第69章 結果だけが残る
丘を下り、町の建物が視界に入り始めた頃、身体の内側に溜まっていた緊張が、少しずつ別の重さへ変わっていくのを感じていた。
戦いの余韻とも違う。達成感とも言い切れない。
ただ、終わったものが終わった場所に収まったという実感だけが、歩調に合わせて胸の奥で揺れている。
門を抜けると、行き交う人々の視線が一瞬だけこちらへ集まり、すぐにそれぞれの用事へ戻っていく。
墓所で何が起きていたのかを詳しく知る者はいないが、異変が収まったことだけは、肌で感じ取っているらしい。
町の空気が、来た時よりも軽く、呼吸に引っかかりを残さない。
酒場に入ると、依頼を持ち込んできた男が、すぐにこちらに気づいた。
声をかけられる前に、短く頷く。
それだけで十分だった。
「終わったのか。正規の兵士は王家に遠慮して入れなかった。助かったよ」
男の問いは簡潔で、余計なものを求めていない。
この町にとって必要なのは、結果だけだ。
「異変は収まった。墓所は元の役目に戻っている」
それ以上は言わない。
中で何を見て、何を叩き割り、何を残したのかは、ここで共有する話ではない。
王女の悲しい過去は胸にしまっておくことにする。
男は深く息を吐き、肩から力を抜いた。
周囲にいた者たちも、同じ反応を見せている。
誰も詳細を聞こうとしないのが、この依頼の性質を物語っていた。
報酬がカウンターに置かれる。
袋の重みは適切で、過不足を感じさせない。
受け取りながら、指先に伝わる感触が、以前よりも素直に身体へ収まるのが分かる。
王家の名が絡む場所での仕事だったにもかかわらず、胸の奥に引っかかるものは残っていなかった。
かつてなら、何かしらの線引きや立場を意識し、余計な力が入っていたはずだ。
今は違う。
冒険者として引き受け、冒険者として終わらせた。
それだけの話だ。
もはや私は、王太子の婚約者ではない。
◇
酒場を出て、町の通りを歩く。
石畳の感触は、来た時と同じはずなのに、足取りは自然と前に進む。
立ち止まる理由が、もうこの町にはない。
墓所で感じた感情が、完全に消えたわけではない。
だが、それは背負うものではなく、通過した記憶として、身体の奥に落ち着いている。
結婚出来なかった想いも、残された焦りも、すでに役目を終えた。
宿に戻り、装備を整える。
剣の刃に付いた細かな欠けを確認し、必要な手入れを施す。
魔力の巡りも問題ない。
次の土地へ向かう準備は、自然と整っていく。
窓から差し込む光が、床に伸びる影を少しずつ動かしていく。
時間が進んでいることを、視覚で理解する。
この町で足を止める必要は、もうない。
荷をまとめ、外へ出る。
門の向こうに続く道は一本ではなく、どれを選んでも構わない。
決めるのは、誰でもない。
剣を背負い、歩き出す。
次の依頼がどんなものであれ、動いて叩き割ることに変わりはない。
それが出来る場所へ向かうだけだ。
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