No.46 鬼の居ぬ間に洗濯……とはいかなかった
その日は一晩中カルカンの絶叫が響いた。
以降、ずっとカルカンが拗ねてしまう。
「ほれ、カルカン。お主の好きな黒ビールを注文してあるぞ? 飲まんのかぇ?」
カルカンは何やら書き物をしていて、妾を一瞥だけして無視した。
仕方がない。妾のビール注ぎの技術を見せてやるとするか。
ビールの栓を空け、グラスを傾けつつ注ぎ始め、泡立ち具合を確認して傾き加減を調整する。泡立ちが足りなければグラスとの距離を開け、空気がふんだんに含まれるように微調整。
そうしてグラスからはみ出したこんもり泡をビール泡切りを使って整える。
「ふむ。少しだけ失敗したかの?」
「10点にゃ。勿論、100点満点中の10点なのにゃーーー! 泡と中身の比率が完全に逆だし、泡立てすぎなのにゃーーー!」
暫く作業に没頭していたはずのカルカンがツッコミを入れてきた。
妾のグラスを奪ってあっという間に飲み干すと、これがお手本だと言わんばかりのビール注ぎを披露して、憎たらしいほどのドヤ顔を浮かべる。
「これがビールサーブというものなのにゃ。フッ……これだからにわかビアマニアはダメなのにゃ」
すぐに飲み干してしまうのだから些細な違いなどどうでも良いとは思うが、ここで反論をするとどえらい長丁場になることを経験済み。
「さよけ? これで満足して溜飲が下がったのならええわ。それで何を書いておったのじゃ?」
「ヒ・ミ・ツにゃ! 私とラザはこれから神界に行って報告事項があるから暫く留守にするのにゃ。留守番は任せるにゃ」
そう言うや否や、カルカンはラザを連れ立って光の中に消えてしまう。
妾は狭い茶室の中に一人取り残された。
誰もいない静寂。
部屋の中にはゲームサウンドと操作するコントローラーの音だけが響く。
「あー、話し相手が居ないと寂しいのじゃ」
いくら一人で愚痴を零そうともカルカンたちは戻ってこない。
一人になって色々と考えていたら、何だか段々と腹が立ってきた。
「どうして監視も無いのに妾が大人しくここに居らねばならんのかぇ? どうせ誰もみておらんのじゃ。ちょっとくらい外を覗いてみてもバチは当たらんじゃろ」
そうして縁側から坪庭に降り立ってみる。
特に神罰がある訳でも無いし、普通に行動できた。
さらに外側に行こうと塀の方へ近寄る。
「む、扉に鍵が掛かっておるのじゃ」
外からの侵入を防止するための鍵が掛かっているのなら理解も出来るが、これは妾を外へ逃がさないための牢獄を意味する。
「面白い。妾をこのような鍵で閉じ込められると思わんことじゃ!」
妾は契約のことなどをすっかり忘れて鍵の解除に本腰を入れることにした。




