第17話 危急存亡の刻
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遅くなり申し訳ございません。
いっぱいいっぱいです……。
――ロライナ西方艦隊
天空でまるで蝗の群れが飛ぶかの如く制空戦が行われている最中、海上でも激しい砲撃戦が繰り広げられていた。
大きな音と共に水柱が天高く立ち上っていく。
「被害の確認急げぇ!! 敵艦隊は回り込んでくるぞ! 取舵いっぱーい!!」
「はいッ! 敵のケツに噛みついてやりまさぁ!!」
「何ならぶち込んでしまえ!!」
カパルス提督の鉄板ネタに艦橋が笑いに包まれる。
この旗艦の乗組員たちとは長い付き合いだ。
誰1人として失わせたくはない。
「かなり接近したな……喰らうとマズいか……?」
そう呟く中、双眼鏡を覗くカパルス提督は味方艦の砲撃が次々と命中しているのを見た。
その目でしかと。
爆発炎上する敵艦。
明らかに穿孔が空き、艦が傾き始めている。
1隻の巡洋艦が近くの駆逐艦を巻き込んで海中へと引きずり込まれていく。
その姿は地獄の亡者が生者に縋りつくが如し。
「命中弾多数!!」
再び、艦橋が湧いた。
乗組員全てが一体となっているようだ。
すごい一体感を感じる!
「閣下、10時の方向に変わった大型艦があります。特務艦でしょうか?」
「うん?」
旗艦艦長にそう言われて、カパルス提督はその方向へと双眼鏡を向けた。
「……!? 何だアレは……確かに巨大だが……戦艦ではない?」
砲門はあれども戦艦の主砲とは違う形状をしている。
かなり細長く、まるで艦全体が1つの砲塔のようにカパルス提督には見えた。
「何だ……回転砲塔でもないのか? いや、もしや新兵器か……?」
「新兵器ですと!?」
カパルス提督と呟きが艦長の耳にも届いたようで、艦橋に驚きの声が響いた。
当然、乗組員たちも聞くことになる。
弛緩していた空気が一変し艦橋内は重い緊張感に包まれた。
「嫌な予感がする。あれを狙え! 全砲門を持ってな!」
「コピー」
通信士から全艦隊に向け電波通信が送られて命令が伝達される。
すぐに砲撃手が弾道計算を開始して主砲、副砲が回転を始めた。
獲物を見つけた猛獣のように照準が合わされて、射撃準備はちゃくちゃくと進んでいく。
『あれからは危険な臭いがぷんぷんするぞ! ゴミは海洋投棄してやれ! 各員、撃ってぇい!!』
カパルス提督が通信で自ら指示を出す。
その腹に響くような轟音を上げて戦艦の主砲46cm砲が火を噴いた。
次々と艦隊から大粒の雨が降り注ぐ。
目標の特務艦の周囲には数えきれないほどの水柱が上がった。
カパルス提督が見ていた限りでは何発か命中弾があったようだが……。
「命中弾多数確認。損害を認めず」
「硬いな……どれほどの装甲にしたのだ? 戦艦の主砲は?」
「ありません!」
どうやら命中弾はないようだ。
それならば!とカパルス提督は気合を入れ直す。
流石に戦艦の主砲を喰らってただで済むとは思えない。
大声で叱咤激励し士気を高めるのみだ。
『命中弾はあるッ! 各戦艦はよーく狙え!! 当たれば沈むぞ!! 必ずな!!』
「巡洋艦〈アバマ〉轟沈! 重巡洋艦〈ランプート〉轟沈しました!」
「救助急げ! 左翼艦隊は大きく回頭だ! 進路を塞げ!」
戦況は刻々と変化する。
それに対応するようにカパルス提督は懸命に指示を飛ばし続ける。
「爆装した戦闘機にも通達! 巨大な特務艦を狙えとな!」
そして命令はすぐに伝達され実行に移される。
◆ ◆ ◆
空では下馬評の通り、ランディス空軍の戦闘機『シアトー655型』が圧倒的優位に立っていた。埋められないほどの機体性能差がある上に、搭乗者はベテランのエース級パイロットばかりである。
いくら獅子州連合航空隊が、数で抑え込もうとも越えられない壁がそこには存在した。
唯一の強みである数が活かせるのは、『シアトー655型』が補給に戻る時だけであった。ランディス空軍もローテーションで上手く回してはいるのだが、飛んでいない状態では為す術がない。
それでも圧倒できているのはランディス側の運用の妙と言う奴だろう。
獅子州第2連合艦隊もロライナ西方艦隊の空母を狙い撃ちにしていたのだが、一向に沈めることはできずにいた。
ランディス合衆国軍は、時間を掛けながらも堅実な戦闘を継続していたのだ。
マイケルズ二等空尉も未だ存命であった。
普段は大人しいタイプの彼も戦闘機に乗ると性格は一変する。
『また1機逝ったァ!! ウラララララァ!!』
敵戦闘機の背後を取って照準を合わせ14mm速射機関銃をぶっ放す。
別にどうと言うことはない単純作業。
ルーチンワークのようなものだ。
『チッ……煩い小蠅がよォ……ブンブンと鬱陶しいんだよォ!!』
敵機が4機、『シアトー655型』を囲むように旋回してくる。
全て機種が違っているので、性能も全く違う戦闘機だ。
小賢しいことに連携して飛行しているようで鬱陶しいことこの上ない。
『アララララララーーーーーイ!!』
再び14mm速射機関銃が火を噴いた。
目の前で小蠅の1機が空中分解し爆散する。
『1機ィ』
1機が背後に付き、もう1機が至近距離で牽制してくる。
最後の1機は――空。
弾丸の雨が容赦なく『シアトー655型』へと降り注ぐ。
『甘ェ!!』
右へ急旋回を掛けたマイケルズ二等空尉が、背後を取っていた敵機の右手に回り込み、背後に付けると機銃のトリガーを引く。
タタタタタタッと連射音がして、片翼に命中した敵機が敢え無く海面に叩きつけられて爆散した。
『2機ィ』
そのままちょこまかと牽制していた敵機を続けざまに地獄へ落とす。
脱出する暇さえ与えない。
敵は死すべし。慈悲はない。
『3機ィ』
最後は急降下してきた機体だが、どうやら逃げに走ったようだ。
執念深いマイケルズ二等空佐は逃さない。
1度見た物は決して脳から消失することなどない。
死なない限り!
