり、イリーナ様の書庫にある本を読んだりして、主に金属の物質合成をして遊んでいた。



 そんな日のある晩、イリーナ様が俺の部屋に訪れた。因みに俺の住まいはイリーナ邸の一室をあてがわれており、ここで執務もこなしている。



「こんな夜遅くまで何をやっているの」

「あ、イリーナ様! イリーナ様こそこんな時間まで、お体に障りますよ」

「フフッ、ちょっと本に夢中になっていたらこんな時間になって…… それよりもユウキは何をしているのですか?」

「えっと……」



 そういうと、俺はイリーナ様に手元を見せた。



「あら、また能力を使って実験?」

「はい、いろいろと試しているのですけど、なかなかうまくいかなくて」

「そうなの? ちょっと見せてみてくれる」



 俺はイリーナ様に一欠片の金属片を渡した。それを手に取ったイリーナ様は数秒それを観察した後、引きつった顔をしながら俺に確認を取った。



「……ユウキ、これは?」

「それはミスリル銀です」

「…………こっちは?」

「オリハルコンです。ただちょっと光沢が文献通りでないので、多分失敗です」

「…………………あなたの手の中にあるのは?」

「黒曜鋼です。影の民の髪が必要と書いてあったので試しに自分の髪を粉末にして合成したら上手くいきました」

「……………………」

「……あ、あの、イリーナ様?」

「……ちょっと疲れてきたので、先に休ませてもらうわ」

「はぁ、おやすみなさい」



 ユウキの部屋を後にした私は廊下を歩いて自分の部屋に戻りながら先ほどの光景を思い返していた。彼の能力で生み出した金属はどれも、そう、どれも貴重度がかなり高い、いや、絶滅した金属まで生み出している状態に少し目眩いがする気分だった。



(あの子、自分がどんなものを作っているのか分かってないみたいだけど……)



 ふと私は廊下の窓に映し出される月を見上げた。



(まぁ、あの子は浅慮な行動は取らないと思うから問題はない、か……)



 見上げた月は綺麗な満月だったが、その満月には徐々に雲が覆いかぶさっていった。





  ーーーーまるで今後の展開を暗示しているような、とイリーナは感じていた。

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