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第53章 感謝と別れ、そして次の一歩

 ゴブリンの気配が完全に消え、風に揺れる草の音だけが戻ってきた場所で、剣を鞘に収めながら大きく息を吐き、「終わった……ちゃんと終わった」と自分に言い聞かせるように呟き、膝に溜まった力をゆっくりと立ち上がる事で身体に戻していった。


「立てるなら問題ないな」


 背後から聞こえた師匠の声に振り返ると、彼は周囲を一瞥し、「無駄に突っ込まず、無理にまとめず、最後まで順番を崩さなかった、それだけで十分だ」と淡々と評価する。


「十分って言葉、あなたの口から聞くと、かなり上出来って意味よね」


 私がそう言うと、師匠は否定も肯定もせず、「死ななかった事が一番の成果だ」とだけ返した。



 帰り道、肩に残る痛みを確かめながら歩き、「正直、途中で脚が止まりそうになった」と打ち明けると、師匠は「止まりそうになった時に、止まらなかった、それを覚えておけ」と短く言う。


「昔なら、無理に押し切ってたと思う」


「だから教えた、力は抑えるためじゃない、使い切らないためにある」


 その言葉が胸の奥にすとんと落ち、「……今なら、分かる気がする」と静かに答えた。



 町に戻り、冒険者ギルドで依頼完了を報告すると、受付の女性は目を見開き、「本当に全部片付けたの?」と半信半疑の様子で問い返し、肩をすくめながら「生き残ったゴブリンがいないか確認してくれれば分かるわ」と答える。


「確認はするけど……あなた、随分落ち着いたわね」


「そう見えるなら、悪くない変化だと思う」


 そう言って報酬を受け取り、ギルドを後にした。



 町外れで足を止め、師匠の方を向き、「……助けてくれて、鍛え直してくれて、ありがとう」と素直に頭を下げた。


 師匠は少しだけ視線を逸らし、「礼を言われる事はしていない、剣を振る者が生き残った、それだけだ」と言い、「だが、今日の動きは忘れるな」と付け加える。


「忘れないわ、今度は一人で出来るようになる」


「それでいい、また鈍ったら、その時に考えろ」


 そう言って師匠は背を向け、「俺はここまでだ」と歩き出す。



 その背中を見送りながら、「昔みたいに、後ろを任せられる人がいるのも悪くないけど」と小さく呟き、「でも、今は自分の足で進く方が性に合ってる」と剣の柄を軽く叩いた。


 町道を離れ、再び旅の道へ足を向けながら、「伯爵家の令嬢でも、誰かの婚約者でもなく、冒険者として生きていく」と自分に言い聞かせ、前よりも確かな足取りで歩き出す。


 風が背中を押し、振り返らず、そのまま次の土地へ向かった。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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