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間違いメールよありがとう

作者: 右下


クリックしていただき、誠にありがとうございます。


メール未体験の女子中学生が、メール初体験をする。

ちょっとした恋愛ものです。


時代が近代化への道を歩む現代。


重化学工業の進歩で、自動車や飛行機、エスカレーター、カラーTVなどが当たり前のように身の回りにある、このご時世。



特に携帯電話という物が、もっとも今の時代の重化学のレベルを現す器具だと私は強く思う。


色んな会社が他社に負けないよう、何度も何度も終わりなき開発をする携帯電話。それはもはや現在では、最初の携帯電話の目的から道を大きく踏み外している。


名前の通り、携帯電話とは『携帯』する『電話』なのだ。外にいても、番号を知っていれば、いつでも連絡が取れる。恐らくそれが最初の開発目的であろう。


しかし、時代が進むにつれ、技術力が発達するにつれ、携帯電話は『電話』の範疇を大きく超え進化した。



やれ財布機能だ、地図機能だ、写真機能だ、GPS機能だ、えとせとら。最近じゃ胴体と画面が、二つに分かれるのも発売した。


わざわざパーツを二つに分けて、何の意味があるのだろう?


もはや、携帯電話とゆう言葉自体の境界線がもはやあやふやだ。広辞苑に、携帯電話の意味を二つに分けた方がいい。


『携帯する電話』と『電話も出来る便利な機械』とで。


電話機能自体が主体ではなく、他の機能がメインとも言える。


まぁ、電話機能が廃れてきたわけではないし、そこまで無下にする事もないかもしれない。私だって、色々機能がついていると便利だという事に反対はない。


別に不服とは思わないし、その他の機能に助けられるのも事実だ。


ただ。


私は、一つだけいらないと思う機能がある。




それは・・・・・・・電子手紙機能。


簡単に言えばメール。


伝えたい事を携帯電話の文字盤で打ちこみ、相手に送る。


電話と違い、要点だけを教えたり、考えて言葉を選べるので、一番の使用度と便利さを誇る。もはや、このメール機能が『携帯電話』とゆう言葉を代表しているのではないだろうか。


