第33話 ランディス合衆国の暗躍 ③
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『セレンティア・サ・ガ』
~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~
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――パトリア帝國
ランディス合衆国の外務補佐官たちは世界中に派遣されていた。
その中の1つにパトリア帝國の名前もあった。
中央大陸の最東部にあるその国は、神聖ヴァルガリア帝國の同盟国である。
それを切り崩すべく外務補佐官イルベールが命がけで乗り込んだのだ。
「我が国が神聖ヴァルガリア帝國の同盟国と知っての交渉か?」
外務帝大臣ジョルノ・ガッバーナの第一声がそれだった。
まさか神聖ヴァルガリア帝國が大敗北を喫したタイミングで訪れるとは思っても見なかったが、よくよく考えると1番のタイミングであると彼は思い直す。
「だからこそなのです。我が国に大敗北を喫し、大打撃を被った神聖ヴァルガリア帝國から貴国が離れる好機であると私は考えます」
「離れるだと……? 貴国の目論みが透けて見えるぞ。ガリアを包囲せんとする親ガリア勢力の切り崩し工作だ」
「その通りでございます」
イルベールは否定するでもなく平然と肯定して見せた。
想定とは違う反応にガッバーナは面食らうが、そのような感情などおくびにも出さない。
「認めると言うのか? そんなものに我が国が乗せられるとでもお思いか? 随分と安く見られたものだ」
「いえ、決してそのようなことはございません。我が国は貴国の尊厳を取り戻す刻は今を置いてないと言っているのです」
「尊厳だと……?」
「はい。貴国の歴史はよく知っております故。度重なるガリアとの戦争の歴史。そして屈辱の従属的同盟関係。覆すことのできない不平等な関係性。かつて周辺国家と共に大義を掲げてガリアに立ち向かったことをお忘れか?」
流石に歴史を引き合いに出されては黙ってなどいられない。
ガッバーナは思わず怒鳴り声を上げる。
「忘れようはずがない! 貴国は我が国を侮辱するおつもりか?」
「その逆でございます。我々はむしろその忍従に尊敬を抱く者であり、貴国がその身を犠牲にすることで得られている平和に敬意を表します」
「……!!」
「耐え忍んだ結果、ガリアの連中は貴国の心中を推し測ることが1度でもありましたかな? ただただ便利な駒として経済・軍事と体よく扱われてきただけではありませんか?」
「我が国は平和を希求している……。戦争など望む者はいない」
「それは我が国も同じでございます。ですが、神聖ヴァルガリア帝國は違います。彼の国の本質は覇権主義。現に此度の戦いは我が国を奇襲するものでした。この蛮行を座視すれば、再び悲劇が訪れるは必定。故に我々は共に立ち上がる者を探しているのです」
「神聖ヴァルガリア帝國に勝つための戦略があると仰るのか? 我が国の他にも同盟国はあるのですぞ?」
「既に手は打っております。世界各国と交渉を持っておりますが、お聞きになりますか?」
「ほう……態々教えると言うのか。よろしい。ならば参考までに聞かせて頂こうか」
「では……神聖ヴァルガリア帝國に対して直接攻撃を仕掛けるのは我が国、ルジナート連邦、スタン帝國、バーラデリ共和国、神聖トールドル帝國。獅子州連合へ侵攻するのがアトランティス帝國。ドラゴニアへは大ザナーク帝國、一方のタイカ民主国への押さえとしてトナム共和国、タイシン国、コウシン国、更にはタイカ国内を混乱に陥れるために中央政府に反抗的な地方自治政府――軍閥ですな。彼らを使います」
ガッバーナはあまりの反ガリア国家の多さに驚愕する。
情勢を調査している諜報局・調査特務大臣から聞いていたのは、ランディス合衆国と共に動きそうなのはルジナート連邦とスタン帝國、バーラデリ共和国だけであり、タイカ民主国内が内戦になりそうだと言うことだけ。
まさか南西世界まで手が及んでいるとは思ってもみたなったし、アトランティス帝國も動くとしたら単独での侵攻だと考えていたのだが、よもや連携しているとは。
