No.60 マウント女
「のぅ、カルカン。妾はキャンプ飯への憧れが捨てきれんのじゃ」
機械式フロアの一つをアウトドア風に改造してみたが、竃や焚火はNGと言われてしまい色々と断念させられて意気消沈したところ。
「ちょっとだけなら大丈夫だったりせんのかぇ? 炊飯ジャーではのうて飯盒で炊いた白米を食べてみたいのじゃが」
「何度も言うように火事になったらどうするのにゃ! というより一酸化炭素中毒の懸念もあるからIH以外は禁止なのにゃ!」
茶室から出られない妾としては、アウトドアやキャンプ飯へ憧れが募るばかり。
「あれもダメ、これもダメでは息が詰まるのじゃ! せめてキャンプ飯の雰囲気だけでも味わいたいのじゃ……」
妾の嘆きに対し、カルカンは憐れむような視線を向けてくる。
「どうせSNSでマウント取られたから、自分もやりたいだけにゃ。ちっぽけ過ぎるプライドなのにゃ」
「ちっぽけで何が悪いのじゃ! マウントを取られたのなら取り返さねばならぬ! これは言わば戦争なのじゃ!」
そう。発端は妾のSNSに突如現れるようになった『紫陽花 紅葉』とかいうアカウントの女。そもそも初夏なのか秋なのか季節感がバグった名前なのに、やたら妾に絡んで季節のイベントごとにマウントを取ってくる。
「同じ港区女子として負けられんのじゃ。それにはアウトドアもこなすアクティブな女子で無ければならぬ!」
「なんだか謎理論すぎてついていけないのにゃ。それにあの紫陽花さんは、私の見立てだと絶対に中身は男なのにゃ」
カルカンの主張はにわかに信じがたい。あの女の投稿はいずれもセレブ女子っぽい写真付き。
「明らかに女子じゃろうが。この写真とか見てみぃ」
「顔出しは引きの写真だけで、自撮りは全部マスクしているのにゃ」
言われてみれば確かに。
「メイクと画像編集で男でも女性に見せることは可能にゃ。アップのときにマスクを付けているのも怪しいにゃ」
「それは身バレ防止では無いのかぇ?」
「それなら引きのときも隠したり、目の方を隠すのが普通にゃ。あれは髭痕を隠していると思うのにゃー」
カルカンの癖に何やら見立てがしっかりしていて、論理も破綻していない。
「百歩譲ってそうじゃったとして、何故、港区女子を装っておるのじゃ?」
「ヨウにマウント取るためにゃ。クリハンで以前ヨウがマウントを取っていたアイツだと思うにゃ」
妾とカルカンがプレイしているクリーチャーハンティング。通称クリハンで絡んできたアラシが正体だという。
「確かにあやつはヘタクソだったゆえ、妾がボロカスにゆうたのじゃが、それがどうして紫陽花 紅葉とかいう女に結びつくのじゃ?」




