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第49章 生きていた師匠と、鈍った剣

 私が「生きてたのね、師匠」と言った瞬間、老剣士はほんの一瞬だけ眉を動かしたが、それ以上の感情を表に出す事はなく、「死んだ事にしておいた方が、静かに酒が飲める時期もある」とぶっきらぼうに言い返しながら、倒れた刺客達の様子を一瞥し、まだ息のある者がいないかを確かめるように剣先で地面を軽く叩いた。


「久しぶりの再会で、その言い草は相変わらずね」


 私がそう返すと、老剣士は鼻で笑い、「お前が生きていた事の方が意外だ、妙な格好をさせられていた頃のままなら、ここで倒れていたはずだからな」と言い、私の装備と構えを値踏みするように見てくる。


「妙な格好って言い方、今でも腹が立つんだけど」


「腹が立つなら、もっと速く踏み込め、さっきの包囲で一拍遅れたのは三度だ」


 淡々と告げられたその言葉に、反論しかけて口を閉じ、代わりに深く息を吐き、「……やっぱり見てたのね」とだけ言った。



 刺客達が完全に撤退した事を確認した後、私達は道から少し外れた林の中へ移動し、簡単な野営の準備を整えながら、ようやく落ち着いて向き合う事になった。


「で、何でこんな所にいるのよ、あなたは王都から姿を消したって聞いてたけど」


 私がそう尋ねると、老剣士は焚き火に小枝をくべながら、「聞こえている話の半分は当たっていて、半分はどうでもいい話だ」と前置きし、「今はただの流れ者だ、名乗る必要もない」と言う。


「昔は、英雄だの何だのって、周りが勝手に持ち上げてたのに」


「だから消えた、肩書きは剣を鈍らせる」


 その言葉を聞いた瞬間、無意識のうちに自分の左手を見つめ、「……それ、私にも言ってる?」と問い返した。


 老剣士は少しだけ視線をこちらに向け、「言われたくないなら、剣で黙らせろ」と短く答えた。



 焚き火の前で剣の手入れをしながら、今日の戦いを頭の中で反芻し、「数が多いとはいえ、あそこまで押し込まれるとは思ってなかった」と正直な感想を口にした。


「思ってなかった事が問題だ、相手が一人でも十人でも、最悪を想定しない癖は昔からだ」


「昔は、あなたが後ろにいたからでしょ」


 そう言うと、老剣士は一瞬だけ口を閉じ、「今はいない、だから今日の出来だ」と静かに返す。


 剣を布で拭く手を止め、「……でも、こうして助けに来たじゃない」と言ったが、老剣士は首を横に振った。


「助けたんじゃない、通りがかっただけだ、だが結果としてお前が生きているなら、それで十分だ」


 その言い方が妙に不器用で、思わず小さく笑い、「相変わらずね」と呟いた。



「それで、あの連中は何だったんだ」


 老剣士が唐突にそう切り出し、焚き火を見つめながら、「私が消えてほしい人間が、まだ何人かいるってだけよ」とだけ答えた。


「追われる身で旅をするなら、なおさら今の戦い方は危うい」


「分かってる、でも、これ以上抑える気はない」


 私がそう言い切ると、老剣士は少しだけ目を細め、「抑えていた時間が長すぎたな、その癖が抜けきっていない」と指摘する。


「だったら、どうすればいいのよ」


 私の問いに、老剣士は焚き火の薪が爆ぜる音を挟み、「一対一の延長で戦う癖を壊せ、力を出す事と、使い切る事は違う」と言い、「このまま旅を続けるなら、今夜と明日くらいは付き合ってやる」と付け加えた。



「それって、修行の続きって事?」


 私が少しだけ身を乗り出して聞くと、老剣士は肩をすくめ、「そう思いたければそう思え、だが優しくはない」と答える。


「今さら優しさなんて求めてないわ」


「なら話は早い、夜が明けたら動く、今日は休め、無駄な消耗はするな」


 そう言われ、剣を鞘に収めながら、「命令口調なの、相変わらず」と言ったが、老剣士はそれ以上何も返さず、焚き火の番に戻った。


 横になりながら、空を見上げ、「……やっぱり、まだ甘いか」と自分に問いかけつつも、不思議と焦りよりも確かな手応えを感じていて、「もう一度、ちゃんと振れるようになるなら、悪くない」と静かに目を閉じた。


 次の日、冒険者ギルドに依頼のキャンセルを伝え、師匠と修行する事にした。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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