No.72 買収は良く無いと思う
しかし、妾も無策でこんなことを言いだしている訳ではない。
「聞くのじゃカルカン。前世と今のお主。最も違う点があるじゃろうに」
キョトンとしていてカルカンは自覚が無さそうだ。
妾は一つ咳ばらいをする。
「今のお主はどういった存在じゃ?」
「私は光の神なのにゃ」
「うむ。伝心というのを使えば万物と心を通わすことができるのじゃろう?」
頭の上にハテナマークを出しながらもカルカンは頷く。
妾はズバッと天を指差した。
「ズバリ! 出走馬に伝心で誰が一番になるかをお願いして、馬たちに忖度して貰おう作戦なのじゃ!」
カルカンが驚愕の表情を見せる。
「そ、そんな八百長みたいなことをして大丈夫なのかにゃ?」
「さて、馬の心を読めるものがおれば話は別じゃが、そんなものはおらんじゃろう。つまりバレることのない完全犯罪なのじゃ!」
カルカンの視線が泳ぎだし、急にオドオドし始める。
「神がそのような行為をするのは……」
「お? そんなことを言うのかぇ? カルカン、良く考えてみぃ。勝てば名酒を浴びるように飲めるのじゃぞ? そして誰にも決してバレない。どうじゃ?」
迷わないと豪語しているカルカンが、揺れている。
ここはもう一押しだろう。
端末を操作し、高級ブランデーのページを開いて見せる。
「ほれ、これとか良さそうに思わんか? 華やかなピート香と書いてあるぞぇ」
カルカンの瞳から光彩が消えた。
「何から始めればいいのにゃ?」
「フフフ、お主も悪よのぅ」
そうして結成した妾とカルカンの秘密連合。
サラブレッドたちに脅しをかけて勝ち負けの順位をコントロールさせた。
実況も競馬ファンも阿鼻叫喚の地獄絵図と化し、謎の遅いタイムが乱立するという競馬史上最もおかしな春シーズンが到来したのだった。
「ワハハ! カルカン、この調子でダービーも頂こうでは無いか!」
「そ、そうにゃ。これは仕方ないことなのにゃ。でも、ダービーは関わる人たち全ての夢なのにそこにイカサマを持ち込むのはなんか心ぐるしいのにゃ……」
「まだそのようなことを抜かしとるのか? 世の中、金が全てなのじゃ!」
しかし、悪事と言うのは長続きしないもの。
破竹の連勝を続けていたらラザが行動を起こしてしまった。
『う~、二人からいけないきもちが流れてくるござる~! ほうこくござる~』
法則の男神とやらに報告をすると言いだしてしまい、カルカンは必死に謝り出した。
妾の尻尾も引っ張って「謝るのにゃ!」と強要してくる。
妾は小声で聞いてみた。
「そんなにヤバいのかぇ?」
必死に頷くカルカン。
「法則の男神の神罰は最も恐ろしいのにゃ!」
カルカンが語る神罰の前例を聞き、全身の毛が逆立った。
妾とカルカンは平謝りを続け、二度としないこととドーナツ1000個を条件にどうにか許しを得る。
『買収はよくないござる~』
ドーナツを頬張るラザはご機嫌だった。




