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第35章 託される剣の話

 朝の光がカーテンの隙間から差し込んだ時点で目が覚めた私は、旅の途中で泊まる宿とは違う、屋敷特有の静けさに一瞬だけ身を委ねてから、壁に立て掛けた剣に手を伸ばし、「まだ、錆びるほど大人しくしている気はないんだけど」と、誰に聞かせるでもなく呟いた。



 朝食の席で向かい合った老領主は、昨夜よりもいくらか表情を引き締めていた。その変化を見逃さず、「こうして改まった顔をされると、さすがにただの昔話では済まなさそうですね」と切り出すと、彼は頷き、「その通りだ、昨夜は伏せたが、今朝は隠す理由もない」と低く応じた。


「この屋敷には、代々伝わる剣がある、それは装飾品でも、威光を誇るための飾りでもない、だが放っておけば災いを招く類の代物だ」


 その言葉を聞いた瞬間、私は匙を置き、「災いを招く剣なんて、穏やかじゃないですね、持っているだけで厄介事を呼び込むなら、正直、扱いに困るでしょう」と率直に返し、老領主は「だからこそ、お前に話している」と、こちらを真っ直ぐに見た。


「最近、この地の周辺で、妙に探りを入れてくる連中が増えた、直接剣の名を出すわけではないが、目的が何であれ、狙いがこの屋敷に向いているのは明らかだ」


 私は腕を組み、「探りを入れる、ですか、それだけ慎重なら、相手も相当な数か、あるいは相当しつこいか、そのどちらかですね」と応じ、老領主は苦笑しながら「どちらも、だ」と短く答えた。



 食後、屋敷の奥へ案内され、分厚い扉の前で立ち止まった老領主は、「ここから先は、家の者でも簡単には入れん」と前置きし、私は「そういう場所に通されるのは久しぶりですね、昔は勝手に入って怒られた記憶しかありませんけど」と、軽口を叩いた。


「今は勝手に入れば、怒られるだけでは済まんがな」


 扉が開かれ、静かな空気の中に収められた剣を目にした瞬間、私は自然と背筋を伸ばし、「確かに、これは……目立つ剣ですね、嫌でも人目を引く」と率直な感想を口にした。


「美しいからではない、存在感があるからだ、その存在感に引き寄せられる者がいる、それが問題だ」


 老領主の言葉に、剣から視線を外し、「守る人間が減れば、余計に狙われる、そういう流れは珍しくありません」と淡々と述べ、彼は深く息を吐いた。



「そこで、頼みがある」


 老領主はそう切り出し、「この屋敷に留まって剣を守れ、と言うつもりはない」と前置きした上で、「外から来る者の動きを止めてほしい、これ以上、屋敷の者を怯えさせたくない」と続けた。


 即座に返事をせず、少しだけ間を置いてから、「つまり、こちらから動いて、原因を叩く、その役を私に任せたい、そういう話ですね」と確認し、老領主は迷いなく頷いた。


「剣を振れる者は他にもいる、だが、この話を黙って聞き、黙って動ける者は、お前しか思い浮かばなかった」


 その言葉に、苦笑し、「随分と都合のいい評価ですけど、断る理由が見当たらないのも事実ですね」と返し、剣に視線を向けた。


「ただし、はっきり言っておきますけど、座って守る役には向いていません、動いて、叩いて、終わらせる、それだけです」


「それでいい、いや、それがいい」


 老領主の即答を聞き、ようやく頷き、「では、その厄介事、引き受けましょう、世話になった屋敷が静かに眠れるなら、その程度の手間は惜しみません」と告げた。



 部屋を出る際、振り返り、「この剣は、まだここに置いておくんですよね」と確認すると、老領主は「そうだ、持ち出す話はしていない」と答え、「なら、準備は身軽で済みます」と短く返した。


 廊下を歩きながら、「まったく、久しぶりに立ち寄ったと思ったら、やっぱりこうなる」と独り言を漏らしつつも、足取りは自然と軽くなっていた。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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