No.70 究極の二択
「なお! この特訓メニューを合格で乗りきらぬ限り一切の禁酒とするのじゃ!」
「にゃ!? にゃんだってーーー!?」
妾がエンジョイするためのカルカン特訓が開始された。
とはいえ、何から始めれば良いか分からないのでオキノに相談してみた。
すると「まずは色んな二択問題を出して即応性を高めて見てはどうか?」という有り難い助言を貰う。
「カルカンのために妾が二択問題を沢山用意してやったのじゃ。泣いて喜んで感謝せぃ」
「そ、そんなことよりそろそろビールが欲しいのにゃ」
「くどい!」
ここは心を鬼にしてカルカンの特訓を実施する。
「では問題じゃ! 右に行けば恋人、左に行けば妹が救える。どちらか一人しか救えんとしたらどちらに向かう?」
「左にゃ」
即答か。恋人なんぞ居なさそうだし、妹自慢もしていたからこれは予測できた。
「次じゃ! 右は10人の仲間を救えるが、左は妹しか救えん。これはどうじゃ?」
「左にゃ」
これも即答か。
「では右は50人とお主が尊敬しているという父親、左は妹ならどうじゃ?」
「左なのにゃ」
全くぶれない。それからも大量に質問したがその全てを即答された。
ここまでくれば嫌でも分かる。カルカンはシスコンだ。
ソワソワした様子を見せるカルカン。
「もう良いかにゃ? そろそろビールが恋しいのにゃ」
「……なるほど。では、右はビール、左は妹ならどっちじゃ?」
「右にゃ!」
負けた。国の命運にも勝った妹が瞬殺されてしまった。これは酷い。
「……のぅ、カルカン。もう少しは迷ったらどうなのじゃ?」
「迷う? 人生において迷う時間ほど無駄なことはないのにゃ」
カルカンのくせに生意気だ。斯様な格言っぽいことを口にしては何も疑わない純真な目を向けてくる。
「お主、迷ったことがないと申すか?」
「無いのにゃ」
堂々と頷くカルカンだが、これは迷ったうちにカウントしていないだけでは無いだろうか。だが、カルカンの中には明確な優先順位があるようで、迷った素振りを見せたことがない。
「暫し待て!」
そう言って妾は襖を全開にする。いつものように微睡んでいる熊の置物に語り掛けた。
「ラザや。お主が迷う時はどういうときじゃ?」
『う~? ごはんじかんござる~?』
「なら、それでも良いわ。ご飯で迷うことはないかぇ?」
暫しの静寂の後、ラザの言葉。
『ぜんざいとおしるこはどっちが好きか迷うござる~』
「あい分かった!」
妾は天啓を得た。
究極の二択とは一見して他者からはほぼ同じところに存在する。
カルカンへ向き直った妾は不敵な笑みを浮かべる。
「必ず迷う質問をしてやろうぞ」
「私が迷うことなんて無いのにゃ」
「では問題。どちらか片方を選べば選ばなかった方は永遠に消滅してしまう。OKかぇ?」
静かに頷くカルカン。
「左は黄金の麦酒、ピルスナー。右は漆黒の麦酒、スタウト。さぁどっちを選ぶ!」
「…………」
目標、完全に沈黙。




