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クラスメイトのちょっとした嘘が俺たちを変えた。幸せになるための遠回りだったと……今はそう思える



 高校生時代――。


 それはピカピカと輝いていて、友達との会話や、行事、そして恋愛など楽しい思い出がたくさん詰まっていて、いつ思い出してもいいもの――というものであるとは限らない。


 俺は今、その『いいもの』ではなくなった瞬間に立ち会ってしまっていた。




「え? 望月くん?」

「そうです!! もう一緒にいないでもらっていいですか?」

「えぇっと……。別にいつも一緒にいるってわけじゃないけど……」

「どういうつもりなんですか? まさか……望月先輩の事を……」

「あ、えっと……。私と望月君はただのクラスメイトで、そういう関係じゃないよ? だから安心して」

「そうですか……あ!?」

 

 授業が終わり、掃除当番を済まして、ようやく解放された俺は、もうすぐ出られなくなる部活に出るために、校舎の隅にある文芸部の部室前にたどり着いた。

 ドアノブを持ち、ドアを開けようとしたとき、中から少しばかり大きな声でされている会話が聞こえてきて、その手を止めた。


 その会話の中に俺の名前が出ていたから。


 しばらくそのままドアの前で固まっていると、室内からドアの方へと向かってくる人影が見えた。


 がちゃり


「も、望月先輩!?」

「え、あ、や、やぁ?」

「こんなところで何をしてるんです? あ、もしかして今の会話聞いてました?」

「……ちょっとだけ」

「……そうですか。でもまぁいいです!! ね? 鹿島先輩?」

「…………」

 声をかけられた女子生徒――鹿島(かしま)亜来はふいと顔を背けて小さくうなずいた。


「ね? 先輩!! そんなことよりも、今後のことについて相談させてくださいよぉ~」

「あ、えっと……その前にその腕を放してくれないかな?」

「いいじゃないですか!! 私と先輩の仲なんですから!!」

「どんな仲なんだよ……」

 ひとつ下の部活の後輩である尼子(じこ)ちゆに腕を絡められながら、部室の中へと入っていき、指定席化している椅子を引いて腰を下ろした。


 その間もその後も、鹿島はずっと俯いていた。


 こうして、俺の高校生生活最後の年になって、高校生生活が『いい思い出』ではなくなったのである。




 俺、望月光(もちづきあたる)は、いたって普通の高校へと通う、普通の男子高校生だ。特に何かが突出しているわけでも、容姿端麗なわけでもない。運動だって得意とは言えないので、いつもだいたい体育の評価は真ん中くらいだ。

 

そんな俺が唯一ほかの皆にも認められていることがあるのだが、それがいま部活にきている理由でもある。


趣味として書いていた小説が、とある出版社で行われていたコンクールの賞に引っかかったのだ。賞は大賞を筆頭にして少なくない数の副賞があり、書籍化などもされるという類のもので、俺の作品はその賞の最下部類に入る『敢闘賞』というもの。


この賞は、書籍化はされることは無いけど、副賞として少額ではあるが賞金と賞状が頂ける。


そんな俺が入っている部活というのが、部員のほとんどが幽霊部員というような文学部である。中には俺や鹿島といったようにまじめに部活動に励む生徒もいるにはいるが、基本的に自分の家で書いたり、構想したりするやつが多いので、なかなか部室に顔を出す奴はいないのが現状だ。


さて、ここまで話したらもうわかってしまったかもしれないけど、俺はこの今は部屋の反対側の椅子へと腰を下ろし、静かに読書をしている女子生徒の鹿島のことが気になっている。


気になっているというのは、()()()()意味である。

だからこそ、部室の前で聞いてしまった会話を思い出すと、胸の奥がズキリとひどく痛むのだ。この日は結局その後に鹿島とまともに会話することもできないで帰宅した。




 重い足取りは次の日の登校時間になっても変わらなかった。それどころかさらに重くなっていて、仮病を使っても学校へと行くことをやめようとしたくらいだ。


 そうは思っても、結局のところ学校へと行くことをやめるよりも、『鹿島と一緒に……』という気持の方が強くて来てしまうのだが。


 案の定というか、学校へとたどり着き、さらに鈍くなった足を引きずるようにして廊下を歩き、教室へとたどり着いたものの、鹿島とあいさつをする程度の会話だけで終わる。


 放課後になり部室へといっても鹿島とではなく尼子とだけ会話をしている状況という、何のために学校に来ているのかもわからない状態になっていた。


――どうしたらいいのか俺にはわからん……。

 こういう時、経験値の低さを実感する。


 鹿島と俺はあの時以前は普通に会話もするし、何ならほかの生徒たちと比べても仲がいいとさえ思っていた。それは出身中学校が同じという共通点があったのが大きいのだが、高校2年生になって初めて同じクラスになったころから、一気に俺たちの仲が良くなった気がする。


