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第4章 選ばれなかった理由が、別の形で並べられる

 演武の場として張られていた結界が静かに解かれ、広間に漂っていた緊張が完全に消えることはなく、むしろ評価という別の重さに変質して残り、視線が私から武官、騎士、そして王太子へと順に移っていく流れが、王宮という場所の空気の動き方を雄弁に物語っていた。


「これは、夜会の余興としては過ぎた内容ではないか」


 年配の侯爵が腕を組んだままそう述べると、その言葉をきっかけに、周囲から同意や異論が重なり、ここが感想を共有する場へと自然に変わっていく。


「過ぎたというより、判断材料としては十分すぎるほどでしょう。王国の防衛を語る場で、あの動きを軽視する理由が見当たりません」


「だが、王太子妃という立場に必要なのは、前線の力ではないという意見も理解できる。問題は、その線引きが妥当だったかどうかだ」


 誰もが一斉に答えを出そうとはせず、それぞれの立場から言葉を重ね、結果として、ひとつの判断だけが正しいとは言い切れない状況が、広間全体に共有されていく。



「リュシア様、先ほどの動きは、騎士団でも即戦力として通用する水準でした。あの場であれほど安定した制御を見せられる方は、そう多くありません」


 騎士団副長が率直にそう述べると、武官の一人も頷き、実務の観点から補足を加える。


「魔力の出力と剣の軌道が完全に噛み合っていました。戦場であれば、周囲の被害を抑えつつ成果を上げられる型です」


「評価が過ぎるのではありませんか」


 マリアンヌが控えめな調子で割って入り、しかしその声は、場の中心に届く強さを持っていた。


「殿下のお考えは、王妃としての役割を重視された結果ですわ。力があるからといって、全ての立場に適しているとは限らないのではありませんか」


「確かに、役割の違いは重要だ。ただ、その役割に当てはまらないからといって、価値が低いと解釈されるのは問題だろう」


 侯爵の返答に、別の貴族が続く。


「今回の件で注目すべきなのは、リュシア嬢が何を出来るかではなく、それを理由に切り離した判断が、どれほど慎重だったかという点だ」



 セルヴェール殿下は、集まる意見を遮るように一歩前へ出て、王太子としての立場を明確にする口調で言葉を並べる。


「私の判断は、王国の象徴としての王妃像を基準にしたものだ。武力を否定したわけではないが、前に出る性質が、常に適切だとは考えていない」


「前に出る性質、というのは便利なまとめ方ですね」


 その言葉を受け取り、視線を逸らさずに続ける。


「剣を振るえば前に出すぎ、魔法を使えば派手すぎ、意見を述べれば強すぎると判断されるのであれば、私は最初から、その枠に収まる存在ではなかったということになります」


「だからこそ、別の道を選んだのだ」


「ええ、殿下がおっしゃる通りです。私も同じ結論に至りました。ただし、その結論が、私の未熟さや欠陥を示すものだとは思っていません」


 そのやり取りを聞いていた貴族の一人が、小さく息を吐きながら言葉を落とす。


「向いていないという判断と、誤りだったという評価は、似ているようで違うものだな」



 空気がわずかに揺れ、誰かがその言葉を拾う。


「今回の件は、後者として受け取る者も出るだろう。これほどの力を示した存在を、王太子妃候補から外した理由が、説明不足だと感じる者がいても不思議ではない」


「説明不足、ですか」


 殿下の眉がわずかに動き、マリアンヌが慌てて言葉を添える。


「殿下は、国を思って決断なさったのです。その点を疑うのは、少し酷ではありませんか」


「疑っているのは動機ではなく、結果だ。判断は常に、結果によって評価される」


 その一言で、場の焦点が完全に定まり、誰もが、今夜の出来事をただの私的な婚約解消として扱えなくなったことを理解する。



「ここで評価を覆したいわけではありません」


 一歩下がり、場全体を見渡しながら言葉を続ける。


「殿下が下した判断は、殿下の立場に基づくものですし、それを撤回する必要もありません。ただ、私自身が、どのような存在であるかを示す機会を得ただけです」


「それだけで済む話ではないだろう」


 侯爵がそう返し、ゆっくりと首を振る。


「示された力は、王国の中で役割を持つ。それをどこにも置かないという選択は、別の意味を持つ」


「役割を与えられるために力を磨いてきたわけではありませんが、必要とされる場所があるなら、そちらを選ぶ自由はありますね」


 その言葉に、何人かが納得したように頷き、マリアンヌは唇を噛みしめる。



 夜会の再開を告げる合図が響き、議論は自然と収束へ向かい、しかし、その場で交わされた言葉の重さは、誰の中からも消え去ることなく残り続けていた。


 広間の端へと歩き、王宮の喧騒から一歩距離を取りながら、ここが自分にとって長く留まる場所ではないという感覚を、周囲の反応を通して静かに受け止めていた。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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