第41章 ついてくる理由
夕暮れに染まり始めた街道を歩きながら、背後にぴたりと張りつく足音を無視し続けていたが、無視されて引き下がる程度の相手なら、そもそも最初から背中に剣を向けてきたりはしないだろうと分かっていたので、振り返らないまま「まだ帰らないつもり?」と声を投げた。
「帰る理由がない」
即座に返ってきた答えは、妙に落ち着いていて、先ほどまでの勢い任せの剣士とは別人のようだった。
「同行を許した覚えはないわよ」
「許しはいらない、置いていかれないだけでいい」
その言い分に思わず足を止め、「それを決めるのは私よ」と冷たく言い放ちながら振り返ると、若い剣士は少し距離を取った位置で立ち止まり、剣を鞘に収めたまま、真っ直ぐこちらを見ていた。
◇
「名前は?」
「カイルだ」
「そう、カイル、私は一人で旅をしているし、誰かを守る気もないし、あなたが途中で倒れても助けない、それでもついてくる?」
試すように言ったつもりだったが、彼は一切迷わず頷き、「それでいい」と短く答えた。
「どうしてそこまで?」
自分でも少し意外なくらい、私は理由を尋ねていた。
「今日、あんたと剣を交えた瞬間に分かった、俺は今まで、強くなったつもりでいただけだって」
彼はそう言って拳を握りしめ、「あんたの剣は、俺が目指してた先にあった」と続ける。
「それは勘違いよ」
「それでもいい」
あまりにも簡単に返されて、言葉に詰まり、舌打ちを一つしてから「勘違いのままついてきたら、痛い目を見るわよ」と告げると、彼は少しだけ口元を緩めた。
「それでも、今よりはましだ」
◇
再び歩き出し、空が完全に暗くなる前に野営できそうな場所を探しながら、「約束しておくけど、私は何も教えない、剣の振り方も、戦い方も、全部自分で見て盗みなさい」と突き放すように言うと、背後から「それで十分だ」という声が返ってきた。
「あと、私の前に出ないこと」
「盾扱いはしない」
「そういう意味じゃない、邪魔になるからよ」
少しきつめに言ったが、彼は不満を見せるどころか、「分かった」と素直に応じ、その従順さが逆に落ち着かない気分にさせた。
◇
野営の準備をしながら、火を起こし、最低限の距離を保ったまま腰を下ろす彼を横目に、「刺客だった相手を、よくそこまで信用できるわね」と言うと、彼は火を見つめたまま答えた。
「信用はしてない、ただ、あんたが俺を斬らなかった事実だけを信じてる」
「それは、殺す価値がなかっただけ」
「それでもいい」
何を言っても折れない態度に、小さく息を吐き、「面倒な相手を拾ったわ」と呟きながらも、火に薪を足した。
◇
夜が更け、虫の声が周囲を満たす中で、剣を手元に置いたまま横になり、「明日になってもついてくるなら、それはあなたの選択よ」と最後に念を押し、彼から「逃げない」という短い返事を聞いたところで、目を閉じた。
背後に人の気配があるまま眠るのは久しぶりだったが、不思議と嫌な感じはせず、「これ以上、深入りしない」と自分に言い聞かせながら、静かに意識を手放した。
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