新しいお隣さん?
雨が欲しいなぁと思いながら書きました。
出来れば適度な雨でお願いしますm(_ _)m
●8月〇日
日常系ファンタジーなこの世界でも暦は同じで、8月になった。
暑さは変わらない。なんだったら増した気すらある。
家庭菜園は元気に育っているが、最近は雨が降らない。
それが少し心配だ。
我が家の周りは、カッパくんの住んでいるであろう水場のおかげか、緑が艶々しているけれど。
「きゅわぁ」
そんな事を考えながら家庭菜園の草むしりをしていたら、カッパくんがやって来た。
先日プレゼントした麦わら帽子を被っているので、見た目ファンタジーさではなくファンシーさが増している。
大丈夫そうなのはわかっていたが、やはり頭の皿が心配になって予備の麦わら帽子を渡してみたら、気に入ってくれたようで良かった。
何となく暇つぶしに造花のヒマワリで魔改造してしまい、可愛らしくし過ぎて私には被れなかったのでカッパくん行きとなったのは内緒だ。
「きゅわわ?」
カッパくんの可愛さに癒されてボーっとしていたら、カッパくんが心配そうに覗き込んできて、くいくいと私の手を軽く引いている。
カッパくんは触れるとひんやりしていて気持ち良い。
「なんでもないよ。今日も暑いね」
「きゅーわ」
「ナスがいい感じなんだけど持ってく?」
「きゅわぁ!」
誤魔化した訳では無いが、何ともないとわかったせいかカッパくんの意識は私が持つ真っ黒く艶々なナスへと持っていかれたようだ。
ナスを両手で掲げ持ち、くるくると回るカッパくんを視界の端に捉えながら、私は収穫作業を続けていく。
ナスの隣ではオクラが自己主張しているのだが、オクラも植えてない。
もう今さらなので、気にせず収穫していく。
ちなみにオクラは生でも食べられる野菜らしいが、私は茹でて食べる方が好きだ。
カッパくん相手に熱弁して、茹でたオクラを刻んでしょう油をかけた物を味見してもらった。
「きゅわきゅわぁ!」
カッパくんも茹でたオクラを気に入ってくれた。
同士が増えて何よりだ。
その後、刻んだオクラを豆腐に乗せて出してあげたら、小躍りして喜んでくれたので私も嬉しい。
二人で食べるご飯は一人で食べるご飯より美味しい。
夕暮れ時。
夕立ちの気配すらないオレンジに染まりつつある空を見上げた私は、麦わら帽子を外しながらポツリと洩らす。
「雨降らないねぇ、カッパくん」
君のお皿が乾いてしまわないか、私はちょっと心配だよ。
私の心配を知ってか知らずか、カッパくんは私の顔を見上げてしばし考え込むように首を傾げる。
可愛いなぁと見つめ返していたら、ぽふぽふと水掻きのある手で慰めるように叩かれる。
どうやら私の心配顔を、落ち込んでいる顔、と思ったらしい。
惜しいような、惜しくないような?
とりあえずカッパくんの心遣いが嬉しかったので、ありがとうと返しておいた。
●8月▲日
カッパくんの皿の乾きを心配していたらカッパくんから慰められるという出来事から数日。
本日も雨の気配はない。
夏特有の入道雲も見えない真っ青な空を見上げ、私は眩しさに目を眇める。
これはカッパくんのためにビニールプールでも出しておくべきかと悩んでいると、シャラシャラと小さな鈴を鳴らしているような涼やかな音が聞こえてくる。
見慣れた世界ながらファンタジーという日常系ファンタジーな世界なので、変わった虫か鳥の声かなと音の発信源を探していた私の目に映ったのは、庭の木より巨大な深青色のヘビ。
つやりとした美しい鱗が、真夏の光を受けてキラキラとしている。
音の発信源もその辺りなので、まさかのヘビの移動音か呼吸音?
