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第68章 墓所が息を取り戻す

 最奥から引き返す途中、足裏に伝わる感触がわずかに変わっていることに気づいたのは、剣を鞘に収める余裕が生まれてからだった。

 石の冷たさは変わらないが、踏みしめた瞬間に返ってくる反応が軽く、重さが一点に集まっていた感覚が、薄く広がっているのが分かる。

 中心を叩き割った影響が、墓所全体へ行き渡り始めている証拠だった。


 通路の壁に手を当てると、以前感じていたざらつきが消え、ただの石として存在しているのがはっきりと伝わってくる。

 拒むものでも、縛るものでもなく、役目を終えた構造物として、そこにあるだけだ。


 枝分かれしていた通路に戻ると、左側に漂っていた違和感が、ほとんど感じ取れなくなっていた。

 足を踏み入れても、胸の奥を掴まれるような感覚はない。

 代わりに、長く閉じられていた空間が、ようやく本来の姿に戻ろうとしているような、そんな落ち着いた気配が広がっている。


 罠を叩き割った場所を通り過ぎると、床の歪みはそのままだが、足首に絡みつくような感触は残っていなかった。

 壊した結果が、正しく機能している。

 それだけで、選択は間違っていなかったと確信できる。


 墓所は、生きているものではない。

 だが、長い年月をかけて積み重なった想いが、空間の性質を変えてしまうことはある。

 それを全て消すのではなく、役目を終えさせ、留めるべき場所に留めた。

 剣と魔法で行ったのは、その区切りだけだ。


 広間へ戻ると、石台の周囲に滞っていた魔力は、完全に流れを取り戻していた。

 澱みはなく、循環は穏やかで、余計な干渉を感じさせない。

 近づいても、胸の奥が重くなることはなく、ただ静かな空間として存在している。


 ここでやるべきことは、もうない。

 そう身体が告げていた。



 墓所の入口へ向かう最後の通路を歩きながら、胸の内側に残っていた感覚を確かめる。

 王家の墓所という場所に踏み込み、選び、叩き割り、終わらせた。

 それでも、過去に引き戻されることはなかった。


 令嬢として求められていた振る舞いも、選ばれる側に立たされていた時間も、ここでは何の意味も持たない。

 剣を握り、前へ進み、必要なものを壊す。

 その行為だけが、この場を変えた。


 扉が見えた瞬間、外の空気の流れが、微かに中へ入り込んでくるのを感じた。

 冷たく、乾いた風が、墓所の内部と混ざり合い、境界が溶けていく。

 この場所は、再び閉じられるだろうが、もう同じものではない。


 扉を押し開け、外へ出る。

 空は高く、丘の上を渡る風が、装備の隙間を抜けていく。

 胸いっぱいに吸い込んだ空気は、重さを含んでいなかった。


 振り返り、墓所を見る。

 石壁は変わらない。

 刻まれた紋も、そのままだ。

 だが、あの内部にあった圧は、確実に消えている。


 役目は果たした。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 剣の柄に手を置き、丘を下る。

 町へ戻り、結果を伝えれば、この依頼は終わる。

 次に進む準備は、もう出来ていた。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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