だがしかし、こんな便利ツールを私は決して快くは想っていない。


「だって、誰からも来ないんだもん」


答えは単純明快、至極簡単な事だ。


それは、そう。


私のメールアドレスを知る者は、誰もいないからだ。


私の持っている携帯電話は、二年前に発売されて、今では古い古いと表現されるのが一般的だ。


しかし、まだまだ現役である。これといって故障した所などないし、画面にも大きな傷はない。本体も少し色がはげている場所はあるが、特に支障はない。


しかししかし、一つだけ不満があるとするならば。


何故私の携帯に、メール機能を取り付けたのか、くらいだ。


中学の入学と同時に買ってもらい、私と一緒のピッカピカの新一年生。


新しい仲間との遭遇に、胸を躍らせていた私を今の私が見たら、それはそれは愚かしく写っただろう。



私の小学校時代は、まさに氷河期。アイスエイジだった。


孤独、孤独の孤立した環境で離れ小島もいい所。休み時間に友達とお喋りなんて、ただの都市伝説。


別に嫌われていていたからとか、はぶかれていたわけではない。消しゴムを落としたら拾ってくれるし、二人きりの状況になれば二・三会話だってする。


ただ、友達とゆう階級までには仲が発展しない。


特に私と話さなければいけない状況になる以外、私の元に誰も来ない。


クラスの修学旅行の班決めなど、ただの拷問だ。まだ宇宙に放り込まれた方が、きっと楽だろう。班決めの時の教室なんて、空気を感じ取れない真空状態に私は感じる。


そんなわけで、私は辛い辛い小学校時代を送ってきたわけで、二度とこんな環境にならないよう私は中学受験をした。


近くの中学に行っては、小学校の時の同級生が大半なので大きな進歩が望めなかったからだ。


他人と遊ぶなど万に一つもなかった私は、ずっと勉強方面を必然的に頑張っていたので、難なく試験は合格した。皮肉にもだが。



新天地、新境地、新展開、を望み。


起死回生、輪廻転生、を期待した。



なのに、私は完全に出遅れた。


私がまごまごしている内に、すぐさまは周りはグループを形成、確立してしまい。私はまたしても、どこのグループにも属さない、一匹狼状態。


だが、小学校時代に鍛えられた忍耐力のおかげで、私は何とか「え? 別に気してないよ?」的なオーラを纏いながら、必死に一年間を耐えきった。



次の二年生だ、この年に私はこの幻想を現実に変えてみせる。


が、結局私に友人と呼べる存在が出来る事はなかった。


性格に問題があるのか、見た目に何かあるのか。これは呪いなのか・・・・・本気でそう思った事もしばしば。現在の私の携帯には、呪いに関するサイトが二つほどブックマークされている。


大本を言えば私の社交性のなさだろうが、しかしここまで友達が出来ないと自分でも訳が分からなくなる。



現在は三年生になり、熱い熱い夏が迫ろうとする六月になる。高校受験に燃えだす次期でもある。


私のアドレス帳に、文字など一つもありゃしなかった。


親は機械音痴で携帯など持っておらず、兄弟も居ない。


メールアドレスは存在するが、この地球上で私以外誰も知らないトップシークレットになっている。


迷惑メールすら来ないし、むしろチェーンメールを歓迎しているくらいだ。




そんな、じめじめと陰鬱な空気が取り巻く、六月某日の事。


私の携帯電話が、突如として簡素な電子音を流し出した。


一・二度しか聞いた事が無い、一定調の電子音が何度かループして消えた。


「な、なに・・・・?」


もしかしてコレは・・・・着信音とゆうやつでは?


一度も設定した事が無いので、メールの着信音は買った時からずっと同じなのだ。


恐る恐る、私は携帯電話を覗く。


携帯の表面にある、小さな電子口。そこには、ある言葉が書かれてあった。



『新着メールあり』



「ぶへらぎゃひ!!?」


生まれてこのかた、一度も発した事のない悲鳴をあげ、私は携帯電話から勢いよく遠ざかった。


え、なに? メール? 何で何で? 何でメールが来たの? それよりメールってなんだっけ? 


混乱、焦操、困惑の三拍子。私の頭の中は、ぐちゃぐちゃに絡まった洗濯物よりも厄介な事になっている。


考えていても埒があかない。こうなったら当たって砕けろ!


まぁ、本当に砕けるわけではないが、それくらいの意気込みだった。


私は爆発処理班のように、慎重に丁寧に携帯へと近づき、爆弾と化した己の携帯電話の元へとたどり着く。


震える片手で携帯を持ちあげ、かぱっと二つ折りを解除する。


いつもなら、待ち受け画面には時刻くらいしか書いてないが、左下の隅に、何か見た事のないアイコンが浮かんでいる。


「こ、これって・・・・・」


それはピンク色の手紙の形をした『メール』とゆう物だった。


思わず手が震えだす。


ブルブルブル、じゃない、ガタガタガタ。そんな擬音が聞えて来そうだった。


老人の手よりも数倍に震える手は、もはや直下型大地震に等しい程の震度だった。


気持ちを落ち着け、ピンク色の手紙の形をしたアイコンにカーソルを合わせ、ボタンをプッシュする。


するとメールの本文が、私の眼下に広がった。



宛先:不明

件名:なし

本文:よう、闇口だ。まずは初メールだな、とりあえず登録よろしくさん。



初めて見たメール画面に困惑しながら、私はメール本文に目を通した。


闇口? はて、誰だろうか・・・・。


私の記憶からしてそんな名前は初耳だし、私のメールアドレスを教えた覚えなどまったくない。


じゃあこのメールは間違いメールとゆうヤツ?


だけどメールアドレスってそんな簡単に間違えるのかな?


