第32章 踏み込んだら引けない
猟師たちの視線が私の背後に向いた瞬間、一歩だけ前に出て進路を完全に塞ぎ「その視線の先にあるものに興味を持つな、ここで踏み込めばお前たちは後悔する」と低く告げ、声に力を込めることで意図的に場の重心をこちらへ引き寄せた。
「後悔だと? 女一人でずいぶん大きく出るじゃねえか」
嘲るような声に、肩をすくめることもなく「人数と装備で物を言う連中ほど、自分が倒れる順番を想像しないものだ、今なら引き返せる、それが最後の忠告だ」と言い切り、剣を抜く前から間合いを詰める。
「脅しなら無駄だ、こっちは何度もドラゴンを――」
最後まで言わせる必要はないと判断した私は、足元の土を踏み抜いて一気に距離を詰め、言葉の続きを断ち切るように柄で鳩尾を打ち抜き、衝撃と同時に魔力を流して呼吸を奪う。
「がっ――!」
一人目が地面に膝をついた瞬間、回転しながら二人目の足首を薙ぎ払い、「立って話せと言ったはずだ、地面の感触を覚えたいなら止めはしないが」と吐き捨てる。
「やりやがったな!」
怒号と同時に矢が放たれたのを、視線を動かさずに感じ取り、剣に薄く魔力を纏わせて弾き、「狙いが甘い、獲物に集中しすぎて周りが見えていない」と告げながら前に出る。
「囲め、近づけるな!」
号令が飛び、猟師たちが距離を取ろうとするが、その動きを読んで地面を蹴り、「距離を取る判断は正しいが、遅い」と短く言い、最も動きの鈍い者の肩を打ち抜いて体勢を崩す。
「くそっ、魔法使いか!」
「違う、剣も使う、どちらか一つだと思い込むから対応が遅れる」
そう言いながら、背後に回り込もうとした猟師の腕を掴み、関節の可動域を超えない位置で強く捻り上げ、「折られたくなければそのまま伏せろ」と耳元で囁く。
「わ、分かった!」
悲鳴混じりの返事と同時に一人が地面に伏せ、すぐに手を離して次へ向かう。
「殺すつもりはない、だが止まるつもりもない、立つなら覚悟を決めろ」と宣言し、最後の一人が振り上げた刃を受け止め、力任せではなく軸を崩すように押し返して転倒させる。
「くそ……女のくせに……」
「性別で強さを測るな、その癖が今の結果だ」
倒れた猟師の胸元に剣先を向け、皮膚を切らない距離で止め、「これ以上動けば、次は痛みで済まなくなる」と告げ、視線を全員に巡らせた。
◇
猟師たちは息を荒くしながらも武器を手放し、明らかに戦意を失っていたが、剣を引かずに「まだ終わりじゃない、ここで何をしていたか、もう一度はっきり言え」と命じる。
「……ドラゴンを追ってた、子どもがいるって噂を聞いて……」
その言葉を聞いた瞬間、背後で小さく息を呑む音がしたが、振り返らずに「噂で命を賭けるほど、ずいぶん軽い覚悟だな」と冷たく返す。
「危険だからだ、村に被害が出る前に――」
「危険かどうかを決める前に、子どもを囮にする判断をした、その時点で言い訳は終わりだ」と切り捨て、剣先をわずかに下げて圧を緩める。
「今から選べ、二度とこの森に近づかないか、ここで私に徹底的に怖さを覚えさせられるかだ」と告げると、猟師たちは顔を見合わせ、迷いなく前者を選んだ。
「分かった、もう来ない、誓う!」
「誓いは要らない、逃げる背中を覚えろ、次に会った時に迷わず思い出せるようにな」と言い放ち、一歩退いて道を空ける。
猟師たちは転がるように森を離れ、足音が完全に消えたのを確認した後、剣を収めて振り返る。
「もう大丈夫だ、出てこい」
木陰から恐る恐る姿を現した小ドラゴンは、目を見開いたまま私を見つめ、「……すごい」と呟き、肩をすくめる代わりに「すごくはない、必要なことをしただけだ」と返した。
「殺さなかったね」
「ああ、殺す必要がなかった、それだけだ」
小ドラゴンはしばらく黙り込み、それから小さくうなずいて「ありがとう」と言い、その言葉を受け取るように一度だけ頷いた。
「行くぞ、匂いはまだ続いている、母親は近い」
そう告げて再び歩き出した私の背中に、小ドラゴンは迷いなくついてきた。
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