No.62 果てしない泥合戦の果て
そのことを思い出して妾が尻尾を荒ぶらせていたら、カルカンが手で宥めつつ諭してくる。
「ヨウ、落ち着くにゃ。それで気付いたことは無いかにゃ?」
「何をじゃ? この紫陽花ゆう女がムカつくのは嫌というほど分かったのじゃ」
「彼氏と一緒に取っている写真は無いのにゃ」
確かに。ラブラブと言っている割りには、彼氏と一緒に取った写真が一つもアップされていない。
カルカンがさらに証拠写真を肉球で指し示した。
「あと、この手、指。良く見るのにゃ。紫陽花と彼氏の手を。付けネイルでデコっているけど、それ以外のところを良く見るのにゃ」
「……完全に一致なのじゃ!」
何という事だ。こんな単純なことも怒りで見落としていたとは。
妾が肩をわなわなと震わせていると、カルカンがポンポンと肉球で諫めてきた。
「倍返しするかにゃ?」
「当然じゃ。アヤツの秘密を白日の元に晒してSNSを出来なくしてやろうぞ」
──数週間後。
果てしない泥合戦を経て、妾とカルカンの連合が完全勝利を収めた。
しかし、失ったもののほうが甚大となる。
「ふぉ、フォロワー数が15まで減ってしまったのじゃ……」
連日のように口汚い暴露レスバを繰り広げた結果、妾の336人だったフォロワーが僅か15人まで激減してしまう。いや、寧ろ良く15人も残ってくれた。
カルカンは相変わらず空気を読んではくれない。
「ヨウ、ヨウ。紫陽花のアカウント削除まで追い込んだけれど、今夜は祝杯かにゃ? 私はお祝い事に鰻が食べたいのにゃ」
「お主、言いたいことはそれだけかぇ? 妾の被害は甚大ぞ?」
確かにアヤツが先にいちゃもんをつけてきた。混沌としたレスバの中で、妾の尻尾やカルカンの姿に対しやれ合成だとか、やれ生成AIだとか騒ぎ立てたのはアヤツが先だった。
それに苛立っていた妾は、アヤツが屋外でセレブ風な写真を取っていた現場にドローンを急行させて発見したのだが、そこから先が問題。
カルカンが良かれと思って、アヤツの心と記憶を読み取り、全ての個人情報をネットに晒してしまった。
妾も妾のフォロワーたちも一同ドン引きである。
そして大炎上。
敵は去った。が、しかし、残ったのは僅かなフォロワーと炎上を聞きつけた大量のアラシと、妾への誹謗中傷のポストの数々。
「妾は色々と間違っておった。敵を叩き伏せようとしたことも間違いじゃが、そもそもカルカンを参謀に迎えたことが間違い。気が狂っておったとしか思えん」
「ヨウ、ヨウ。この店なんかどうにゃ? 国産の鰻で白焼きも美味しそうにゃ。鰻巻きや唐揚げの評判も高くてどれも美味しそうなのにゃー」
のほほんと鰻の写真を眺める相棒に一つ確認。
「酒と鰻。どちらのグレードを優先するかの?」
「酒にゃ」
「さようか」
それはもうキラキラした純粋な瞳だった。




