第9話 危機感が薄いのと好奇心とで奇跡的に初動は速かった
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■ユリウス歴2569年1月2日 13時
アルトア王国へ向かうユースティア使節団
「いやー未知との遭遇なんて心が躍りますねぇ……」
飛空艇内部の一室で言語学者のドリドリル・セナードがにこやかな笑みを浮かべていた。
それはもう分かり易い程にウッキウキな態度が全身から滲み出ている。
セナードが初の異世界国家の言語解析者に選ばれたのは、単なる偶然である。
最初はやはり面子の問題もあるだろうと言うことで、政府は言語学の権威に依頼したのだが、ゴリゴリの堅物であるその教授は異世界の言語だと聞いてあっさり断ったらしい。とうとう政府がボケたかと鼻で笑い飛ばしたのだ。元からボケていたと言う可能性はこの際、置いておく。
つまり寝言は寝て言えと言うことだ。
そんな彼が断わったのが耳に入ったのか、言語学会の学者たちは誰も人類初の名誉に与ることができると言うのに二の足を踏んだと言う訳である。
厳密に言えば、バーグ王国軍の捕虜とのやり取りに加わっている言語学者は既にいるのだが。
セナードは元々、少数民族の言語ばかりを研究していた、ある種マニアックな学者であった。その上、好奇心の塊でSFとファンタジーでご飯3杯はイケる変態だったのだ。
「んー異世界転移なんてファンタジーなんだから何故か言語が読めても少しも不思議じゃないのになー」
セナードは窓から見える美しい城に目を向けながらウンウンと頷いた。
その顔はずっと緩みっぱなしである。
「いや、その展開も大いにアリだけど、異世界と関われるのならいっか」
間もなく訪れる未知の言語や文化との出会いに心を躍らせるのであった。
―――
別の部屋でも窓の外を不安気に眺める者がいた。
外務省に勤める若き外交官チェル・ノボーグである。
彼は思い出していた。
外務大臣に直接呼び出されて言われた言葉を。
とある国との初接触に行ってくれ(言葉も不明だし危険かも知れんが)←分かる
何か隣国と揉めている可能性がある ←まぁ分かる
その国は異世界国家である ←は???
外交官である以上、どんな国にでも行けと言われれば行くしかないのは覚悟していた。
しかし、異世界国家とは何なのか。
異世界とは?
ノボーグは思わず異世界の定義について小1時間程考えてしまった。
心の着地点を見い出せないまま我に返ったのだが、考えると色々と問題がある気がするのは気のせいだろうか?そもそも初めて外交交渉に行く国の首都に、許可もなく飛空艇で乗り付けるのはアリなのか。
それ何て砲艦外交?と思うと気が進まない。
この際、異世界云々はまぁ良い。
まずはどこかで現地人とコミュニケーションとろうぜ!と思うのは普通の感覚じゃないのだろうか。
首都に行くにしても空ではなく海からでいいのでは?とも思ってしまう。
それにしても、いつからユースティアはこんな雑な外交をするようになったのか。
まぁ弱腰、先送り、世界のATM外交だったことを考えると、いや元々大したもんじゃねぇなとも思えてきたのだが。
「ははッ……。何か世界が平らに見えるぞ……? 気のせいかな?」
ノボーグは「世界は……平面だった……」と名言っぽく呟きながら痛む胃を押さえたのであった。
―――
国防隊からは護衛として、陸から20名、空からは飛空艇の艦長以下必要最小の人数のみが乗艦している。飛空艇と言ってもあまり威圧感を与えたくないと言うことで旧式の小型艇が選ばれた。
軍用ではあるが防御面では大いに不安があるのは否めない。
はっきり言って未知の国の首都にいきなり侵入して攻撃された場合どうするのか。
奇襲された場合、現場判断で反撃可能なのか。
旧世界では、大した武装もなしに武装勢力が跋扈する地域に国防隊を派遣した実績のあるユースティアである。
政権与党内でも意見が割れたのだが、特に国防大臣が強硬に飛空艇での派遣を主張した。まだまだ未知の異世界で何が起こるか分からないし、外交官や国防隊員だけでなく民間人も行くとなれば海上艦より速度の出る飛空艇の方が安全だと言う考えであった。
外務大臣や法務大臣は平和主義に反すると、断固反対の姿勢を崩さなかったが、最終的には総理大臣のスレインの一声で現在の状況に至っている。
そして当然のように野党や反体制団体、極左団体は一斉に政府批判を開始した。
「しかし初の異世界国家との接触に関わるとなると身が引き締まるな」
「そうですね。でも空さんはもう異世界国家と戦ったんですよね?」
「ああ……間違えるなよ? 武装勢力だぞ」
「そうでした。申し訳ございません」
護衛部隊の一等陸尉とその部下の会話を陸曹長のリベラス・アルトーはじっと聞いていた。
「私はこんな任務には反対ですがね。交渉したいなら武装なんてせずに平和的に接触すべきなんですよ」
もう1人の眼鏡を掛けた隊員が顔をしかめて自らの意見を主張している。
リベラスは表情は一切変えないが、何故、彼がそこまで相手のことを信用できるのか不思議でならなかった。
旧世界でさえそうであったのに、ここは異世界であり、しかもいきなり国籍不明な集団から問答無用で攻め込まれたばかりなのである。
国防隊に入った以上、戦死することは覚悟しているが、丸腰でよく分からんヤツらの所へ行って来いと言われても流石に困惑してしまう。
「話せば分かるはずなんですよ」
陸防隊の面々が「お前は外交官の護衛メンバーに入ってねぇだろ」と心の中でツッコミを入れていることは内緒である。
隣ではリベラスが変なフラグを立てるなよと思いつつ、そんなことを言えば相手に「問答無用!」とか言われてしまいそうだなと場違いなことを考えていた。
陸防隊員たちが押し黙ってしまい重くなった雰囲気を和らげようと思ったのか、艦長を任されたカエルム・ミストラル二等空佐が口を開いた。
「知らないと言うことは恐ろしいことですからね。お互いのことを知るためにもある程度はこちらの力を見せる必要もあるでしょう。我々に戦いの意思がない以上、後はどれだけ相手にそれを伝えるかですが、それは外交官の腕の見せどころと言う訳ですね。我々は我々のやるべきことをするだけでしょう」
それに反応して「やはり武器を持たずに接触した方が良いのでは?」と小声で溢す能天気な陸防隊員に「だからお前は現場に行かねぇだろ」とまたまたツッコミを入れるお仲間たちであった。
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