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第47章 剣を置かずに行く

 朝の村は静かで、昨日まで井戸の周りに漂っていた重たい気配が嘘のように薄れ、夜明け前に目を覚まし、焚き火の跡に残る灰を靴先でならしながら、「水は戻るわ」と独り言のように呟き、背後に誰の足音もないことを確認してから、腰に下げた剣を静かに整えた。



 村長の家を訪ねると、彼は私の顔を見るなり深く頭を下げ、「今朝、井戸の水が澄んでいた」と震える声で告げ、頷きながら「もう濁らない、原因は取り除いた」と短く答え、詳細を求められそうになる前に、「近づかないようにしていた判断は正しかった、それだけ覚えておいて」と付け加えた。


「一緒にいた若い剣士は……?」


 その問いに、一瞬だけ視線を外し、「村の外に埋めた」とだけ返し、それ以上は言わず、村長もそれ以上は尋ねなかった。



 村の外れ、昨日まで野営していた場所の少し先で、地面を掘り、拾い上げた剣を横たえ、「ここなら、水も土も悪くない」と口にしながら土を戻し、最後に剣の柄が見えないようにしっかりと踏み固めた。


「強くなったつもりで、前に出る癖は、最後まで抜けなかったわね」


 誰に向けるでもなくそう言い、返事がないことを確認してから、背を向け、二度と振り返らなかった。



 村を離れる道で、すれ違った子どもが桶を抱えて走っていくのを見て、足を止めず、「もう腹は壊さないわよ」と声を掛けると、子どもは意味が分からないまま笑い、その笑顔を視界の端に入れたまま、歩調を一定に保った。



 街道に戻り、周囲に人の気配が完全になくなったところで、ようやく足を止め、剣の柄に手を置き、「……短い同行だった」と低く呟き、胸の奥に残る重さを否定も肯定もせず、そのまま受け止めることにした。


 彼がいなければ、今回の依頼は一人で片づいただろう、彼がいたから、早く終わった部分もあった、だが、彼がいたから失ったものも確かにあり、その全てが自分の選択の延長にあると理解したところで、剣から手を離した。


「弟子は取らない、同行も長くは続けない」


 声に出して確認し、「それでも、人は近づくし、離れていく」と続け、誰に聞かせるでもない言葉を風に流した。



 空は高く、街道は続き、再び歩き出し、「足を止めたら、置いていかれるのは私のほうだ」と自分に言い聞かせながら、剣を背負い直し、前だけを見て進んだ。


 背後に足音はなく、それでも歩幅は乱れず、冒険者として、旅人として、今日もただ進むだけだと決め、その決意を確かめるように、一歩ずつ地面を踏みしめていった。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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