第68章 墓所が息を取り戻す
最奥から引き返す途中、足裏に伝わる感触がわずかに変わっていることに気づいたのは、剣を鞘に収める余裕が生まれてからだった。
石の冷たさは変わらないが、踏みしめた瞬間に返ってくる反応が軽く、重さが一点に集まっていた感覚が、薄く広がっているのが分かる。
中心を叩き割った影響が、墓所全体へ行き渡り始めている証拠だった。
通路の壁に手を当てると、以前感じていたざらつきが消え、ただの石として存在しているのがはっきりと伝わってくる。
拒むものでも、縛るものでもなく、役目を終えた構造物として、そこにあるだけだ。
枝分かれしていた通路に戻ると、左側に漂っていた違和感が、ほとんど感じ取れなくなっていた。
足を踏み入れても、胸の奥を掴まれるような感覚はない。
代わりに、長く閉じられていた空間が、ようやく本来の姿に戻ろうとしているような、そんな落ち着いた気配が広がっている。
罠を叩き割った場所を通り過ぎると、床の歪みはそのままだが、足首に絡みつくような感触は残っていなかった。
壊した結果が、正しく機能している。
それだけで、選択は間違っていなかったと確信できる。
墓所は、生きているものではない。
だが、長い年月をかけて積み重なった想いが、空間の性質を変えてしまうことはある。
それを全て消すのではなく、役目を終えさせ、留めるべき場所に留めた。
剣と魔法で行ったのは、その区切りだけだ。
広間へ戻ると、石台の周囲に滞っていた魔力は、完全に流れを取り戻していた。
澱みはなく、循環は穏やかで、余計な干渉を感じさせない。
近づいても、胸の奥が重くなることはなく、ただ静かな空間として存在している。
ここでやるべきことは、もうない。
そう身体が告げていた。
◇
墓所の入口へ向かう最後の通路を歩きながら、胸の内側に残っていた感覚を確かめる。
王家の墓所という場所に踏み込み、選び、叩き割り、終わらせた。
それでも、過去に引き戻されることはなかった。
令嬢として求められていた振る舞いも、選ばれる側に立たされていた時間も、ここでは何の意味も持たない。
剣を握り、前へ進み、必要なものを壊す。
その行為だけが、この場を変えた。
扉が見えた瞬間、外の空気の流れが、微かに中へ入り込んでくるのを感じた。
冷たく、乾いた風が、墓所の内部と混ざり合い、境界が溶けていく。
この場所は、再び閉じられるだろうが、もう同じものではない。
扉を押し開け、外へ出る。
空は高く、丘の上を渡る風が、装備の隙間を抜けていく。
胸いっぱいに吸い込んだ空気は、重さを含んでいなかった。
振り返り、墓所を見る。
石壁は変わらない。
刻まれた紋も、そのままだ。
だが、あの内部にあった圧は、確実に消えている。
役目は果たした。
それ以上でも、それ以下でもない。
剣の柄に手を置き、丘を下る。
町へ戻り、結果を伝えれば、この依頼は終わる。
次に進む準備は、もう出来ていた。
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