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第43章 水の味が変わった村

 昼を少し過ぎた頃、私たちは街道を外れ、低い丘に囲まれた小さな村へと足を向けていたが、遠目に見える家並みの配置が妙に散らばっているのを見て、「あまり計画的に作られた村じゃないわね」と呟くと、背後からカイルが「開拓途中なんだろうな」と答え、その声が以前より自然に聞こえることに気づきながらも、歩調は緩めなかった。



 村の入口に近づくにつれ、漂ってくる空気にわずかな違和感が混じり、「……水の匂いが重い」と私が言うと、カイルは首を傾げながら「井戸の村だって聞いたことがある」と返し、足を止めて周囲を見渡し、畑仕事をしているはずの時間帯にもかかわらず、人影が少ないことを確認した。


「人が引っ込んでるわね」


「警戒してる感じか?」


「ええ、外敵というより、日常が壊れてる時の空気よ」


 そう言って歩を進めると、村の中心に近い広場で、桶を抱えた老人とすれ違い、その中の水が微妙に濁っているのが視界に入り、反射的に足を止めた。



「失礼、その水、飲めるの?」


 私が声を掛けると、老人は一瞬驚いた顔を見せ、それから疲れたように肩を落とし、「飲めんことはないが、腹を壊す者が出始めてな」と答え、その言葉を聞いた瞬間、カイルに視線を向け、「剣に手を掛けない、まだよ」と小声で釘を刺した。


「最近になって、急にですか」


 私の問いに、老人は頷き、「三日前からだ、水の色も、味も変わった」と続け、その話を聞きながら、井戸の位置を探すように視線を巡らせた。


「魔物を見たとか、地面が崩れたとかは?」


「いや、そういう話は聞いとらん、ただ、水が変わっただけだ」


 その答えに、小さく息を吐き、「面倒なタイプね」と呟き、カイルが「依頼になるのか?」と問いかけてくるのに、「村長に会ってから考える」と返した。



 村長の家は広場の端にあり、扉を叩くと中から慌ただしい足音が聞こえ、痩せた中年の男が顔を出し、私たちを見るなり警戒と期待が入り混じった表情を浮かべた。


「冒険者か?」


「ええ、水の件を聞いた」


 その一言で、彼は深く息を吐き、「助けてほしい、井戸が使えなくなり、村は困っている」と頭を下げ、すぐに返事をせず、家の中に視線を向け、並べられた水瓶のいくつかが布で覆われているのを確認した。


「井戸はどこ?」


「広場の裏だ、だが、誰も近づきたがらん」


「理由は?」


「……気味が悪いらしい」


 その曖昧な言い方に、私は頷き、「今日は様子を見るだけ、無理はしない」と告げ、カイルに向かって「勝手に動かないで」と改めて言い含めると、彼は少し不満そうな顔をしながらも「分かった」と応じた。



 夕方、村の外れに野営の準備をしながら、村の井戸の方向を眺め、「水が濁る原因はいくつか考えられるけど、今は情報が足りない」と口にし、カイルが「明日、調べるのか?」と聞いてくるのに、「ええ、でも今日は近づかない」と答えた。


「怖がってる村人が多い、そういう場所は、焦ると碌なことにならない」


「慎重だな」


「生き残るほうを選んでるだけ」



 夜が訪れ、焚き火の音だけが響く中で、水袋の中身を確認し、「しばらくは持つ」と独り言のように呟き、カイルに向かって「明日は、私が前に出る、あなたは後ろ」と告げた。


「分かってる」


 その返事を聞きながら、剣を膝の上に置き、「この村では、まだ何も起きていない、だからこそ、起きる前に動く」と静かに言い、視線を火から外して闇の向こうへ向けた。


 水の匂いに混じる、かすかな異質さを感じ取りながらも、その正体を探るのは明日だと決め、今夜は剣を抜かずに休むことにした。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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