前世を思い出したら、好きだった人が職場の同僚だった件
きっかけは些細なことだったと覚えてる。
彼女は今年の春に異動して来た同僚で。仕事を教えるためにペアを組まされただけの、そんな関係だった。
なんだったら、ちょっとツンとする所がいけ好かないな、なんて思っていた彼女。エリート路線を進んでいて、現場の業務を何年か学んだら、この後また本部に戻るらしい彼女。何故ペアが私なのか。目の前にある仕事も精一杯で昇進もないような私に付いて何を学ぶんだろう、なんて考えていたくらい。
そんなモヤモヤを抱えていたけど、彼女と出先から一緒にお昼をとることになって。何故か蕎麦屋をチョイスする彼女。私は特に拘ってはいなかったから、好きな店を選んでって、お任せしてしまって。まぁ、一等地のオフィス街、おしゃれなカフェやレストランが並ぶから、目移りして選べなかったっていうのが正直なところだったんだけど。そんなお店が並ぶ中で、その奥にある寂れた蕎麦屋に入っていく彼女。こんな、って言ったら失礼なんだけど、昔ながらのメニュー表が壁にかけてあるお店で。人もまばらのちょっと古臭いお店。だけど、え、こんなにメニューがあるんだって驚いたくらいなのに、彼女、その綺麗な顔はブレることもしないで、コロッケそばなんて頼んでた。いや、なんでコロッケそば。そんなに食べたかったのかな?て疑問だったけど、まあ、入ったものは仕方ない。私もせっかくだから海老天そばを頼んだ。まぁ、お店のメニューなんてのもどうでもよかったんだけど、彼女、コロッケそばがそんなに楽しみだったのか、来た途端にいただきます、って言って直ぐにパクつき出したんだ。。。
そんな彼女に呆気に取られてたんだけど、向かう席から見える、いつもの澄ました綺麗な顔に、横から落ちたサラサラの黒髪が見えたんだけど、その髪をなんの気なしに、耳にサラッと掛けたんだ。その時急に、思い出した。何だろう、身体に電流が走るって、こんな時に言うのかな。何故か思い出しちゃって。この人、私の好きな人だったって。
前世の私たちの住んでいた世界は、力が支配する争いの絶えない世界だったから。魔法なんてものがあったけど、それに対抗する魔封じの道具なんてのもあって、より世界が混沌としていた頃。だから、死と隣り合わせでも、他の職よりかは自分を守れるって、軍人になる道を選んだのに、そこはもっと厳しくて。力がないと抑圧されて、上官の命令が全ての世界。そんな場所で、出会った同期の彼女。
私を含め他の同期を圧倒して、彼女、ドンドン力をつけていった。元々才能があったみたいで、魔力も人一倍あったから、直ぐに上官と部下になっちゃって。そんな彼女が、私にする命令がいつもキツいし、何なら厳しい言葉も投げてくるから、私のこと嫌いなんだろうなって思ってた。なのに命令は絶対だから、この人に従うしかなくて。だけどこんな時も今みたいに一緒に食事することがあって、ポロっと彼女、私のこと、失くしたくないんだって。私のこと、誰よりも大切だったみたいで。守りたかったから、強くなったなんて言ってきて。私そんなに貴女に何もしてないよって、彼女に返したら、一緒に訓練してた時に微笑んでくれたことが嬉しかったらしいんだ。そんなことで?なんて思うけど、彼女にとっては大事なことだったみたいで。そんな話、彼女としてたら、なんだかこの人可愛いな、なんて思っていた。そしたら私、彼女のこと目で追うようになっていた。。。いつの間にか絆されて、彼女のこと大好きになっていたんだ。彼女も私を愛してくれて、幸せな時間もあったんだけど…
女同士だから、こんな世の中じゃ一緒にもなれない。争いも終わらない世界だから、いつか、きっと生まれ変わったその時に、一緒に2人で生きていこうって、約束して、私たちは死んでいった。そんなことを、蕎麦屋で全部思い出したんだけど。。。
恐らく彼女、気づいてないのかな、私の方を見る気がない。いつも冷めた目をする彼女は、前世みたいに私を見る表情が優しくなんてなくて。悲しかった。私、思い出したのに、私、貴女に会いたかったのに、ずっと求めていたはずなのに、何で今思い出すのって、苦しくて、悲しくて、海老天そば食べながら泣き出しちゃった。
そしたら彼女、流石に驚くよね。私に大丈夫?って声をかけてきたんだけど。私、首を振ることしか出来なかったんだ、、、
そんなことがあったのが、だいぶ昔のことのようで。この後は問題なく2人で仕事をこなしていって、あっという間に次の季節が回ろうとして、彼女、別の場所に異動することになっている。本当に、彼女は今世でもエリートなんだなって思っていたら、声を掛けられて。
「ねぇ、ちょっといいかしら?」「どうしたの?」彼女から私に声を掛けるなんて珍しい、そう思っていたんだけど。
「ねぇ、一年ずっと私といたわよね?」そう言う彼女にミーティングルームに連れられて、少し怒ってる様子だったから。
「そうね。一年ずっと、貴女と仕事をしていたね。」そうそのまま返したんだ。だって、怒られる理由もないんだから、こっちはチンプンカンプンだよ。
「……っ!そうじゃなくて!なんで、気づかないのよ!!」そう、声を荒げてきた彼女に私ムッとして。「だから、何によ!急に怒鳴られても、ちゃんと言ってくれないならわかるはずないでしょう?!」ああ、まるで昔みたい、なんて思って。この人、いつも表情でしか私に示さないから、私が察しなきゃいけない所があって、子どもっぽいな、なんてよく思ってたんだけど。変わらない、昔も今もこの人、口下手で直ぐに言葉にしないんだから。
「……。私、この一年ずっと、貴女と過ごす時間を大切にしてたのよ。やっと、見つけたって、思ってたのに、貴女、私に何も言ってくれなくて。それなのに、思わせぶりみたいな、あの時みたいな笑顔で私に微笑むから……ねぇ、わかってるなら、応えて??」
そう、この人返してきて。はぁ、もう、本当に、この人は甘えたなんだから、なんてため息が出ちゃうけど。そうだった。彼女も仕事はできるけど、直ぐに言葉にしないから、よく喧嘩もしてたっけ。
「貴女の言うこと、曖昧すぎて。私にはわからないよ。ちゃんと、応えるために、どうして欲しいのか、教えて?」そうキツく返しちゃった。だって、これは大切なことでしょ?