メール機能の知識などまったくない私に検討がつく訳もなく、今はこのメールの対処について考える事にした。


うーん・・・・・これって返信した方がいいのかなぁ・・・・でも闇口って名前からして物凄く怖い人かもしれない・・・・だったら関わりたくないなぁ・・・・・。でもこのまま返信しないでいたら、相手が不審に思ってまたメールがきて、それも無視したら・・・・・うわぁ、無間地獄だ。


もはや闇口とゆう人物は私の中で、三十代半ばの強面男性へと人物像が出来あがっていた。


行動しないければ何も始まらない。そう思い、私は慎重にメール返信画面へと切り替えた。



電話以外で文字盤を打つのは初めてなので、どうやったらいいのか今一分からない。


ドラマとかで見たメールを打つ場面を想像し、見よう見真似で文字キーを押してみる。2番を押してみると『か』が入力出来た。もう一回2番を押すと『か』が『き』へと変わった。


どうやら2番は『か行』のようで、入力する回数によって『かきくけこ』が打てる事が分かった。


内容は簡潔にした方がいいいだろうと思い、とにかく私が謝っておく事にした。


『すみません、あなた様の送ったメールが何かの手違いで私のとこに来てしまいました。ご迷惑をかけて本当にすみません』


何と非力な文章だ、自分でも涙が出る。だが下手に出た方が、絶対に後でいい結果を生むと私は自分に言い聞かせる。


着信からかれこれ30分は経っていたので、急いで返信ボタンを押す。


初めて見る送信画面を見終わり、ゆっくりと携帯を二つ折りに畳む。


こうしてやっとメール騒動が終わりを迎えた。




かと思われたが。


携帯を置いて二分後に、またもや簡素な電子音が部屋に鳴り響いた。


ビクリと体を震わせ、携帯電話へと近づく。


そこには、またもや『新着メールあり』の文字が浮き上がっていた。


奇声を発する寸前に言葉を飲み込み、震度4くらいの震える手で携帯を掴む。


二つ折りの状態を解除し、操作キーを動かし受信BOXを開く。


宛先人は不明。しかし件名が変わっており『ごめん』と書いてあった。


内容は。


『ごめん、俺のミスだ。初めて送るヤツだったんでね、アドレスも手書きで渡されたからどうやら入力をミスってたよ』


ちょっと乱暴そうな文調だったが、あまり悪い人ではない事が見て取れた。


何とかいい結果に終わり、ほっと胸をなでおろす。


少し心に余裕が出来たからか、私はもう少しだけこの人にメールを送りたいと思いだした。


でも、次は何て返そうか。


頭の中で色んな文章を作り、どうゆう風に言葉を紡げばいい印象を持ってくれるか、など私はまるで仲良しの友達に返信するような感覚になっていた。友達すらいないのに。


とりあえず、相手の名前が分かっている以上こちらも名乗っておいた方がいいのでは? と思い、フルネームを書いておく事にした。


どこの誰かも分からないのに、自分の名前を馬鹿正直に名乗るなど、他人からは愚かに映るだろう。よくTVとかでも、専門家が注意しているが、今の私にそんな些細な事を気にする事など出来なかった。


『いいえ、お気になさらないでください。私は蒼峯あおみね さくらって言います』


ポチっと送信ボタンを押し、本日二度目の送信画面を見届け携帯を二つに折って仕舞う。



数分後、メールの返信が来た。


今度はその着信を知らせる簡素な電子音は、幸せの鐘の音のように聞こえて心が躍った。


すぐに受信BOXを開く。


するとそこには驚きの言葉が書いてあった。


件名は『マジか!?』と何故か驚き表わす言葉だった。


しかし、内容を読んだ私はその件名と同じ感情を抱いた。


『おいおい、蒼峯って隣のクラスの蒼峯か? まさか同姓同名ってわけじゃねーよな・・・。俺は闇口やみぐち ひのきってんだが、知らねーか? 岡松中学の三年一組のさ』


岡松中学、それは私が今通っている中学校と同じ名前だった。私のクラスは三年二組で、一組は隣のクラスだ。つまり、闇口とゆう人は私と同じ同級生である事を示していた。


本当に驚きだった。こんな偶然ってあるのだろうか? これこそドラマのような運命じみた展開で、私が中学を入学する時に願った新展開とゆうやつだ。


だが、私は闇口とゆう人物は知らない。恐らく顔は見た事があっても、記憶には無い。だけどあちらは私の事を知っているようだ。他人との友好関係など、まったく築いていない私に一体何故?