 同じクラスになって思い知ったのだけど、鹿島亜来(かしまあこ)はとてもモテる。いや以前から少しは噂に聞いていた。同じ学年にかわいい子がいるということを。同じクラスメイトだった男子生徒によると『成績優秀、容姿はかわいく、誰にでも優しい』から人気なのだと。運動はちょっと苦手で時々コケたりするところがギャップ萌えなのだそうだ。


――俺にはよくわからん世界だが……。

 熱く語るクラスメイトに、ちょっと引きながらうなずいていたことを思いだす。


 そうしてしばらくたったある日、『日上俊(ひがみすぐる)と鹿島が付き合いだした』という、劇的なニュースが学年中を駆け巡った。日上はサッカー部の副キャプテンで、高身長あり運動神経が良く、顔もどこぞの男子アイドルグループにいてもおかしくないような、イケメンとして有名な奴だ。


 その日上が鹿島に告白をし、見事に成功したという話は、鹿島がサッカー部の練習をたびたび見に行っている姿が目撃され、さらに一緒に帰る所も確認されたことにより、明確な証拠として事実だと認定され、二人の仲が公認化した。


 クラスでも部活でも一緒の鹿島ではあるが、それ以降俺と鹿島が2人で話をするということはなくなった。話をすることがあっても、数会話だけとか、ほかのだれかが一緒にいるとか、鹿島の方が極力一緒にいないようにしているように思える。


 ひとりで悩んでも、もやもやとした気持ちを抱えても、残念なことに時は過ぎていく――。


 秋になり、部活動にも一区切りをつけ、本格的に俺たち高校3年生は『受験』という目的に向け動き出す。授業中はもちろんだが、休憩中も移動時間も、ありとあらゆる手段を使って少しでも詰め込もうと必死になっていた。


 俺も目的の大学へと進学するために、勉強へと力を入れなくてはならず、時折息抜きに文章を書く程度で、時間を据えて書くということが少なくなり、ほかの人と一緒に過ごすという時間が少なくなっていく。


 そうした中でも後輩である尼子が教室まで入ってきて、俺と話をしていったり、放課後は部活に行かずに俺の周囲にまとわりつくようになった。

 あまりにも俺についてくるので、しっかりと言おうとしたら、逆に告白をされたことには驚いたが、しっかりとお断りした。


 それでも尼子は卒業するその時まで、俺と一緒にいる時間を作ろうとした。


 卒業式の後、俺は一人帰ろうとしていたのだが、俺を呼ぶ声に振り返る。


「望月くん!!」

「え? あ、鹿島……」

「あのね、その……」

 何かを言いたそうで、しかし言いよどむ鹿島。


「せんぱーい!!」

「ん? げっ!!」

「げってなんですか!! げって!!」

 そう大きな声で俺に走り寄り、俺の腕を取る尼子。


「一緒に帰りましょ!!」

「あのな尼子、前も言っていると思うが――」

「望月くん。そっか……尼子さんと……。そっか……。あの!!」

 尼子の腕を引きはがして注意しようとしたとき、鹿島が大きな声を出した。


「望月くん……卒業おめでとう。それじゃぁ……さようなら」

 鹿島は涼やかな笑顔をして俺の方を見ていた。そうして俺たちから背を向けて歩き去っていく。しばらくすると日上が現れて一緒に離れていった。


――さようなら……か。

 その言葉が今後はもう会うことがないといわれているようで、俺の胸の奥の何かがぎゅー!! と悲鳴を上げた。 


  こうして、俺の心の中の思いは告げられずに高校生活を終えることになったのだった。


 


