お礼と趣味の話
翌日
半信半疑で自販機の前に来た始は少し後悔した。
先に来て待っていた少女が持っていた物が予想を遥かに超えたものだったからだ。
「あっ先輩!」
始に気付いた少女は手をあげ大きく振る。
見えなかったフリをしたくなったがため息を飲み込んで少女の方へと歩いていった。
「先輩こんにちは!」
「ああ、こんにちは後輩。」
始がやってくると少女は手を手に持っているそれに戻した。
「ちょっとだけ来てくれないかと心配してしまいました。」
「まあ、お互いに名乗ってすらいないからなその心配はもっともだ。」
「え……あ!本当です!すみません!」
「別にいい。なんなら先輩後輩だけでも問題無いだろ。」
「問題あると思いますけど!?」
「そうか。なら名乗っておくか。俺は士道 始2年生だ。」
「士道先輩ですね。私は蒼野葵です!1年生です!」
「あおだらけだな。」
「えへへ、よく言われます。」
「それで蒼野。」
「?はい。」
「その手に持っているものは……まさか俺の昼食か?」
「はい!お母さんに協力してもらっていっぱい作ってきました!」
認めたくない現実が真実となってしまった。
花見等のパーティーや年末年始のおせちでしか見ない重箱が彼女の手にあった。
「……何段?」
「家にあったものなので2段です!」
「……なら、ギリいけるか?」
「お母さんが男の子なら沢山食べるって言って結構頑張ったんですよ!」
「そうか。」
そこまで話を聞いた始は腹を括った。
「分かったそれじゃあ頂かせてもらおう。」
「はい!召し上がれ!」
ニ十数分後そこには襲い来る満腹感を超えた何かを耐える始の姿があった。
「ご、ごちそうさま。」
「お粗末様でした!」
空っぽになった重箱を興味ぶかそうな目で眺める葵を片目に午後の授業を耐えられるか思考を始は巡らせていた。
「男の子は沢山食べるって本当の事だったんですね〜」
「お母さんに言っておいてくれ。味は美味しかったっていうのと運動部と文化部及び帰宅部は違うって事を……」
「……?分かり、ました?」
それから少しの間世間話をする事になった。
「先輩ってさっき帰宅部って言ってましたけど趣味とかってあるんですか?」
「ゲームとかだな。カードとかではなくテレビゲームとかの方な。」
「本当ですか!私もです!」
目を輝かせた葵は身を乗り出す。
「この前発売したグリフォンクエストリメイクはやりましたか!?」
「ああ、やった。かなり面白かったな。」
「ですよね!私、おじいちゃんがリメイク前を持ってるのでやったことあったんですけど悪い所が程々に修正されてて新しい魅力があって凄い楽しかったんですよ!」
「そうなのか。」
「他!他には最近プレイしたゲームありますか!」
「他にはエンドファンタジー25とかはやったな。」
「おお!あれも楽しいですよね!」
「ああ。」
それからしばらくテンションの高い会話をしていった後にその話題は出た。
「あ、そうだ先輩はネクスト・ライフ・オンラインはやってるんですか?」
「ああ、なんなら一番やっているのはそれだな。」
「うっ……やっぱりそうですよね……」
「プレイ出来て無いのか?」
「私D-リムギアを持っていなくて……」
「成る程。」
D-リムギアは最新ガジェットで最新技術のものということもありかなりの高値をほこっている。
売り切れて転売祭りというわけでも無くシンプルに高額なのだ。その為中々買えないゲーマーも存在している程だ。
「まぁ、そのうち安くなるのを待つか……バイトするかのどっちかだな。」
「うっ……やっぱりそうですよね。どこかいいバイトないかな……」
「まぁ、頑張れ。」
そんな話をしている最中スマホの通知音がなった。
「あれ?すみません私ですね。」
葵がスマホを開いた。
「お母さんからですね。えーとお使い頼まれました。」
「そうか。手伝ってもらったんだからお手伝い頑張れ。」
「そうですね頑張ります!」
そこでチャイムがなる。昼休憩の終了のチャイムだ。
「あ、ここまでですね。」
「そうだな。」
それを聞いたそれぞれ2人は立ち上がった。
「弁当しっかり美味かった。ありがとうな。」
「いえいえあれはお礼でしたから。」
そう言って別れようとした所で葵が思い出したと言わんばかりに手を叩いた。
「あ、そうだ先輩最後に連絡先を交換しませんか?」
「あーまあいいぞ。」
そうして連絡先を交換しあった2人今度こそ別れたのだった。
別れた後教室に戻った始はスマホを見た。
「……3件目の連絡先、か。」
この日始のスマホに初めて父と母以外の連絡先が加わったのだった。