私は不思議に思いつつ、率直に疑問を相手に質問する事にした。


『確かに私は岡松中学校の三年二組蒼峯桜ですが、闇口さんとはどこかでお会いしましたっけ?』


メールを返信してから、少し間を開けて大体10分ほどで相手から返信が返ってきた。


『あぁ、俺の事覚えてねーのも仕方ねぇか。俺は小学校の頃からアンタの事は知ってるんだが、あんまり表だって行動してないからなー。アンタが覚えてないのも仕方ないか』


上の最初のあたりの行を読み、無くなりかけた記憶が微かに蘇る。


闇口、とまでは断定的にハッキリと答えを言えないが、私はその名前の印象を覚えている。


印象とはつまり、昔の私はクラスメイトに凄く怖い名前の人がいる、という見解を持った人物がいたのだ。それが闇口檜、その人だ。


確か小学3年生の時だった気がする、それなら名前を覚えていなくても、小さい頃だった私が恐怖しても、完全に名前の事を覚えていないのも合点がいった。



そんな古くから知り合いだった事に驚きつつ、続けて闇口君から送られたメールの文に目を通す。


どうやら結構文が長いらしく、ズラーと下まで文章が続いている。


内容を要約するとこうだ。



当時小学3年生だった闇口君は、同じクラスだった私を見て恋をしたらしい。別に何か特別な事をしたわけでもない、彼が言うようにお互い何の行動も起こしていない。彼はただ遠くから、私の事をずーっと見ていたそうだ。特に何の進展もないまま1年が過ぎ、次のクラス変えでは惜しくも隣のクラスだった。それから卒業するまで同じクラスになる事はなく、私が闇口君の名前すら覚えていないのはこんな偶然があったからだ。


闇口君は今でも私の事が好きらしく、私が地元の中学ではなく、違う学校へ進学する情報をどこからか仕入れた闇口君は、猛勉強して何と私と同じ岡松中学に来たそうだ。一途な話である。


が、くしくも3年間とも同じクラスになれなかった彼は、今でも合同の体育の時や集会の時など、私の姿を見つけては小学3年生の時と同じく、ひっそりと眺めていたらしい。



と、ここまでつらつらと文章を要約して話したが、私はある重大な事に気がついた。


むしろ気がつかない方がおかしい。


「私が・・・・・・・・・好き・・・・・・・?」


ポツリと部屋の中に私の声が染み渡る。


その瞬間、私は横に倒れた。


そこはまんまフローリングの床。私は頭をぶつける心配を1ミリもせずにいたので、思いっきり頭が衝突した。だけど私は痛がる事なく、携帯を手で握ったまま微動だにしない。


「ずっと・・・・・・・・・・小学3年生の時から・・・・・・・・・・・・」


またポツリと呟く。


もはやここが、私の処理理解力の限界だった。


人というのは、本当に心から驚いたりすると、漫画で見るようなあんなオーバーリアクションはしない生き物らしい。


と言うより、何で彼はこんなにもサラッと、私にこんな告白まがいな事をやったのだ?


そんな行動力があるのなら、直接告白してきてもおかしくないのに。



そんな私の人生初のメールは間違いメールから始まり、告白メールへと変わっていった。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



次の日、私は普段と変わらない足取りで学校へと向かった。頭の中だけが、いつもと違っていたが。


校門をくぐり、他の生徒はそのまま靴箱へと向かうが、私は一人だけ校舎裏へと向かった。


そこには、一人の男子生徒が立っていた。


中肉中背の背の高そうな生徒だ。だが背中は少し丸まっており、見た目上低い背丈になっているのが残念だ。顔つきはキリッとしてそうな、そうでもないような、真面目そうにも遊んでいそうにも両方取れる顔だ。


