表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/74

第66章 石の奥で息が合わない

 墓所の中へ足を踏み入れた瞬間、外とは別の世界に切り替わった感覚が、足首から背中へと一気に駆け上がった。

 光は乏しいが闇ではない。壁に刻まれた紋様が、淡く残光を返し、そのせいで奥行きが掴みにくく、距離感が曖昧になる。

 床の石は均されているが、わずかな凹凸があり、長い年月がここを踏み続けてきたものの重みを、足裏を通して伝えてくる。


 剣を抜き、魔力を低く巡らせる。

 強く流しすぎると反応が返ってきそうで、弱すぎればこちらが見落とす。

 感覚を研ぎ澄ませるというより、身体の調子を墓所の空気に合わせるような感触だった。


 一歩進むごとに、胸の奥に引っかかっていた違和感が、形を持たないまま増えていく。

 敵意ではない。

 殺意でもない。

 それでも歓迎されていないことだけは、はっきりと分かる。


 通路の壁に手を当てると、石は冷たいが、嫌な粘りはない。

 墓所が荒らされていないことが、逆に気にかかった。

 不死者が出る場所なら、骨や棺が乱れているはずだし、魔物が入り込めば、爪痕や破壊の跡が残る。

 だがここには、それがない。


 進んだ先で、床に刻まれた紋がわずかに歪んでいる場所を見つけた。

 踏み込むと、足首に重さがまとわりつく感覚が走る。

 反射的に剣を振り下ろし、歪みの中心を叩き割ると、石が砕け、空気が一気に軽くなった。


 罠だ。

 だが殺すためのものではない。

 足を止め、引き返させるための仕掛けだと、身体が理解する。


 抑え込まれていた頃なら、立ち止まり、考え、正解を探していたかもしれない。

 今は違う。

 動けるなら、前に進む。


 通路は途中で枝分かれしていた。

 左は整然と整えられ、右は壁の一部が崩れかけている。

 整っている方に、より強い違和感がある。

 本能がそう告げていた。


 左へ向かう。

 数歩進んだところで、空気が一段階重くなる。

 重圧ではないが、胸の奥を押さえつけるような感触が増し、呼吸のたびに、何かを思い出させようとする。


 過去の光景が、断片的に浮かぶ。

 剣を置けと言われた日。

 動くなと制され、選ぶ余地を奪われた時間。

 それらが言葉ではなく、感覚として迫ってくる。


 歯を食いしばり、足を止めずに進む。

 この場所が試しているのは、力ではない。

 留まるか、進むか、その選択そのものだ。


 通路の先で、小さな広間に出た。

 中央には、祭壇の名残のような石台があり、その上に何も載っていない。

 空っぽなのに、視線がそこに引き寄せられる。


 魔力が、そこを中心に滞っている。

 濁ってはいない。

 だが、循環していない。


 剣を構え、魔力を高めると、石台の周囲に、歪んだ波のようなものが浮かび上がった。

 姿を持たないそれは、攻撃を仕掛けてこない。

 ただ、近づくほど、胸の奥が重くなる。


 試しに、魔法を一発叩き込む。

 空気が弾け、歪みが散る。

 だが、すぐに元に戻る。


 壊せない。

 正確には、壊しても意味がない。


 剣を下ろし、距離を詰める。

 石台の縁に触れた瞬間、指先から感情が流れ込んできた。

 怒りでも、憎しみでもない。

 焦りと、置き去りにされた感覚。


 誰かが、ここで何かを待ち続けている。

 身体ではなく、思いだけを残して。


 不死者ではない理由が、はっきりと分かった。

 命にしがみついているわけではない。

 終われなかっただけだ。


 剣を握る手に、力が戻る。

 ここでやるべきことは、見えてきた。


 この場は、まだ終わらせない。

 だが、放っておくわけにもいかない。


 石台から手を離し、広間を見渡す。

 この墓所全体が、同じ感覚で満たされているなら、中心はここだ。

 次に進むべき場所は、さらに奥だと、身体が告げている。


 踵を返し、崩れかけた右の通路へ向かう。

 そこには、まだ手を付けていない何かがある。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