第53章 感謝と別れ、そして次の一歩
ゴブリンの気配が完全に消え、風に揺れる草の音だけが戻ってきた場所で、剣を鞘に収めながら大きく息を吐き、「終わった……ちゃんと終わった」と自分に言い聞かせるように呟き、膝に溜まった力をゆっくりと立ち上がる事で身体に戻していった。
「立てるなら問題ないな」
背後から聞こえた師匠の声に振り返ると、彼は周囲を一瞥し、「無駄に突っ込まず、無理にまとめず、最後まで順番を崩さなかった、それだけで十分だ」と淡々と評価する。
「十分って言葉、あなたの口から聞くと、かなり上出来って意味よね」
私がそう言うと、師匠は否定も肯定もせず、「死ななかった事が一番の成果だ」とだけ返した。
◇
帰り道、肩に残る痛みを確かめながら歩き、「正直、途中で脚が止まりそうになった」と打ち明けると、師匠は「止まりそうになった時に、止まらなかった、それを覚えておけ」と短く言う。
「昔なら、無理に押し切ってたと思う」
「だから教えた、力は抑えるためじゃない、使い切らないためにある」
その言葉が胸の奥にすとんと落ち、「……今なら、分かる気がする」と静かに答えた。
◇
町に戻り、冒険者ギルドで依頼完了を報告すると、受付の女性は目を見開き、「本当に全部片付けたの?」と半信半疑の様子で問い返し、肩をすくめながら「生き残ったゴブリンがいないか確認してくれれば分かるわ」と答える。
「確認はするけど……あなた、随分落ち着いたわね」
「そう見えるなら、悪くない変化だと思う」
そう言って報酬を受け取り、ギルドを後にした。
◇
町外れで足を止め、師匠の方を向き、「……助けてくれて、鍛え直してくれて、ありがとう」と素直に頭を下げた。
師匠は少しだけ視線を逸らし、「礼を言われる事はしていない、剣を振る者が生き残った、それだけだ」と言い、「だが、今日の動きは忘れるな」と付け加える。
「忘れないわ、今度は一人で出来るようになる」
「それでいい、また鈍ったら、その時に考えろ」
そう言って師匠は背を向け、「俺はここまでだ」と歩き出す。
◇
その背中を見送りながら、「昔みたいに、後ろを任せられる人がいるのも悪くないけど」と小さく呟き、「でも、今は自分の足で進く方が性に合ってる」と剣の柄を軽く叩いた。
町道を離れ、再び旅の道へ足を向けながら、「伯爵家の令嬢でも、誰かの婚約者でもなく、冒険者として生きていく」と自分に言い聞かせ、前よりも確かな足取りで歩き出す。
風が背中を押し、振り返らず、そのまま次の土地へ向かった。
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