「お、蒼峯」


そう、目の前の男子生徒が私の名前を呟いた。


どうやらこの人が闇口檜。小学校3年生の時から現在の中学3年生まで私の事が好きだった、女の子のような純情な子。


9年越しの体面となった私と闇口君は、そのまま固まってしまい、しばしの沈黙が流れた。


「えっと、何て言えばいいかしら・・・・・・・初めまして?・・・・・ではないよね。だったら・・・・・・」


何とかこの重苦しい空気を払おうと、私から声をかけてものの続かない。


「あぁ、いや。気にしないでくれ。・・・・・・それでだが、早速本題に入っていいかな? 誰か来たら気まずいしね」


「え、あ。うん」


どうしよう・・・・・まともな反応が返せない。


昨日のあのメールから、私は一時間ほどフリーズし、私の返信を待たずに彼からまたメールが来た。中身は先程のメールとはうって変わって『明日8時学校の校舎裏で待つ』と言う挑戦状みたいな簡潔なメールだった。


そのまま私は、ろくに睡眠も出来ず、ろくに会った時の事も考えず、のこのことここまで来てしまった。


「昨日のメールの通り、ちょっと分かりにくかったが、俺は蒼峯の事が好きだ。この気持ちは変わんねぇし、本気の本気だ」


ついに彼の口から直接、人生初となる恋の告白を受けてしまった。どうして二日間に渡って、このようなビックイベントが連続して発生したんだろうか? もしかして私は近々死ぬのか?


「まぁ、いきなりの事で頭が混乱しちまうのも仕方ない。何せ俺だって蒼峯に直接告白するなんて、夢にも思ってなかった。たまたま送った間違いメールが、たまたま蒼峯のとこに行った。多分、それが引き金になったんだと思う」


次々と彼の口から言葉が溢れるが、私はまったく喋れなかった。ただただ相槌を弱弱しく打つだけ。


「こう言っちゃーなんだが、9年も同じ人を想っているとよ、何だか相手の気持ちなんてどうでもよくなってきちゃったんだよな。へへ、どうでもいいわけねーんだけどよ。だからさ、蒼峯は無理して今返事をしなくてもいい、いやむしろこのまま返事をしないってのも別段かまわねー」


「え、でもそれじゃ・・・・・・」


やっとここでまともな言葉が言えた。闇口君の思いがけない発言に誘発されたからだろう。


「いんや、いいんだよ。俺は9年間分の溜まった想いを、こうして蒼峯に直接言えた。それだけでも十分幸せだし、うれしい。それによく考えてみろ? 蒼峯は俺の事まったく知らない、知人ですらない赤の他人と言っても過言じゃない。そんな相手からいきなり9年間ずっと好きだったー、って言われてもよ、何とも思えないじゃん。だからさ、無理して俺を気遣ったりしなくてもいいのよ」


闇口君の言う事はもっともだった。だけどそれは、残酷なまでに真実であり、悲しい事だった。


闇口君は一体どんな思いで、私にそんな事を口に出しているんだろう? どうしてそこまでして私にフォローして、私に逃げ道を作ってくれるのだろう。


「・・・・・だけどぶっちゃけ本音言っちゃうとよ、やっぱし怖えーんだと思う」


妙に明るかった闇口君の顔に、不意に影が差した。


「怖い・・・・・何がです?」


「蒼峯に直接断られるのが、だよ」


「あっ」


「気にしなくていい、無理しなくていい、今・・・・・言わなくていい。さっきから蒼峯に、この現状から逃れられるよう逃げ道を作っているけどよ・・・・・・・本当は俺の逃げ道でもあるんだ」