呆然としながらそんなズレた事を考えていた私がゆっくりと瞬きをすると、立ち眩みに襲われたかのようにくらりとして視界が歪む。
額を押さえて緩く頭を振り、もう一度ヘビのいた辺りへ視線をやる。
「あれ?」
そこにいたのはヘビではなく、深青色の着流しっていうのかな、まぁとりあえず着物姿の美人さんだ。
かなりの美人さんではあるが、女性的な雰囲気はないので間違いなく男性だろう。間違ってたら、ごめんなさいしよう。
そんな美人さんは無言でじっと私を見つめてくる。
表情も相まって、ひやりとした雰囲気がこちらにまで漂ってきている気がする。
しかし、どうやら夏の暑さのせいで私はとんでもない見間違いをしたらしい。
くらりと立ち眩みみたいな感覚もあったし、熱中症の初期症状の可能性もある。
とりあえず倒れる前に、挨拶ついでに美人さんのいる木陰の方へ避難しようと踏み出すと、足に軽い衝撃がぶつかる。
「うん?」
「きゅわ!」
なんだ? と見下ろしてみるとそこにはカッパくんが抱きついてきていて、純度一〇〇%の笑顔を食らった私は、熱中症からではないくらくら感に襲われる。
「やぁ、こんにちは、カッパくん。今日も笑顔が素敵だよ」
「きゅわわ!」
カッパくんの言葉は相変わらずわからないが私の言葉をカッパくんは理解している。
現に今も誉め言葉に対して、くねくねとして照れ臭そうな仕草を返してくれている。
可愛いなぁと眺めていたら、また先ほどと同じシャラシャラという涼やかな音が響く。
それを聞いたカッパくんは、ハッとした様子で手をパタパタとさせて、空気のようになっていた美人さんの前へ私を引っ張っていく。
「もしかして、カッパくんのお知り合いかな?」
私の質問に、カッパくんは首を傾げて、きゅうわきゅうわと小さく何事かを呟きながら考え込む様子を見せる。
またまた可愛いなぁと空気な美人さんと共に見守っていると、ポンッと手を打ったカッパくんは、美人さんに背中を向けて私の方を向く。
「きゅわきゅわ、きゅうわ!」
何をするのかと思ったら、可愛らしいドヤ顔をして、わざとらしく偉ぶるように胸を張って私を見てくる。
何かを期待されてるというより、演技のようなわざとらしい仕草は、私に対するアピールだろう。
「お知り合いって、質問したからアピールしてくれた? つまり、その美人さんはカッパくんより偉い……あやかしなのかな?」
一瞬モンスターと呼称しようかとも思ったが、この美人さんに対して『モンスター』呼びはなんか厳ついなぁと高速で脳内をグルグルさせ。
咄嗟に様々な作品で使われている『あやかし』という表現を思い出せたので使ってみた。
私、頑張ったと思う。
「きゅうわぁ!」
私の小さな気遣いは通じたのかわからないが、その場で小さく跳ねたカッパくんは、美人さんの周りをくるくると回って「きゅわきゅわ」と盛んに話しかけている。
カッパくんの反応を見る限り、正解では合ったようだ。
無反応かと思っていた美人さんだが、ほんの少し口の端を上げて微笑んでいるので、良い関係なのが傍からでも見て取れる。
「いつもカッパくんには畑の手伝いをしてもらってて、助かってます。それに……」
ここぞとばかりにカッパくんを誉めまくっていると、美人さんの視線が私を映して──一瞬世界が色を変えた。
そう言いたくなるぐらいの美しい金色の瞳に、私は言葉を失って、実はしばらく立ったまま気絶してたかもしれない。
それぐらいの衝撃だった。
「っはぁ、びっくりしたぁ。魂抜けたかも……」
息も止めてしまっていたみたいで、ぷはぁという感じで息を吐き出した私は、深呼吸して美人さんをもう一度見る。
吸い込まれそうなという表現をたまに見るが、美人さんの瞳はまさにそんな感じだ。
「……?」
あまり喋るタイプではないのか、美人さんは無言で首を傾げて不思議そうに私を見てくる。
ガン見していた自覚はあるので、不審者を見るような眼差しを向けられなくて良かった。
「あはは、すみません。美人さんの瞳が綺麗過ぎて、吸い込まれそうになっちゃいました」
冗談めかせて説明すると、美人さんが反応するより早くカッパくんが動き出し、あわあわと口で言いながらアワアワと私の足にしがみついてくる。
「カッパくん、カッパくん、落ち着いて。比喩だからね? 本当に吸い込まれない……ですよね?」
カッパくんの頭を撫でるという小さな目標を達成した事に内心で喜びつつ、カッパくんを落ち着かせようと声をかけ、最終的に自分まで不安になって美人さんを見やる。
