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第50章 剣を振る理由を、壊す

 草の湿り気を踏みしめて師匠の前に立つと、師匠は十歩ほど離れた場所に立ち、「構えろ、準備はいらん」と短く告げる。


「準備くらいさせてくれてもいいじゃない」


「敵は待たん」


 その一言と同時に、師匠の姿が一瞬で距離を詰め、慌てて剣を振り上げて受け止めるが、衝撃と共に腕が痺れ、「……っ、本気?」と声が漏れる。


「本気じゃなければ、昨日の指摘は意味を成さない」


 淡々とそう言いながら、師匠は間合いを外し、私が体勢を立て直すより先に再び踏み込んでくる。



 必死に剣を振るい、「昔より動けてるはずよ」と内心で自分に言い聞かせながらも、師匠の動きに追いつけず、何度も足を取られ、地面に膝をつく羽目になる。


「力はある、だが使い方が雑だ」


 師匠の声が上から降ってきて、歯を食いしばりながら立ち上がり、「雑でも当たれば倒せるでしょ」と反発するが、次の瞬間、軽く弾かれただけで体勢を崩され、「当たらなければ意味がない」と返された。


「……それは、そうだけど」


「お前は一直線に突っ込みすぎる、相手が一人ならそれでいいが、昨日みたいな数なら、必ず死角から刺される」


 師匠はそう言いながら、私の周囲をゆっくりと歩き、「視線を固定するな、足を止めるな、剣だけで解決しようとするな」と次々に言葉を投げてくる。


「剣士なんだから、剣で決めたいのよ」


「決めたい気持ちが先に立つから、動きが読まれる」


 その指摘に、思わず言葉を詰まらせ、「……それ、昔も言われた気がする」と呟いた。



 修行は朝から昼過ぎまで続き、何度も地面に転がされ、汗と泥にまみれながら、「これ、修行っていうより、しごきじゃない?」と半ば愚痴のように言う。


「区別する必要はない、結果が残ればそれでいい」


 師匠は水袋を放り投げて寄越しながら、「昨日の戦いを思い出せ、囲まれた時、何を考えていた」と問い掛ける。


「……数が多い、逃げ道がない、ここで倒れたら終わり、そんな事ばかり」


「それが駄目だ」


 即座に返されたその言葉に、眉をひそめ、「じゃあ、何を考えればよかったのよ」と問い返す。


「数を減らす手順と、立つ場所だ、恐怖は消えんが、順序は作れる」


 師匠は地面に小枝で簡単な円を描き、「一対多数では、勝とうとするな、生き残る手順を優先しろ」と言い切った。


「……生き残る、ね」


 その言葉を口の中で転がしながら、昨日の刺客達の顔を思い出し、「確かに、倒す事ばかり考えてた」と素直に認める。



 午後になると、師匠は周囲に散らばる石を指差し、「これを相手だと思え」と言い、私に向かって次々と石を投げ始める。


「ちょっと、聞いてない!」


「敵は予告しない」


 そう言われ、慌てて動き出し、剣で弾き、魔法で軌道を逸らしながら、「止まるな、止まったら全部当たる」と自分に言い聞かせる。


 最初は無様に当たり、何度も肩や脚に痛みが走ったが、次第に足が勝手に動き、「……こういう事?」と掴みかけた感覚に、師匠は小さく頷く。


「遅いが、気付いたな、剣を振る理由を変えろ」


「理由?」


 私が聞き返すと、師匠は石を投げる手を止め、「勝つためじゃない、生き残るために振れ」と告げた。



 日が傾き、草地に大の字になって倒れ込み、「今日はもう、立てない」と息を切らしながら言う。


「立てなくなるまで動いたなら、今日は十分だ」


 師匠はそう言いながらも、私の足元に立ち、「明日も続ける、逃げるなら今だ」と淡々と告げる。


「逃げないわよ、ここまでやられて、今さら引けない」


 そう答えると、師匠は初めて少しだけ口角を上げ、「それでいい」と短く言った。


 私は空を見上げ、「……まだまだ、やり直しね」と呟きつつも、不思議と胸の奥に灯るものを感じ、「でも、悪くない」と静かに目を閉じた。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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