譲渡と現実
福引き会場を離れた2人は商店街の近くを歩いていた。始の手にはD-リムギアがあった。
「困ったな……」
「と、特賞って本当にで、出るんですね……」
「本当にな……」
手にあるそれに気を取られている始は気付いていないがD-リムギアを始が受け取ってから葵はD-リムギアにしか視線が行っておらず先程から転びそうになったり、街灯に正面からぶつかったりしている。
「俺は持ってるんだよな……」
「と、特賞って本当にで、出るんですね……」
「持ってるやつの所に来るとはこいつも不憫なやつだ。」
「と、特賞って本当にで、出るんですね……」
「……蒼野なんかbotになってないか?」
「と、特賞って本当にで、出るんですね……」
「……」
始が葵の様子に気付いた。
D-リムギアを試しに上に上げると葵も視線が一緒に動く。下に動かすと視線も下がる。
その様子に始は少し思案する。
うん、と頷いた後D-リムギアを彼女に差し出した。
「受け取れ、蒼野。」
「と、特賞……え?」
「学校で話した様にNLOをプレイしている。つまり俺はD-リムギアを持っているからな。俺にはこれ以上は必要無いからお前にやる。」
「い、いやいやさ、さすがにこんな高額な物受け取れないですよ。」
「……身体は大分正直だが。」
「へ?」
葵が視線を下ろすと葵の手が両手に持っていた袋を落とし、D-リムギアを受け取ろうとしていた。
「わぁ!?な、なんで!?」
「欲しいんだろ?」
「いや……」
「嘘はつかない方がいい。時間の無駄だ。」
「うっ……」
「別に何かを交換で貰おうなんて考えていない。」
「そ、それはそれで……」
「まあ、敢えて言うのであればNLOを買って遊んでくれ、くらいか?」
「NLOを……」
「まあ、一緒にゲームが出来る友人が出来るそれだけで千金だ。」
「……」
葵は凄い葛藤の後手に力を込めた。
「分かりました。貰います、そしてやらせていただきます!」
「そうかではこれはお前の物だ。」
しっかりと受け取った葵はそれをぎゅっと抱き締めた。
「私、このD-リムギア大切にします!」
「……!そ、そうか。」
満面の笑顔を浮かべた葵に少し見惚れてしまった始は目を逸らしながら軽めの返事を返す事しか出来なかった。
「そうだ、先輩!」
「な、なんだ?」
「私実はMMOって初めてなんです。なのでNLOを教えては頂けないでしょうか!」
「あ、あー……」
「だ、ダメですか?MMOなので知らない人と遊ぶのが醍醐味なのは分かるんですけどやっぱり最初くらいは知り合いがいいなぁって。」
「……」
これまでに見せなかった表情を浮かべる始。
葵はそれを見てやっぱりやめようと声を出そうとした時、始が覚悟を決めた顔になった。
「分かった、最初だけだ。それ以降は自分で頑張れ。」
「ありがとうございます!」
「まあ、来週の金曜以降の話だが。」
「へ?な、なんでですか?」
「いや来週中間テストだろう。」
「あっ」
今は5月の中盤、始達の学校では一学期の中間テストが5月の終盤に行われる。
が故に今はテスト週間なのだ。
「あっとはなんだあっとは。まさか忘れて遊び呆けるつもりだったのではないだろうな。」
「い、いやーその……はい……」
「ちゃんと勉強してテストで平均点くらいを取って親御さんに取り上げられない様にしろよ?」
「はーい……努力しますぅ……」
先程までの元気はどこへやら意気消沈してしまった葵に始はため息をつくのだった。