「…………。私、前世の記憶があるの。ここじゃないところで、貴女とよく似た女性と付き合ってた。愛してた。ずっと、一緒にいたかったけど、世界が混沌だったから、死と共に生きるしかなくて、私たち2人で逃げ切れるものじゃなくて、最期は一緒に敵艦にやられた。次があったら、平和な世界なら、一生を共に過ごそうって約束した。。。ずっと、ずっと、守りたいと思っていた愛しい女性なの。だから、貴女を誰かに渡したくないの。私と一緒にこれからもいて欲しいのよ。好きなの。。。お願い、、、」
「いつから??」「え?」「いつから、思い出してたの??」そう、刺々しく返しちゃった。だって、この感じだと、、、
キョトンと首を傾げる彼女に、クッやっぱり好きだわ、なんて思ってたら。「最初から、会った時に気づいてたわ。貴女、最初全然気づいてなくて、悔しかった。」むぅって膨れた顔を可愛かったけど、そうじゃなくて、、、、
「私、あの一緒に外回りに行った蕎麦屋で思い出してたのよ?なんなら、泣いてたんだけど、覚えてない??」そう返したらこの人ったら、目を輝かせて。
「やっぱり!そうだと思ったのよ!!」なんて言ってくるから。「じゃあ何で、あの時私に言ってくれなかったの??むしろ、あの時までずっと冷たい目、私に向けてたよね?なんなら、その後もそんなに変わってなかったけど?」うっ、てちょっと目を泳がせながら彼女ったら。
「い、今まで全く気づいてくれなくて、、、、私、ずっと貴女を探しながら生きてきたのに、やっと会えたって思ったのに、当の本人、何も覚えてなさそうなのだもの。。。それに、あの時だって。。。私、貴女と行きたいお店、沢山あるのに、貴女全然、どこでも良さそうだったから、それにも腹が立って。それなら、尚更、どこだって良いようなとこ入りたくて蕎麦屋に行ったのに、貴女それもどうでも良さそうだったから、、、」ちょっと腹が立ったらしい。確かに、急に泣き出した後、昔みたいな雰囲気になった私に気づいたけど、今まで自分が気づかれてなかったことが癪だったからって、子どもみたいに拗ねて気づかないフリ、そのまましたらしい。なんて、迷惑な性格!!!
だけど、そうだよね。ずっと探してた人が全く自分のこと覚えてないって、辛いよね。
八つ当たりだってしたくなるよね、って同情したけど。いや、待てそれなら、何で今まで言わなかったのか、、、?
「ねぇ、それならどうして今になって言ってきたの??もっと早くに教えることも出来たよね??」
「うっ!ひ、引っ込みが、つかなくなってきて…それに、貴女から応えてくれないかなって期待してたから、、、」そう、上目遣いになって言ってきたけど、、、はあ、とため息を溢しながら。
「貴女が私と同じように気づいてないって、思ってるんだから、声を掛けるわけないでしょう??それに、貴女私みたいに分かりやすい態度、とってくれなかったじゃない。」そう嫌味を返したんだけど、、、
「だって、ここまで来たらどうやって切り出せば良いかなんて、わからないじゃない。私の性格、知っているでしょう??」そう、開き直って言ってきた彼女。そうだ、ほんと、昔から、何事もそつなくこなす能力は高いのに、人間関係には、とことん疎い。なんだろう、頭のいい人って、何かしらを犠牲にしていると思うんだけど、どうだろうか。
「ねえ、それより応えて??私は言ったわよ。貴女とずっと一緒にいたい、愛してるって。。。」彼女はさっきまでのことを置いて、そんなこともうどうでも良いとばかりに、もう一度告白?をしてきた。もう、ロマンチックの欠片もない。この人ったら、相変わらず、なんて思ったりもしたけど。。。
次に出会った時に私が言うことだって、決まってた。
「私もずっと、ずっと、貴女を愛してます。貴女とこれからも一緒にいたい。だから、私をこれからも愛してくれますか??」そう、返していた。
「嬉しい!!」そう、抱きついてくる彼女に、「もう、ここは職場なんだから、まだ仕事も終わってないよ。」なんて、照れ隠しに言ってみたけど、2人とも全く離す気がなくて、ずっと抱き合っていた。
「ねえ、どうして今になって応えることにしたの??」
「そ、それは、もう少ししたら、私異動じゃない。そんな、また離れるなんて嫌だったから、これからはずっと一緒にいたいから、もう、今言うしかないじゃない??」
はぁ、と彼女の自由さにはこれからも振り回されるのかな、なんて少し幸せな気持ちになっていた。




