No.35 消去法で一つ
「揃いも揃って使えん神様ばかりじゃの!」
妾はその場に膝から崩れ落ちた。
こんなことで焼け死ぬのか。そう考えたら何だか腹が立つ。
「妾が消してくるのじゃ。カルカン、消火器を持てぃ!」
「訓練もしてないのに出来る訳が無いのにゃ。ここで大人しく救助を待つにゃー」
そんなことは百も承知。どさくさに紛れて避難してやる。絶対に!
「では妾一人で消火活動をしてくる。できれば探さないで欲しいのじゃ」
「あ、ダメなのにゃ。現地人に会うとアウトなのにゃ」
こんなときにまで下らないダジャレを言うカルカンには目もくれず立ち上がる。
できれば水を被って少しでもダメージを減らしたい。
だが、この部屋の蛇口から出る水は、ビール、ウイスキー、オレンジジュース、コーラ、カレーの5種のみ。
当然ながらビールとウイスキーは却下。死ぬ。
カレーはどうなのだろうか。
気分的には勿論嫌だが、そのような贅沢を言っている余裕はない。
「消去法でコーラなのじゃ!」
オレンジジュースもカレーも入ったところによっては酷く沁みそうに思う。
コーラをバケツ一杯に溜め込んで、頭から被った。
「うひぃ、べたべたするのじゃ!」
いざ、出陣! と思ったところにスーツ姿のサラリーマン風の男が現れる。
「あ、すみません、カルカン様。火災報知器の誤作動なので警報は気にしないで下さい。ちょうど念のための確認作業をしているところです」
「管理人さんちーっすにゃー。誤報で良かったにゃ」
カルカンは即応したが、妾は突然の来訪者と朗報に固まってしまう。
コーラでびしょ濡れになった妾と畳は一体どうすれば良いのか。
「……お主はどなたじゃ?」
「申し遅れました。私は、こちらのテナントを管理している者です」
差し出された名刺を受け取る。住所が確かに東京都港区赤坂になっていた。
「マジで日本なのじゃな。して、お主は妾たちの姿に驚かんのかぇ?」
「ええ。諸々のご事情は把握しております」
これ見よがしに尻尾を動かしても、男は眉一つ動かさずに涼しい顔をしていた。
「その諸々の事情とやらを聞いても良いかぇ? どうも妾だけ蚊帳の外なのじゃ」
告げると、男は一瞬だけ目を丸くした後にカルカンと何やら目配せをしていた。
「私の方からは何も申し上げることができません。守秘義務がありますので。それでは失礼いたします」
「お疲れ様なのにゃーーー!」
すぐさま男は退散し、それをカルカンは飛び跳ねつつ見送っている。
見送り終えてクルリと振り返ったカルカンの頭をむんずと捕まえた。
「おい、カルカン。守秘義務とはなんじゃ?」