少し間を開けて、闇口君は続ける。


「長年夢見てきた相手によ、直接面と向かって、俺の事をまったく知らないまま蒼峯の口から聞きたくないんだよ。ごめんなさいって・・・・・」



確かに、私は闇口君の事を内面的な事はまったく知らない。好きな事、好きな食べ物、好きな話題。知っているのは、闇口君の好きな人と、メールアドレスだけ。


あちらはこっちをよく知っていても、こっちはあっちをよく知らない。例え、どんなに長く同じ場所にいても。


普通に考えれば、この場は断るのが妥当。いや、必然かもしれない。


「だからまぁそのさ、俺はもう満足なんだよ。来年には卒業、その前には進学の事もある。今回ばかしは中学みたいに蒼峯と同じ高校についていく、って訳にもいかない。じゃあよ、丁度いいじゃねーか。けじめは今つけた、それで十分なんだよ」


先程から饒舌に闇口君は喋っているが、とても苦しそうだと私は思った。


「とまぁ、長々とお喋りしちまったな。時間とらせて悪かった。そんじゃ、俺は教室に行くよ」


そう言って、闇口君は私の返事を待たずに回れ右をした。



そして走り出す、その瞬間。


「ま、待って下さい!」


無意識に私は叫んでいた。


ピタリと闇口君の足が止まる。


そしてゆっくりと、驚いた顔で振り向く。その表情は、嬉しさと悲しさと恐怖が入り混じった顔だった。


「えっと、その・・・・・・・私・・・・闇口君の私に対する気持ちはすっごくうれしいと思う。9年間も想ってもらえるなんて、私は自分が思っているほど不幸な人間じゃなかった」


彼はじっと私の顔を見つめ、真剣に聞いている。


「じゃあ付き合いましょって、言いたいけどそうもいかない。好きでもない人を、今の感情だけでお付き合いするのは駄目だと思う・・・・・友達が一人も居ない私が、こんな事言うのって変だけどね。そんな私に彼氏が出来るなんて、人生で最後のチャンスかもしれないのにさ・・・・・」


自嘲気味に、私は薄く笑って言う。


ずっと私を見てきた彼なら、当然私の周りに友達など一人も居ない事は知っているはずだ。


「小学校から友達は一人も出来ない・・・・・・頑張って勉強して、みんなとは違う中学に来てもこの様だし・・・・・ホント、笑っちゃうよ。携帯電話も全くの未使用だし、メールなんて三年間打った事すらなかった」


そして私は、静かに告げる。


「付き合うとか、そんなとこまで行けるか分からないけど。こんな私でよかったら」




「私とメール友達になってくれませんか?」


精一杯の笑顔で言い、私も闇口君を強く見返した。


闇口君は笑っていた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


ピロリロリン♪


軽快な電子メロディーが部屋に響く。


私はすぐに音の主を掴みあげ、カチ、カチ、カチ、とゆっくりとした手先でボタンを押していく。



『今週の土曜日さ、最近オープンした近くの水族館行ってみない?』


以下の内容が、彼が打った文章の中身で。


『うん、いいよ。今週の土曜日ね』


以下の内容が、私が打った文章の中身。



まだまだこの機能には慣れる事が出来ず、ついつい短めの文で何の飾りけもない文章を送ってしまう。デコ、とか言う可愛い感じの物が貼り付け可能だと聞いたが、今の私には文章を打つのが精一杯だった。


彼も、そんな女の子っぽい感じの見た目がいいのだろうか?


まぁ、でも今はこのままでいいと私は思う。


部屋の窓辺からは、強い日光が降り注がれ、ミーンミーンとセミたちが適当に合唱している。


うん、焦らなくても時間はまだあるじゃないか。


まだまだ沢山知らなければなら事があるけど。


これから知っていけばいい。




彼の事も。


メールの事も。





何かコメント、いい点、悪い点、一言ありましたら、ぜひ頂戴したいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] あまり面白いとはいえないなあ。 まちがいメールの相手が偶然、同じ中学だった。まずありえませんが、一個の偶然はよしとしましょう。ですが、その相手が小学校の頃から主人公を好きだったなど、偶然があ…
[良い点] こんばんは。 僕はこういった表現が苦手で… 一人称でも難しくて出来ないので こういった小説を書く人を尊敬します(。≧∀≦) 良いところだらけでした(。´・ゞ・) また素晴らしい作品…
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