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第39章 剣を返し、道を分ける

 屋敷の門が見えた瞬間、夜明けの光を受けて石垣の輪郭がくっきりと浮かび上がり、肩に感じていた重みが少しだけ軽くなった気がして、「ようやく戻ってきたわね、剣も、人も、余計なものを抱えずに」と呟きながら、聖剣を包んだ布を抱え直した。



「――無事だったか」


 門前に立っていた老領主がそう声を掛けてきた時点で、答えを用意する必要もなく、「ええ、騒がしくはなりましたけど、終わらせてきました」と歩み寄り、包みを差し出すと、彼は一瞬だけ目を見開き、それから深く息を吐いた。


「これが……戻ってきたのだな」


「ええ、ちゃんと元の場所へ戻るべき剣です、途中で余計な手垢がつきましたけど、そのあたりは、我慢してください」


 冗談めかして言うと、老領主は小さく笑い、「お前らしい言い方だ」と応じつつ、剣を受け取る手に、確かな安堵を滲ませた。



 屋敷の中、静かな部屋で改めて聖剣が安置されるのを見届けてから、一歩下がり、「これで依頼は完了ですね、屋敷の周りを嗅ぎ回っていた連中も、もう寄りつかないでしょう」と告げると、老領主は深く頷いた。


「礼を言う、リュシア、剣だけでなく、この地の静けさも取り戻してくれた」


「静けさは、しばらく保てる程度です、また何かあれば、その時は別の冒険者を探してください、通りがかっただけの旅人ですから」


 そう言い切ると、老領主は一瞬、何か言いかけたように口を開き、しかし結局、「……そうだな」とだけ答え、それ以上引き留める言葉を口にしなかった。



 屋敷を出る準備を整え、中庭でエドガルと向かい合った時、剣の柄に手を置いたまま、「これから、どうするの」と率直に問いかけ、彼は少しだけ空を仰いでから答えた。


「仇は討った、剣も奪われずに済んだ、だから次は……俺自身の行き先を決める」


「いい答えね、誰かのためじゃなく、自分で選ぶなら、それで充分だと思う」


 そう言うと、エドガルは視線をこちらに戻し、「君は?」と問い返してきたため、迷いなく、「また歩く、次の依頼があるかどうかは分からないけど、剣を振りたい場所へ行くだけ」と返した。



「……あの頃、もし違う道を選んでいたら、こんな形で並んで剣を振るうことはなかったかもしれないな」


 彼の言葉に、小さく肩をすくめ、「そうね、でも、あの頃の私たちは、並んで立つより、追いかけて、追い抜いて、また離れるほうが似合ってた」と応じ、そのまま一歩距離を取った。


「後悔は?」


「ないわ、剣を振れたし、終わらせるべきものは終わった、それで十分」


 その返答に、エドガルはわずかに笑みを浮かべ、「君は、やはり強いな」と呟いた。



 別れ際、背を向ける前に一度だけ振り返り、「ねえ、エドガル、あの頃の初恋が、こうして終わるのも悪くないでしょう」と言うと、彼は一瞬驚いた顔をしてから、「ああ、剣を交えたあとなら、納得できる」と静かに答えた。


「それでいいわ、続きを作る必要はないし、ここで終わるから、きれいなんだから」


 そう告げて歩き出すと、彼の足音は追ってこず、その事実に満足しながら、門をくぐった。



 街道へ戻り、背中に差し込む朝の光を感じながら、「さて、次はどこへ行こうか」と独り言を零し、剣の重みを確かめるように歩き出す。


 聖剣は元の場所へ戻り、仇は倒れ、再会は別れへと変わったが、私の旅は終わらないし、終わらせるつもりもない。


 それでいい。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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