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第51章 簡単な依頼ほど、誤魔化しは利かない

 翌朝、身体中に残る鈍い痛みを抱えたまま立ち上がり、「正直に言うけど、全身が文句を言ってる」とぼやきながら肩を回すと、師匠は火を落とした焚き火の跡を踏み消しつつ、「それで動けるなら問題ない、動けないなら昨日の内容を忘れたと思え」と相変わらず容赦のない言葉を返してくる。


「忘れる前提なのね」


「身に付いたものは忘れん、身に付いていないものは、いずれ邪魔になる」


 その言い方が妙に納得できてしまい、反論を飲み込んで剣を腰に下げ、「で、今日はどうするの、まだ石を投げるなら先に言って」と半ば本気で身構える。


「今日は町へ戻る、机上の話より、動く理由が必要だ」


 師匠はそう言って歩き出し、一拍遅れてその背を追い、「理由って、相変わらず回りくどい言い方するわね」と言いながらも、自然と足取りが軽くなっている自分に気付く。



 町に戻ると、冒険者ギルドは朝の時間帯らしく比較的静かで、扉を開けながら「昨日より視線が少ない」と感じつつ、受付へ向かう。


「昨日の依頼、完了の報告ね」


 受付の女性は私を見るなりそう言い、血の落ちない染みが残る手袋を軽く掲げ、「問題なく終わったわ、廃屋ももう使い物にならないくらい片付いてる」と答える。


「相変わらず、報告があっさりしてるのね」


「長く話すほど、余計な事を聞かれそうだから」


 そう返すと、受付の女性は小さく笑い、「じゃあ、次の依頼を勧めてもいいかしら」と言いながら掲示板に目を向ける。



 師匠は少し離れた場所で腕を組み、周囲を観察するように立っていて、私が視線を向けると、何も言わずに顎で続きを促してきた。


「ちょうどいい依頼があるわ、町から半日ほどの場所で、ゴブリンが増えてきてるみたいなの、危険度は低めだけど、数が多いって報告が入ってる」


 その言葉を聞いた瞬間、昨日の教えが頭をよぎり、「数が多い、ね」と呟きながら、無意識に足の置き場を想像してしまう。


「簡単な依頼ほど、油断しがちだから気を付けて、単独でも受けられるけど、引き返す判断は早めに」


 受付の女性の忠告に、軽く頷き、「分かってる、無理を通す気はない」と答えつつも、その言葉が以前とは違う重みを持っている事を自覚する。



 ギルドを出た後、師匠の方を振り返り、「どう思う?」と率直に聞くと、師匠は即答せず、少しだけ間を置いてから、「いい依頼だ、簡単だからこそ、誤魔化しが利かない」と言った。


「昨日教わった事を、そのまま試せって事?」


「試すな、使え、試すつもりなら危ない」


 その一言に思わず苦笑し、「相変わらず、言い方が厳しい」と言いながらも、「でも、ちょうどいいかもしれない」と本音を漏らす。


「数が多い相手に、どう動くかを考え続けろ、考える癖を止めるな」


「分かった、逃げ道も含めて、全部ね」


 私がそう答えると、師匠は満足そうに頷き、「なら準備をしろ、日が高くなる前に出る」と短く告げた。



 町を出る前、剣の柄に触れながら、「簡単な依頼だからこそ、全部が出る、誤魔化せない」と自分に言い聞かせ、「昨日までの私とは違う動きを、ちゃんと形にする」と心の中で繰り返す。


「緊張してるか」


 師匠にそう聞かれ、一瞬考えてから、「してる、でも、悪い感じじゃない」と答える。


「それでいい、怖さが消えた時が一番危ない」


 その言葉を背中で聞きながら町道を離れ、ゴブリンの報告があった方向へと足を向け、「さて、どこまで通用するか」と小さく息を吐いた。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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