No.5 お茶を所望したら茶室が建った!?
首を傾げたカルカンへ満面の笑みで妾は応じる。
「いやいや、喉が乾いていてはまともな望みなんぞ出てこぬし、とても満足して同意する気分にはなれんのぅ」
「なら、お茶を用意するのにゃ。煎茶で良いのかにゃ?」
「アールグレイが良い。それにこんな殺風景なところでは気分が乗らぬとは思わんかぇ?」
妾の問いに首をフルフルと振るカルカン。
「契約書にサインをしたはずにゃ。ヨウはここから自らの意志で出ることは出来ないのにゃ」
「あぁ、妾が歩いて出るのはできんのじゃろうが、カルカンよ。お主が運べば話は別じゃろ? 妾は絶景が無いとお茶を飲んだとは認められんのじゃ」
信じられないとでも言わんばかりに、カルカンは目を丸くし、毛を逆立てている。
「ん? 出来るじゃろ。契約書は不可抗力のケースに対応できるよう、その辺を曖昧にしておったからな」
「あのヨーコ様から生まれたとは思えないほどずる賢いにゃー……」
「それは妾の母に対するディスリかぇ? 会ったらチクるぞよ?」
バタバタと動いて合掌ポーズで、声にならない声で謝罪をしながら涙を流し始めるカルカン。
どうやら妾の母は怒らせると怖い存在のようだ。
「ほれ、さっさと連れて行かんか」
「うぅぅ、仕方ないのにゃー」
どうやって運んでくれるのかを少しばかりウキウキして待っていた。
しかし、運ぶ様子は一向に見られない。
「おい、カルカン、はよ連れて往くが良い」
「いま呼び出しているから大丈夫にゃ」
「何が大丈夫なのか妾にも分かるように説明せい」
「ここを変えるのにゃ」
暫く待っていたら屈強な男たちが数十人現れて、扉も壁も破壊してあっという間に作り変えてしまった。
閉塞感のあった独房は、見晴らしが良すぎる展望台に早変わり。
吹きさらしの風が少し肌寒くすら感じる。
女メイドが一人やってきてアールグレイをカップに注いでくれた。
「ほら、絶景を用意してやったのにゃ。それを早く一気で飲むにゃー。イッキ、イッキ!」
「なるほど。そうきたか。……気が変わった。妾は抹茶が良い。噂に聞く異世界の日本茶室で飲んでみたいのぅ」
「さっそく作らせるのにゃー」
屈強な男たちが再びやってきて、すぐに茶室を作り上げてしまう。
カルカンのニヤついたドヤ顔に少々イラつく。
「どうにゃ? 完璧にゃ?」
「二畳しかなくて狭いのぅ」
「でも、茶室のオーダーは完璧に叶えたのにゃ」
「妾は抹茶を飲みながら映画鑑賞がしたいのじゃ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるカルカン。




