No.68 代理温泉
「はぁ……羨ましいのじゃ……」
ネットで温泉地の情報を見る度に溜息がでる。
「ヨウ、溜息なんかついてどうしたのにゃ? 辛気臭いのにゃ」
「妾も熱海や草津や別府への憧れがあるのじゃ!」
「何にゃ? 地ビールの話かにゃ?」
カルカンは相変わらず空気を読まない。妾が温泉旅行にいきたいと言っても、「ビールはお取り寄せできる」とか「ドローン撮影で旅気分」とか見当外れのことしか言わない。なお、温泉地を撮影させに向かったドローンは撃墜されている。残った映像も湯気だらけで、温泉そのものは良く見えなかった。
「と に か く! 妾は温泉に飢えているのじゃ!」
一先ず気分から入るということで今日から暫く浴衣のみで過ごすことにした。
湯船に使ったあと、ジョアで一杯やる。
「ぷはぁ! うーむ、それっぽい気分にはなったが何かが足らぬ。何じゃと思うカルカン?」
飲んだくれているへべれけが、テーブルに突っ伏したまま答える。
「地ビールか地酒。それをお取り寄せすれば気分は完璧にゃー。あとはご当地の海鮮もあるとダブルで完璧にゃー……うぃっく」
完全にカルカンの好みな気もするが、旅慣れしている先達からの助言は有り難く受け取るべきだろう。
ネットで調べてみたら金額的にはふるさと納税の方がお得だったのでそちらで手配。
だが、ふるさと納税は届くのにタイムラグが大きいことを妾は失念していて、商品が届く頃には妾の中でブームは既に去りつつあった。
「今さら届いてものぅ……おぉ、カルカンや地ビールや地酒があるぞ。一緒にやらんかぇ?」
「勿論なのにゃーーー!」
散々飲み食いをして二人して酔いつぶれてしまい、翌日に頭痛と同伴で目覚める。
「うぅ、頭が痛いのじゃ。風呂にでも入ってさっぱりするかの」
機械式フロアを入れ替えて衣服を脱ぎ、梯子を上る。
するとそこには濁り湯が用意されていた。
「なんじゃカルカン。気が利くではないか。ういやつよのぅ」
口では文句を言っておきながらこんなサプライズを用意してくれる。下のフロアで寝ているカルカンに心の中で感謝を伝え、妾は湯船に飛び込んだ。
「確かに良い香りじゃが……なんかこう違うのじゃ」
大海を泳ぐ力強さを感じるかつおだし。
海底に芽吹きぬめりをもって恵みをもたらす昆布。
そうこれはとても美味しい日本の食卓の出汁。
体の芯から温まっていると、カルカンが梯子を上ってくる音が聞こえる。
「なんにゃ? 作り置きの味噌汁が台無しなのにゃ。私はヨウが入った味噌汁は飲みたくないのにゃ」
「カルカン、それが遺言かぇ? そこになおれ!」
カルカンを往復びんたの刑に処し、残り湯は何も知らないラザの食事としてシレっと出すこととなった。
『お味噌汁おいし~ござる~!』