何かを考えたまま、動かなくなってしまったガッバーナの姿を見て、イルベールは表情を変えぬままほくそ笑む。
「け、検討させて頂こう……」
「良い返事をお待ちしております」
何とか声を絞り出したガッバーナにイルベールは、我が事為れりと確信した。
パトリア帝國皇帝であるトラヴィスⅢ世は、外務会談の結果を気にして公務室にて政府統合帝大臣のリティレ・マイルス、諜報局・調査特務大臣:シーラ・ナルカンドラと共に待っていた。
両者の前には侍従が淹れたお茶が置かれているが、最早温くなってしまっている。せっかくのお茶にも3人共あまり口を付けている様子はない。
そこへ部屋の扉がノックされた。
待ちに待った外務帝大臣が会談内容を持ってやってきた。
そう思ったトラヴィスⅢ世は入室の許可を与える。
「失礼致します。ガッバーナです」
「うむ。座るがよかろう」
「は、ありがとうございます」
ガッバーナがマイルスの隣に腰掛けると、皇帝もその対面に座る。
すぐに追加のお茶とお代わりが出された。
侍従が去るや否や口を開いたのはマイルスであった。
「それでランディス合衆国側は何と?」
「はい。やはり、神聖ヴァルガリア帝國への共闘依頼でした。かなりの国が反ガリアへ参加しているようです。それで詳細ですが――」
皆に共有するために丁寧に会談の内容を語って聞かせるガッバーナ。
それに誰もが黙って耳を傾けており、トラヴィスⅢ世は瞑目して聞いている。
「なるほど。ご苦労であったガッバーナよ」
皇帝から賜る直接の労いの言葉に感激して彼は顔伏せた。
マイルスは厳しい顔付きをしながら、やや焦りの含んだ声で警戒の言葉を漏らす。
「我が方が掴んでいるより遥かに多くの国を味方にしているようですな」
「申し訳ございません……他国に潜らせている諜報部へ喝を入れておきましょう。直ちに情報の収集に当たらせます」
謝罪したのは全ての情報を収集し精査、分析する諜報局・調査特務大臣のナルカンドラであった。
「私にはランディスがそこまでの求心力を持っておるのか疑問なのだ……もちろん今名前の出た国家は可能な限り情報を集めよ。だが他にも影響を及ぼしかねぬ国家があるだろう」
「そ、それは一体……?」
トラヴィスⅢ世の言葉に疑問の声を上げたマイルスはすぐに答えを知ることになる。尤も自分がした間抜けな質問に彼は己の見識の甘さに恥ずかしさを覚えることとなった訳だが。
「タイカを破った東方世界のユースティア、そして南東世界で暴れておったガラベルム帝國だ」
パトリア帝國から東方世界、南東世界は注視の対象である。
常に混乱しており、今年に入って大きな動きがあったため特に、だ。
「彼の国がどちらに付くかで戦況は大きく変わるように私は思うのだ」
「流石は陛下、確かにそうかも知れませんが、此度の参戦は危険ではないかと!」
「かなりの規模になると思われますな。敗戦の憂き目に遭えば、栄えある帝國が没落するのは必至でしょう。ここは静観するのが1番良い選択だと思います」
ガッバーナもマイルスも参戦には否定的な立場であった。
今でも、神聖ヴァルガリア帝國とは表面上は対等な同盟関係であるが、その実は従属的同盟なのだ。それもこれも過去に何度か敗北したせいである。
「もう少しお時間を頂ければ、ガラベルム帝國には諜報員が既に入っております故、先程挙がった国家に加えて情報を上げさせます。それに確かユースティアは我が国に外交団を送って来ていたと思うのですが」
「ええ、国交開設を目的に来訪されましたね……なるほど、まだ外交関係はありませんが、連絡手段はありますのでこちらからも探りを入れてみましょう」
ガラベルム帝國とは一触即発の事態にまで発展したのだが、何故か突然艦隊を引き上げていってしまい戦争にはならなかった過去がある。
ナルカンドラとガッバーナはその2か国の動向を探るべく動くことにした。
「陛下、現状が我が国にとって我慢のならぬものでないことは十分に理解しております。しかしもう敗戦する訳にはいかない。どうかご自重ください!」
諭すようにそう言うマイルスであったが、皇帝とて馬鹿ではない。
ただ神輿に乗せられているだけの存在ではないのだ。
「そのようなこと分かっている。私はこの国に誇りを取り戻したいだけだ」
