第63章 笑うなと言っただろ
広場の裏手、簡素な倉庫と薪置き場に挟まれた細い通路まで来たところで、私はようやく足を止め、白い衣の袖を掴んで乱れを直しながら振り返り、未だに口元を緩めているエドガルを睨みつけたが、当人はまるで反省の色も見せず、「いや、本当に悪いとは思ってるんだぜ」と前置きした上で、結局は笑いを堪えきれない様子で肩を震わせているのだから、自然と声に力が入った。
「思ってるなら、その顔をやめなさい、剣を振っていただけで、祈った覚えも清めた覚えもないし、あれは全部、村の人たちの思い込みなんだから、面白がられる筋合いはないの」
そう言い切った私に対し、エドガルは一度だけ肩をすくめ、「分かってる、分かってるさ」と軽く返しながらも、「でもな、剣を預けさせられて、ああして立ってるお前を見たら、どうしても昔の事を思い出してな」と、余計な一言を付け足す。
「昔の事なんて、今は関係ないでしょう」
「そうか? 俺はそうは思わなかったがな」
その言い方が妙に落ち着いていて、からかいとも断定できなかったせいで、一瞬だけ言葉に詰まり、視線を逸らしてから、「……あんたは、相変わらず人の神経を逆なでするのが得意ね」と低く返した。
◇
「それより、お前こそ、どうしてこんな所にいるんだ」
唐突にそう問われ、一拍置いてから、「通り道だっただけ」と答え、必要以上の説明はしなかったが、エドガルもそれ以上は踏み込まず、「なるほどな」と短く頷くだけに留めた。
「剣は、どこに置かれてる」
「村長の家よ、終わったら返すって言われてる」
「じゃあ、終わりだな」
その言葉に、小さく息を吐き、「そうね」とだけ返したが、そのやり取りが、妙に事務的で、昔とは違う距離をはっきり示しているようで、かえって居心地が悪かった。
「長居する気はないわ」
「だろうな」
即答だった。
その迷いのなさに、少しだけ眉を上げ、「随分あっさりしてるのね」と言ったが、エドガルは、何も答えなかった。
◇
沈黙が落ち、遠くから村人たちの話し声がかすかに聞こえてくる中、白い衣の裾を軽く持ち上げ、「じゃあ、私は戻る」と告げた。
「聖女様、頑張れよ」
「……それ、まだ言う?」
睨むと、エドガルは両手を上げ、「冗談だ」と軽くかわしながら一歩下がり、「二度ある事は三度ある。またどこかで会う事もあるだろ」と、いつもの調子で言った。
私はそれに答えず、ただ背を向けて歩き出し、剣を取り戻し次第、この村を離れるつもりでいる自分を、改めて確かめるように、足取りを早めた。
白い布の感触は、最後まで慣れなかった。
よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。




