No.58 効き酒、嬉々酒、危機酒
「にゃっにゃにゃっにゃ」
相変わらずカルカンがはしゃいでいる。
今も有り難がってお値段が張る日本酒の一升瓶を抱えているが、そもそもこのアホの子に酒の味が理解できているのか。疑問しかない。
「のぅ、カルカンや。お主、その長野と石川と富山の違いはちゃんと理解できておるのかぇ? 高価な日本酒をラッパ飲みとは敬意もへったくれもないのぅ」
「にゃ? 最大限の敬意を払っているにゃー。味の違いも『完全に理解した』状態なのにゃ!」
「どうじゃか……」
分かっているという疑わしい主張をするカルカンのために利き酒を行うことに。
「では、準備をするゆえ、暫く部屋の外に出ておれ」
「はいにゃー! うぃ~、うぃっく」
カルカンをラザの元へ送り出し、妾は三本の日本酒を取り出してシャンパングラスへと注いでいく。
「ふむ。こっちは林檎みたいな香りがするのじゃ。こちらは梨かの。これも微かに桃にも感じられる良い香りなのじゃ」
色合いがほとんど一緒なのでどれも同じかと思っていたら、全く違う。香りだけで分かると豪語していたカルカンの言が正しいのかも知れない。
準備が整ったので戻ってくるよう襖越しに声をかける。
「おーい、利き酒の準備が出来たのじゃ」
「待ちくたびれたのにゃー。私にかかればイージー問題なのにゃ」
両手にビールとウイスキーを抱えたカルカンが戻ってきた。飲まないという選択肢が一秒たりとも無いその姿には呆れてしまう。
「さすがは越中から信濃の名酒たちなのにゃー」
カルカンはああ言っているが、さり気なく一つだけ山形を差し込んでおいた。
この違いを指摘できたのであれば、あの呑兵衛の愛は本物ということになる。
カルカンは鼻をヒクつかせて匂いを一通り堪能したのち、それぞれをチビチビと楽し気に飲んでいた。
「で、そろそろ結論は出たかぇ?」
振り向いたカルカンは不敵な笑みを浮かべる。
「左から、石川、富山、長野なのにゃーーー!」
「ファイナルアンサーかぇ?」
腕を組んで鼻息荒くドヤ顔を決めるカルカン。
念のために確認を取っておく。
「のぅ、カルカン。左は石川で良いのじゃな?」
「くどいのにゃ! これは石川以外にあり得ないのにゃーーー!」
妾は一つ咳ばらいをした。
「うおっほん。正解は左から山形、長野、富山じゃから全問不正解なのじゃ」
「にゃーーー?」
カルカンは腕組みのままで器用にも上半身全体を傾げてみせた。
「出題する酒瓶の中に石川があったはずにゃ……」
「うむ。だが直前になって山形に差し換えたのじゃ」
カルカンは顔を紅潮させてプルプルと震えだす。