トラヴィスⅢ世は十分に弁えている。
――大ザナーク帝國
中央大陸のドラゴニアと南アトランティス大陸の神聖トールドル帝國を隔てる大海洋に浮かぶ小大陸にある国家だ。
ランディス合衆国からの使者に相対しているのは、この国の外務卿、ブルーツ。
大ザナーク帝國は大仰な名前の割には文明的に大きく発展している訳ではない。
地政学的な理由から、他国から干渉されにくかった上、大航海時代の植民地化競争にも名乗りを上げなかったため、独自の文明を築いていた。とは言え、周辺国家とは交易しており、更に科学技術先進国の神聖トールドル帝國の恩恵を得て技術力はそれなりに持っている。
ランディス合衆国の外務補佐官フォークスは本当にこのような小国家まで味方に組み入れるのかと疑問を抱きつつも会談を開始した。
「まずはお目通り頂きありがとうございます。ランディス合衆国の外務補佐官フォークスと申します」
「うむ。ブルーツだ。用件を聞こうか」
両国の間には今まで交流などなかった。
絶えず戦国乱世であるこの世界ではあまり密な関係を持っている国は少なかったのだ。纏まりだしたのは比較的最近の出来事なのである。
「中央世界の大部分を支配する神聖ヴァルガリア帝國についてなのですが、彼の国が演習中の我が国に対して奇襲を掛けてきましてね。その上、周辺国家にまで勢力を広げようと動き出したのです。そこで包囲網を築いて共に戦いたいと貴国を訪問させて頂いたと言う訳です」
大ザナーク帝國の国力を垣間見た者としては、大した軍事力を持たないそこそこの国家と言う感想であり、フォークスは結構おざなりな態度を取っていた。
「中央世界か。確かに大それた名前を付けているようだな。それにしても貴国も大変だったであろう。遥々北方世界から参ったのだろう?」
「いえいえ、お心遣い感謝致します。それで如何でしょうか? 我が陣営は頼もしい味方ばかりです。これは貴国のためにもなるかと存じますが?」
ぞんざいな言動に不愉快になりつつも、ブルーツはぐっと我慢して尋ねる。
とは言え、どちらも大概な態度を取っている訳だが。
「我が国の為になるだと? それはどう言う意味か?」
語気が荒くなってはいるが、まだ表情には出ていない。
「はい。戦勝国の立場が得られると言う意味ですね」
「ほう。貴国は中央世界の支配者を倒せると申すのかね?」
「可能であると考えております」
「理由は?」
そちらから交渉を持ってきたのだから、聞かれなくてもさっさと説明しろよとブルーツは苛立ちながら尋ねた。
フォークスもそれを敏感に感じ取って、速く決断させてしまおうと決意する。
「我が国の陣営が圧倒的な戦力を有しているからです。まぁてっとり早く国名を挙げておきましょうか。ルジナート連邦、アトランティス帝國、神聖トールドル帝國、パトリア帝國、スタン帝國、バーラデリ共和国、トナム共和国、タイシン、コウシン、そしてタイカ民主国の地方軍閥などですね。つまり彼の国は既に包囲されていると言うことです。一斉に攻撃を仕掛けられて防げる国などありませんよ」
これで決まりだと思ったフォークスであったが、意外としつこく聞いてくるブルーツ。一応、仕事はやるタイプのようだ。
「敵はどうか?」
「神聖ヴァルガリア帝國、ドラゴニア、獅子州連合でしょうな」
「我が国に望む行動は?」
「ドラゴニアへの牽制、もしくは侵攻です」
平然と言ってのけるが、決して弱い相手ではない。
「列強国を相手にしろと言うのか?」
「あのような国は神聖ヴァルガリア帝國のお陰で列強になったようなものでしょう。竜人族とは言え龍を操れる訳でもありませんし、銃で撃てば死にます。勝てない敵ではないかと存じますが?」
小馬鹿にしたような言動に怒り心頭なブルーツであったが、何とか罵声を浴びせて叩き出すことだけは防げたことに安堵する。
頑張った自分を褒めてあげたくなるほどだ。
「よかろう。検討する故、しばし待たれるがよい」
結局、大ザナーク帝國はランディス合衆国の陣営に加わることが決定した。
大きかったのは南西世界の神聖トールドル帝國が味方にいると言う事実であった。
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