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第52章 百の気配、逃げ道を作る

 町を出てから半日ほど歩いた頃、草丈の高い丘の陰に身を潜めた私は、遠くに見える荒れた土地を指差しながら、「……あれ、想像してたより多くない?」と低く呟き、視界の先に点々と動く緑色の影を数えようとして、途中で無駄だと判断して数えるのをやめた。


「数えるな、意味がない」


 背後から師匠の声が落ちてきて、小さく頷き、「少なく見積もっても、百近いわね」と感想を述べると、師匠は否定も肯定もせず、「だから簡単な依頼だ」とだけ言う。


「嫌味?」


「事実だ、強さではなく、状況で殺しに来る相手だ」


 その言葉に、喉の奥がひりつくような感覚を覚えながらも、「逃げ道、正面、横、背後……全部塞がれる前に動く必要があるわね」と独り言のように整理し始める。



 ゴブリン達の集落は、壊れかけた木柵と簡素な掘りで囲まれ、統率があるとは言い難いが、数だけは無遠慮に増えており、私が一歩踏み出すだけで、全体がざわりと動くのが分かった。


「突っ込まないわよ、さすがに」


 そう言うと、師匠は「ようやく学んだな」と一言だけ返し、私の肩を軽く叩いて後ろへ下がる。


「今回は、見てるだけ?」


「基本はな、死にそうなら止める、それ以上は期待するな」


 その距離感が妙に心地よく、深く息を吸い、「生き残るために振る、だったわね」と口の中で繰り返しながら、魔法の詠唱を最短で組み上げ、集落の端に向かって放った。



 爆ぜるような音と共に、端にいたゴブリン達が吹き飛び、集落全体が一斉にこちらへ向き直った瞬間、踵を返して距離を取り、「追わせる、集めない」と自分に言い聞かせながら走り出す。


「ギャギャッ!」


 耳障りな声が背後で重なり、木立の間へと誘導しながら、「狭い所なら、数は減る」と剣を抜き、追ってきた先頭の一体を切り伏せる。


 すぐに立ち止まらず、倒した勢いのまま位置をずらし、魔法で足元を乱しながら、「一体倒して、場所を変える、それだけ」と淡々と動きを繰り返す。



 次第にゴブリン達の追撃は散漫になり、息を整えながら、「全部を相手にしない、相手にさせない」と心の中で反芻しつつ、木の根を踏み台にして高所へ移動し、下から伸びてくる手をまとめて弾き返す。


「……数が多いって、こういう事か」


 思わず零れた言葉に、遠くから師匠の声が届く。


「止まるな、考え続けろ」


「分かってる!」


 返事と同時に地面へ飛び降り、着地と同時に剣を振るい、魔法で視界を遮りながら、再び走る。



 戦いは長引き、腕と脚が重くなり始めた頃、ふと気付く、「……減ってる」と。


 最初はただ必死に逃げ、削っていただけだったが、気付けば追ってくる数は半分以下になり、集落の奥では混乱が広がっているのが見えた。


「よし……ここからは」


 息を整え、「まとめて終わらせない、最後まで順番を崩さない」と自分に言い聞かせながら、最後の一群を誘導し、魔法と剣を織り交ぜて一体ずつ確実に倒していく。



 最後の一体が倒れ、周囲が静まり返った時、その場に膝をつき、「……生きてる、ちゃんと」と息を切らしながら呟いた。


 少し離れた場所から師匠が歩み寄り、「形にはなったな」と短く告げる。


「褒めてる?」


「事実を言っているだけだ」


 その言葉に思わず笑い、「じゃあ、それで十分」と答え、立ち上がって剣を鞘に収めた。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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