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第27章 狙われる理由

 青年と別れてからしばらく、森を抜けるまで一切足を止めずに歩き続けていたが、背後に残した気配が完全に消えたと確信出来た頃になって、ようやく呼吸を整え、胸の奥に溜まっていた緊張が遅れて押し寄せてくるのを感じていた。


「……やっぱり、甘かったかもしれないわね」


 独り言として漏れた声は、森の朝の空気に溶けて消えたが、その直後、空気の密度がわずかに変わった感覚が背中を撫で、反射的に剣に手を掛けて足を止めた。



 風とは違う揺らぎが、左右から同時に迫ってくる。視線を動かさず、呼吸だけを落とした。


「出てきなさい。隠れ方が下手よ」


 挑発するようにそう告げると、木々の影から黒装束の人影が二つ、音もなく姿を現し、その立ち方と間合いの取り方を見ただけで、ただの盗賊ではないと理解出来た。


「さすが、元は伯爵家令嬢というべきか。それとも、王太子殿下の元婚約者と言うべきか」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が冷え切り、同時に妙な納得が生まれる。


「どちらで呼ばれても、今の私は冒険者よ。それ以上の肩書きは、あんたたちに関係ない」


 私がそう言い切ると、刺客の一人が小さく笑った。


「関係はある。君が生きている限り、不都合だと感じる方がいるだけだ」



 その言い回しだけで、誰が背後にいるのかは察しがついた。剣を抜き、魔力を流す。


「回りくどいわね。用件は分かってる。私を消したい、それだけでしょう」


「理解が早くて助かる。なら、話は早い」


 言葉が終わるより早く、刺客が同時に動いた。地を蹴り、真正面から一人目に斬りかかる。


 剣が交差し、金属音が森に響く。



「っ……!」


 一瞬で間合いを詰め、力任せに叩き割る。相手は受け止めきれず、後方へ弾き飛ばされた。


「剣だけじゃないのか」


 背後から声が聞こえた瞬間、魔法を解き放つ。以前よりも軽く、鋭く。


 刺客の動きが鈍り、その隙に距離を詰めた。


「教えてあげる。私は、抑えられてただけ」


 その言葉と同時に、剣を振り抜く。



 残る一人が距離を取ろうとしたが、逃がすつもりはなかった。地面を蹴り、追撃に移る。


「任務失敗だな」


 刺客はそう呟きながらも抵抗をやめず、短剣を投げてくるが、それを弾き、魔法で動きを止めた。


「誰の命令?」


 問い掛けるが、返ってきたのは歪んだ笑みだけだった。


「答える義務はない」


「そう。なら、ここまで」


 迷わず剣を振り下ろし、刺客を無力化した。



 静寂が戻る。深く息を吐き、剣を下ろした。


「……やっぱり、来たわね」


 相手の言葉を思い返し、胸の奥で名を呼ばずに思考を巡らせる。新しい婚約者マリアンヌが、私を快く思っていないことは噂で聞いていたが、ここまで露骨に動くとは思っていなかった。


「でも、だからどうした」


 剣を拭い、鞘に収める。


「私はもう、止まらない」


 その言葉は誰に向けたものでもなく、自分自身に刻み付けるためのものだった。



 森を抜ける道を再び歩き出しながら、一瞬だけ、黒いローブの青年の顔を思い浮かべ、すぐにそれを振り払った。


「巻き込まなくて正解だった」


 そう呟き、歩調を速める。


 この一件は、まだ始まりに過ぎない。それでも、立ち止まらず、正面から叩き割って進む。

よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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