私が吸い込まれないようにしているのかぎゅっと抱きつきながら、カッパくんも美人さんを見ている。
「………………人は、食べない」
先ほどの鈴の音を思い起こさせる涼やかな声が美人さんの口から聞こえてきて、表情には出ていないが困っているような雰囲気が伝わってくる。
「大丈夫です。美人さんに食べられてその血肉になるなら本望です」
美人さんを困らせてしまったので、渾身のジョークを空気を和ませようと頑張ってみた結果、さらに空気が凍りついた件。
ラノベのタイトルみたいな文が脳裏を流れたが、このラノベは売れないであろう。
「いえその、どうせ食べられてしまうのなら、美人さんの血肉になれたらいいなぁという凡人の戯言なので……」
カッパくんが『ガーン』という擬音がぴったりな顔で見上げてきてるし、美人さんは無言のまま凝視してきている。
どうしようこの空気とわたわたしてあちこち視線をさ迷わせていると、美人さんから微かな吐息のようなものが聞こえてくる。
ハッとしてそちらを見ると、明らかに笑っている美人さんと目が合う。
カッパくんも同じように美人さんを見ていたらしく「きゅわぁ!」と驚きの声を上げ、美人さんの元へ駆け寄っていく。
その後、美人さんは駆け寄ったカッパくんと小声で何事かを話してから、私へ向かって会釈をして茂みの中へと消えていった。
残されたカッパくんは美人さんへ向けてぶんぶんと手を振ってから、私の方へ駆け戻って来る。
「あの美人さんを私へ紹介しようと連れてきてくれたのかな?」
「きゅわ」
私の問いに、カッパくんは満面の笑顔で頷いてくれる。
美人さんの事が大好きなんだろうなと思いながら、麦わら帽子越しにカッパくんの頭を撫でて、そこにある皿の存在を思い出して、ふと空を仰ぐ。
そこには相変わらず雲一つない青空が広がっている。
「少しは、雨降るといいねぇ」
カッパくんの皿が乾く前に。
そう思いながら、なんともなしに呟いただけだったのに。
『…………わかった』
そんな声が耳の奥で響いて、私は思わず両手で耳を塞いで周囲を見渡す。
視界に入るのは、生い茂った草と広がっている家庭菜園。
それと可愛いきょとん顔を披露しているカッパくん。
空耳かと耳を塞いでいた手を外すと、ちょうど見計らったように遠くの方でゴロゴロと雷の音が聞こえてくる。
「おや、ひと雨来そうだね、カッパくん」
「きゅーわ!」
やはり雨が降ると嬉しいものなのか、カッパくんは私の言葉に大きく頷いて、その場でくるくると回り出す。
さすがに一緒になって回る…………つもりはなかったが、カッパくんがぐいぐいと手を引っ張ってくる。
キラキラと見上げてくる眼差しには勝てず、最終的には二人で一緒になってぐるぐると回る羽目になった。
目が回るのでは心配が過ったが、その前に一粒目の大きな雨粒が地面へ落ち、あっという間にバケツをひっくり返したような雨が地面を叩き出す。
私が慌てて屋内へと向かうのに対して、カッパくんは楽しそうに雨に打たれている。
台所まで避難した私は、窓から雨の中のカッパくんの様子を眺める。
よく見てみると、カッパくんの足元では、小さなナニカが一緒になって踊っているのがわかる。
「うーん、夏のファンタジーって感じだ」
カッパくんのおかげか怖いとは全く思わず、私は自然と笑顔でそんな呑気な事を呟きながら雨の降る景色を飽きずに眺める。
雨の中、巨大な深青色の生き物が、ゆっくりと移動しているのが雨越しに朧げに見え、何となくアレが雨を降らしてくれたんだなぁと思った私は、とりあえず拝んで心の中で感謝の言葉を伝えておく。
一晩中降り続け、水害とか心配になるレベルの雨だったが、次の日は嘘のように良い天気で。
家庭菜園と野菜達と、カッパくんの色艶がとても良くなっていた。
少し不思議なのは、あれだけ唐突に降ってきた豪雨だったのに、ニュースでもアルファベット一文字のあれでも全く話題になっていない事だ。
しばらく考えてから、私はポンと手を打つ。
「ここは天気予報にハーピーが出てくる世界だった」
今さら突然の雨ぐらいではニュースにはならないんだと妙に納得してしまった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
スマホの画面に線が入るという症状が出てしまったので、さらに不定期更新となるかもです。
一応、直す算段はついたので、何事もなく直るとよいのですが……。