 数年後――。


 無事に目的の大学へと進学することができた俺は、大学生になってから再び小説を書くことを再開した。いろいろなコンクールへと作品を出しては落選を繰り返し、大学3回生の秋になって一つのコンクールをきっかけに編集さんについてもらえるようになり、少しずつではあるが作品も評価されるようになっていた。


 いろいろな人に読んでほしいとの思いから、SNS小説掲載サイトへも寄稿を開始したのだけど、そこでも一定の評価をしてもらえるまでになり、充実した日々を過ごしている。


 恋人という存在も欲しいとは思えど、実際に告白されたこともあるが、すべてお断りをしているので今は恋人はいない。



 大学4回生となり、周囲が就職活動の結果報告をちらほらとしてくるころ、同じゼミの仲間と一緒に飲みに出かけることとなり、居酒屋へと足を運んだ。



「おい望月」

「なんだよ」

「今から行く居酒屋にな、めちゃくちゃかわいい店員さんがいるんだよ」

「へぇ~……」

「絶対に落とすんだから邪魔すんなよ?」

「……しねぇよ」

 馬鹿話をしながら居酒屋につくと、すでに店は混雑していて、店員さんも所狭しと動き回っている。騒ぐ客やテーブルと椅子をかき分けるように進み、ゼミの仲間がいる場所へとたどり着く。一斉に声を上げ手を上げ挨拶を交わし、空いている席へと腰を下ろした。


「とりあえずビールでいいよな?」

「ん? あぁいいぞ」

「すみませーん!!」

 大きな声で手を上げつつ店員さんを呼ぶと、少ししてから店員さんが来てくれた。


「な?」

「な? てなんだよ」

「かわいかっただろ? 今の店員さん」

「あ、わりぃ……見てなかった」

「まじかよ!! 絶対見てみろよ!!」

「あぁ、まぁあとでな」

 肩をバシバシとたたかれるのをよけつつ、俺はメニューを見つめていた。

 しばらくすると頼んでいたものがそろい、乾杯をした後にそれぞれに話題を出して盛り上がりを見せていく。俺も久しぶりにお酒を飲んでいたし、みんなと顔を合わせているということで、ちょっとだけ気分が上がっていたのか、トイレが近くなって席を立つ。


 用を足してトイレを出ると、1人の女性が近づいてきたので道を開けようと壁沿いへと移動した。


「もしかして……望月……君?」

「え?」

 名前を呼ばれるなんて思ってなかったので、びくりと体を弾ませて声をかけてきた人の方へと顔を向ける。



「か、鹿島……か?」

「やっぱり望月君だった……」

 忘れようとしても忘れられない人がそこに立っていた。


「どうしてここに?」

「就職の内定がもらえたから、そのお祝いを開いてくれてるんだ……」

「そっか……おめでとう……」

「ありがとぅ。望月くんは?」

「俺はゼミのやつらと内定祝いをしてるところだよ」

「望月くんが?」

「いや。俺は就職活動は――」

 していない。そういおうとしたとき、もう一人男性がこちらに歩いてくるのが見えた。


「亜来どうした?」

「日上君……」

「日上……か?」

「あん? 誰だお前。まぁいいや。遅いから見に来てみたら変な奴と話してるし、行くぞ亜来」

 俺のことなど眼中にない日上が鹿島の腕をつかんで引っ張る。


「は、離して……痛い……」

「いいから行くぞ」

 そのまま連れ去っていこうとする日上。鹿島に会えたのはうれしかったのだが、それも日上が現れるまで。


――今もこの2人は……。

 そう考えると胸の奥が久しぶりにぎゅっと痛む。

 胸の痛みに耐えつつ、2人の方を見ていると、鹿島が俺の方を見ていてクチが動いているのが見えた。


『助けて』

 それが、俺にはそう見えたんだ。


「まて日上」

「あん? なんだお前文句でもあるのか?」

「文句っていうか……自分の彼女だとしても、無理やりはよくないだろ」

「彼女じゃないよ!!」

 鹿島が大きな声で否定する。


「え? だって高校生の時に……」

「ずっと彼女じゃないよ!! 私は高校生の時から誰とも付き合ったことないもの」

「え? でじゃぁ日上は……」

 日上の方を見ると、「ちっ!!」と舌打ちをして、鹿島の腕をさらに引っ張ろうとしている。


 とっさに――そういってもいいほどに、俺の体が動いて鹿島の腕を取り、そのまま俺の体を日上とつかんでいる鹿島の腕の間へと入れる。ねじ込まれた体に邪魔をされた格好になった日上は鹿島の腕を離した。