周囲に別の敵機が群がってくるのを完全に無視して、目標をひたすら追尾する。
『逃さない! 逃げられない! 逃す訳がないィィィィィ!!』
狭いコクピットの中で反響する自分の声を聞きながら機関銃を乱射するマイケルズ二等空佐。
その言葉の通り、前を飛んでいた最後の1機に弾丸が命中。
燃料に引火して爆発四散――ついでに1機巻き込んで空に爆ぜた。
『4機ィ……5機ィ……』
マイケルズ二等空佐は飛び続ける。
それが自分の存在理由だと理解しているから。
弾丸と燃料が無くならない限り空に舞う。
◆ ◆ ◆
――獅子州第2連合艦隊
ロライナ西方艦隊の攻撃密度が濃い。
既にかなりの打撃を受けていた獅子州第2連合艦隊。
当初、戦艦5、重巡洋艦8、巡洋艦16、駆逐艦18、空母3、超電磁砲搭載艦2だった編成から大きく数を減らしている状態だ。
現在の戦力は戦艦3、重巡洋艦5、巡洋艦10、駆逐艦14、空母2、超電磁砲搭載艦2だ。
幸いにして最終兵器は護られている。
空からの爆撃を受けることが何度かあったが、その分厚い装甲で難を逃れていた。
相手にも打撃は与えているものの、被害数ではこちらが多いようだ。
カリステ司令はただただ海を睨みつけることしかできない自分をもどかしく感じていた。命中率の低い砲撃手を叩き出して、自分の手で敵艦を沈めたい衝動に駆られるほどである。
「重巡洋艦〈スパッツァ〉轟沈! 巡洋艦〈ロシーナ〉大破! 航行不能!」
通信士の口から出る言葉も、戦況の悪化を伝えるものばかり。
「おのれ……ランディス合衆国め……」
「敵戦闘機が海面に何かを投下した模様。右舷2時方向から来ます!」
それを聞いたカリステ司令はすぐにピンとくる。
大戦の幕開けとなったスピナス海海戦で敵爆撃機が投下したものだ。
爆弾を海に落としてどうするのかと言う話だが、幾つもの目撃情報から、それは海中を進んでくる爆弾だと言う結論に至った。
白波を起こしながら迫りくる爆弾。
だが直進性しかないようで回避は可能だとの報告が上がっている。
爆撃機を全速力で注視し、即、回避行動を取れば問題はないはずだ。
「全力で避けろ! 全速だ!」
「おーもかーじ一杯!!」
白波が立っているのは艦の中央部。
現在の速力を維持して回頭すれば回避できるはずだ。
「船尾に当たるとマズいな……スクリューが」
問題は躱そうとしている間にも降り注ぐ、敵艦隊からの砲撃である。
間断なく五月雨のように飛んでくるため、轟沈は免れても中破や小破の艦船も多くなってきている状況だ。
「超電磁砲搭載艦から入電! 我攻撃を受けり! 我攻撃を受けり!」
「何ッ……感づかれたか!?」
「閣下、砲撃が超電磁砲搭載艦に集中し始めているようです」
「せ、戦艦〈ロナジー〉轟沈……! 空母〈ローザス〉大破……大きく傾いています!」
立て続けに凶報が舞い込み、艦橋の緊張感は最高潮に達しようとしていた。
その時、旗艦が大揺れに揺れる。
立っていた者は皆その場に倒れ込むほどの衝撃。
「くッ……被弾したのか!?」
頭を強かに打ち付けたカリステ司令が何とか立ち上がり状況を確認する。
「大変です! 機関の出力低下! 速度が落ちております!」
「船尾、右舷中央に穿孔を確認!」
「注水しろぉ!!」
カリステ司令の言葉は最早悲鳴に近い。
「超電磁砲搭載艦から再度、入電、集中砲火を浴びている模様! あッ……敵戦艦主砲の直撃を認める……」
「空はどうだ……」
「航空優勢は向こうにあり……圧倒的不利な状況です」
カリステ司令は状況を把握したようで、落ち着いた声色で言った。
「ここに至っては止むを得ん。地獄へ引きずりこんでくれん。死なば諸共よ」
ありがとうございました!




