No.3 怪しい契約書
しつこく封印を迫られても困るものは困る。
「嫌なのじゃ!」
腕を組み、プイッと顔を背ける。
ついでに子猫の頭を尻尾で叩いておいた。
「で は どう すれ ば 満足 して くれ るの にゃ?」
「なんじゃ? 喋るか痛がるかどっちかにするのじゃ」
「おまゆう案件なのにゃ!」
リズミカルに叩くのを止めて満足について暫し考えてみる。
いや、待て待て。なんで封印を受け入れなければならないのか。
「なぜ妾が封印されなければならぬ? そこを説明せい!」
子猫は「どこから説明したものか」とでも言いたげに明後日の方向を見上げたので、視線の先を追ってみたが、何のことはない埃が浮かんでいるだけだった。
ベッドの上にジャンプして飛び乗ってきた猫は、そのまま腰かけている妾の太股の上まで登って来る。
「貴方の名前が無いことが理由なのにゃ」
「なぜお主が知っておる?」
「それに半年以上前の記憶もないはずなのにゃ」
「ハッ! 言われてみれば……どうしてお主がそのことを知っておるのじゃ?」
名前が思い出せず、半年以上前の記憶もない。
気づいてしまったら途轍もなく不安になってきた。
「はぁ、ヨーコ様も困った御方なのにゃ。尻拭いするこっちの身にもなって欲しいにゃ」
「……ヨーコ様とは誰じゃ? そういやお主の名は何と申すのじゃ?」
「ヨーコ様は貴方の母で、私の名前はカルカンなのにゃ」
母だと言われても半年以上前の記憶がさっぱり無いのだから分からない。
でも、このカルカンは、光の神様だと自称していたことを思い出す。
「お主、光の神様のくせに、妾の母を様付けで呼ぶのかぇ?」
素朴な疑問を言ってみただけなのに、何故かとても残念なものでも見るような視線を向けられてしまう。
「カルカンよ、お主が神と言うのは嘘じゃろ?」
「嘘じゃ無いのにゃ。ヨーコ様は闇の神様で一応同格なんだけれど、あの人にはそういう理屈が通用しないのにゃ。空気読めない神様なのにゃー」
尻尾を項垂れさせながらカルカンは語る。その声に嘘の感じはしない。
だが、それと封印が全く結びつかず首を傾げる。
「それは一先ず置くとして、妾を封印するというのは? 全く説明が足りておらぬのじゃ」
「えーい、ガタガタうるさいのにゃ。心残りの要望があれば聞いてやるから、この封印契約書にサインするのにゃ」
そう言われて紙切れを渡された。文字は金色に光っていて、見ているだけで魂が吸い込まれそうな不思議な力を感じる。ただの紙切れなのに触れているのが畏れ多いと思えるので、神様というのもあながち嘘では無いのかも知れない。
契約内容を読み進めていると、曖昧な部分が多いことに気付く。