「いまだ、行くぞ鹿島」

「うん!!」

 俺と鹿島はそのまま店の中をぐんぐんと歩いていき、店から出ていく。日上が追ってくるかと思い後方を確認したけどその姿はなかった。


 そのまま少し歩いて近くにあった公園へと入り、四阿のベンチに二人で腰を下ろした。 そこで店に残してきたやつらのことを思い出し、慌ててスマホで事情を説明し謝罪。後日改めて飲み直しに参加する旨を伝えると、鹿島も同じようにスマホで連絡をしていた。


 鹿島の連絡が終わるのを待ち、詳しい話を聞いていく。


「え? 付き合ってない?」

「うん」

「じゃぁあの噂って……」

「日上君に告白されたのは本当だよ。でもお断りしたの。好きな人がいるからって。でも日上君があきらめてくれなくて、身近な人に話したのが広がってしまったみたいで。私もあまり大ごとにはしたくなかったし……」

「そっか……」

 鹿島と日上の付き合っているという話は、実は周囲がそうなるように仕向けたものだった可能性がある。既成事実を作ってしまえば――という感じかもしれない。


「望月君だって」

「俺?」

「尼子さんとお付き合いしてたんでしょ?」

「え? いやいやなんの話? 付き合ってる? 俺と尼子が?」

「うん。あの時、部室で望月くんが聞いてた時だけど、尼子さんが言っていたの。望月くんは私とお付き合いしてるので、一緒にいるとかやめてくれませんかって」

「あ……」

 俺が当時聞いたのは、会話の一部分だけだ。だから鹿島が俺のことなどなんとも思っていないと言っている場面に遭遇して、それがあの時の『全て』だと勘違いしていた。


「え? じゃぁ……」

「そっか付き合ってなかったのか……。でもどうしてそんなことを?」

「たぶん……俺と鹿島の仲が良く見えて、鹿島のことを警戒してたんじゃないか?」

「うん。そうだね。でもそのせいで勘違いしてしまった。偶然がその勘違いを生んでしまった」

「お互いにな……」

 四阿の中を、夜風の冷たさが吹き抜けていく。少しだけ飲んだお酒の酔いと体のほてりを冷やしていく。


「さて……と」

「ん?」

「望月くん、今カノジョさんいるの?」

「あ、いや……。俺は好きな子に彼氏ができたってときから、そんな気になれなくてな。今もいないよ」

「好きな人って……」

「鹿島は?」

「私も……好きな人に彼女がいるって聞いて、身を引かなきゃって思ったから……それからずっとその人が忘れられなくて。今もいないよ」

「なぁ……」

「なに?」

 ちょっとの恥ずかしさと、少しの期待が込められた視線を俺に向けてくる鹿島。


「俺たち、今から始めないか?」

「何を始めるの? ちゃんと言ってくれないとわかんないよ?」

「……まったく。俺と……付き合ってくれないかな? 前から、今もずっと君のことが好きだ……」

「うん。よろしくお願いします」

「とんだ遠回りだな」

「本当にね。でも……すれ違ってもまた、こうして一緒に入れるのって奇跡だと思わない?」

「運命だってか?」

「うふふふ……どうかしらね。それは……神様しか知らないんじゃない?」


勘違い。

すれ違い。

想い違い。


少しばかり遠回りした俺たち二人の恋は、こののちも同じようなことがあるかもしれない。でもそれもまた同じように乗り越えていける気がする。


 それが俺たち二人の恋人の始まり。


お読みいただいた皆様に感謝を!!


いつもの様に現恋ですけど、なんとなくですが久しぶりに描いた気がするんですよね。ちょっと違うものを修正したり加筆したりする生活が続いていたので、『俺の作風ってこんなだったっけ?』と思いながら執筆しましまた。

 お楽しみいただけるといいんですが……。


登場人物ネーミング


尼子ちゆ→じこちゆ→じこちゅう→自己中

日上俊→ひがみすぐる→ひがみすぎる→僻みすぎる!!



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