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第69章 結果だけが残る

 丘を下り、町の建物が視界に入り始めた頃、身体の内側に溜まっていた緊張が、少しずつ別の重さへ変わっていくのを感じていた。

 戦いの余韻とも違う。達成感とも言い切れない。

 ただ、終わったものが終わった場所に収まったという実感だけが、歩調に合わせて胸の奥で揺れている。


 門を抜けると、行き交う人々の視線が一瞬だけこちらへ集まり、すぐにそれぞれの用事へ戻っていく。

 墓所で何が起きていたのかを詳しく知る者はいないが、異変が収まったことだけは、肌で感じ取っているらしい。

 町の空気が、来た時よりも軽く、呼吸に引っかかりを残さない。


 酒場に入ると、依頼を持ち込んできた男が、すぐにこちらに気づいた。

 声をかけられる前に、短く頷く。

 それだけで十分だった。


「終わったのか。正規の兵士は王家に遠慮して入れなかった。助かったよ」


 男の問いは簡潔で、余計なものを求めていない。

 この町にとって必要なのは、結果だけだ。


「異変は収まった。墓所は元の役目に戻っている」


 それ以上は言わない。

 中で何を見て、何を叩き割り、何を残したのかは、ここで共有する話ではない。

 王女の悲しい過去は胸にしまっておくことにする。


 男は深く息を吐き、肩から力を抜いた。

 周囲にいた者たちも、同じ反応を見せている。

 誰も詳細を聞こうとしないのが、この依頼の性質を物語っていた。


 報酬がカウンターに置かれる。

 袋の重みは適切で、過不足を感じさせない。

 受け取りながら、指先に伝わる感触が、以前よりも素直に身体へ収まるのが分かる。


 王家の名が絡む場所での仕事だったにもかかわらず、胸の奥に引っかかるものは残っていなかった。

 かつてなら、何かしらの線引きや立場を意識し、余計な力が入っていたはずだ。

 今は違う。


 冒険者として引き受け、冒険者として終わらせた。

 それだけの話だ。

 もはや私は、王太子の婚約者ではない。



 酒場を出て、町の通りを歩く。

 石畳の感触は、来た時と同じはずなのに、足取りは自然と前に進む。

 立ち止まる理由が、もうこの町にはない。


 墓所で感じた感情が、完全に消えたわけではない。

 だが、それは背負うものではなく、通過した記憶として、身体の奥に落ち着いている。

 結婚出来なかった想いも、残された焦りも、すでに役目を終えた。


 宿に戻り、装備を整える。

 剣の刃に付いた細かな欠けを確認し、必要な手入れを施す。

 魔力の巡りも問題ない。

 次の土地へ向かう準備は、自然と整っていく。


 窓から差し込む光が、床に伸びる影を少しずつ動かしていく。

 時間が進んでいることを、視覚で理解する。

 この町で足を止める必要は、もうない。


 荷をまとめ、外へ出る。

 門の向こうに続く道は一本ではなく、どれを選んでも構わない。

 決めるのは、誰でもない。


 剣を背負い、歩き出す。

 次の依頼がどんなものであれ、動いて叩き割ることに変わりはない。

 それが出来る場所へ向かうだけだ。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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