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第42章 並んで歩くということ

 夜明け前の空気は冷えていて、野営地に残った焚き火の名残からわずかに立ち上る煙を横目に、私は剣を背負い直しながら立ち上がり、「朝よ」と短く声を掛けたが、背後ではすでに気配が動いており、カイルは眠そうな顔を見せることもなく剣を手にして立ち上がっていた。


「早いわね」


「置いていかれる気はないからな」


 その答えを聞き流しながら、私は歩き出し、「ついてくるなら、私の後ろ三歩を維持しなさい」と告げると、彼は一瞬だけ眉をひそめながらも、何も言わずにその距離を保ち始めた。



 街道を離れ、あえて獣道のような不安定な地形を選んで進むと、足場は悪く、木の根や浮き石が行く手を阻むが、私は速度を落とさず、「視線を足元に落としすぎ、前を見なさい」と言葉を投げ、彼が慌てて顔を上げた瞬間に、「今の一拍で、首が飛ぶわよ」と淡々と告げる。


「……分かってる」


「分かってないから言ってるの」


 私は振り返らずに続け、「剣を振る前に、まず立って歩きなさい、歩けない人間に戦いは出来ない」と言い切ると、彼は悔しそうに歯を噛みしめ、歩幅を合わせようと必死に身体を動かし始めた。



 しばらく進んだところで、私は突然進路を変え、岩場へと足を踏み入れ、「ここから先は、音を立てたら置いていく」と告げると、カイルは驚いた顔をしたが、文句を言う代わりに息を殺し、足の置き場を探りながら進み始めた。


「剣士っていうのはね、剣を振る時間より、振らない時間のほうが長いの」


 私は低い声でそう言い、「その間に出来ることが少ないほど、戦いは短く終わる」と続けると、背後で小さく息を呑む音がした。


「……あんたは、ずっとこんな旅を?」


「そうよ、静かなほうが好きだから」


 その答えに彼は何か言いかけたが、私は手を上げて制し、「今は喋らない、音が出る」と告げ、彼は慌てて口を閉じた。



 岩場を抜けた後、私はようやく足を止め、「ここまで」と短く言って振り返り、彼の姿を確認すると、服には土埃がつき、呼吸も荒れていたが、視線はまだ折れていなかった。


「腕が上がった気でいる顔ね」


「……否定はしない」


「その顔が一番危ないのよ」


 私は剣に手を掛け、「抜きなさい」と言い、彼が慌てて構えた瞬間、間合いを詰めるでもなく、「その構え、昨日より遅い」と指摘し、彼が驚いた顔をしたところで、「疲れた状態で出来ないことは、本番では絶対に出来ない」と言い切った。



 軽く刃を合わせただけだったが、彼の剣は僅かにぶれ、私はすぐに離れて「今のは斬り合いじゃない、確認よ」と告げると、彼は悔しそうに剣を下ろした。


「昨日より、強くなった気がしていた」


「気がしていただけ」


 私は冷たく言い、「でも、悪い進み方じゃない、少なくとも、昨日のあなたなら、今の地形ではついて来られなかった」と続けると、彼は驚いたように顔を上げた。


「……本当か?」


「嘘をつく意味がないわ」



 昼前、再び歩き出しながら、私は「勘違いしないで、私はあなたを鍛えてるつもりはない」と釘を刺し、「ただ、邪魔にならない程度には動けと言っているだけ」と続けると、彼は苦笑しながら「それでも、俺にとっては十分だ」と答えた。


「満足するには早い」


「満足はしてない、追いつけないのが分かってるだけだ」


 その言葉を聞き、私は一瞬だけ足を止めたが、振り返ることはせず、「分かっているなら、前に出ないことね」とだけ告げて歩き続けた。



 夕方、次の野営地を探しながら、私は背後の足音が初めて自然に感じられることに気づき、苛立ちとも違う妙な違和感を覚えながら、「今日はここまで」と告げた。


「明日も、ついてくるか?」


 彼の問いに、私は少しだけ間を置き、「置いていく理由が見つかったら、そうする」と答え、焚き火の準備を始めた。


 彼はそれ以上何も言わず、黙って薪を集め始め、その背中を見ながら、私は「距離が縮んだわけじゃない」と自分に言い聞かせつつも、昨日とは違う歩幅で旅が進んでいることを、否定出来ずにいた。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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