第17話 アルトア沖海戦 ②
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――ユリウス歴2569年8月12日 アルトア沖
ユースティア政府の想定通り、ドゥーリ共和国の海上艦隊はどこにも寄り道することなくアルトア沖へ姿を現した。
アルトア王国占領時に派遣して来た艦隊よりも規模が多く、内訳は戦艦10、装甲巡洋艦25、巡洋艦17、特務艦(補給艦等含)25である。
対するユースティア海防隊の海上艦隊は戦艦級護衛艦5、巡洋艦級護衛艦8、駆逐艦級護衛艦14、潜水艦5。
8月なのにもかかわらず最近は天気が悪い。
艦隊決戦となる今日この刻も曇天の空模様で今にも空が泣き出しそうだ。
「よもや不吉の前兆ではないだろうな……」
戦艦級護衛艦〈ホラティス〉の艦橋でロキソス海将が言い知れぬ不安を口にしていた。
もちろん部下に聞かせるような真似はしない。
小声で呟いた程度だ。
戦力はいつもの通り万全な体制で臨んでいる。
今回は特に戦艦級護衛艦を5隻も投入しているのだ。
いくら他方面が安全になったからと言って集め過ぎだろと突っ込みたいほどである。実際に過剰戦力なのは、皆そう思っているが口には出さないだけ。
「敵艦隊散開しています。間もなく射程に入ります」
「うむ。まだ撃たんでも構わない」
今作戦の肝は『相手の心を折る』ことである。
単純にロングレンジから圧倒的な火力で撃破すれば良いだけのような気もするのだが、講和推進派から人員の被害をなるべく出さないようにして欲しいと要望があったらしい。
筋書きとしてはユースティア政府とドゥーリ共和国講和推進派の思惑としては全艦撃破されるも、乗組員の多くがユースティア海防隊に命を救われて……よよよ……。
こう言うことらしい。
そう都合よく話が進むなら海防隊はいらない。
とにかくユースティア護衛艦隊群は至近距離での砲撃戦をやらなければならないと言うことだ。
対艦ミサイルで沈めた傍から敵国の乗組員を救助する……。
しかもこの天候の中で、だ。
何と言う無理難題。
「(一気に撃破して一気に救助すればいいか……と言うかそれしかなくないか?)」
砲の威力に差があるとは言え、護衛艦隊の装甲も特段厚いと言う訳でもないし、魔導技術による装甲強化の実装は未だ推進中である。
いくら格差があったとしても、敵艦隊の射程内での軍事行動を行うのは危険とは隣り合わせなのには変わりない。
「とにかく敵艦隊との距離10kmほどまで接近するように」
心なしか乗組員たちの無言の圧を感じるロキソス海将。
政府も向こうとの交渉妥結に必死なのかも知れないが、こちらは文字通りに必死なのだぞ?と彼は内心憤りを覚える。
転移以来、ユースティア国防隊は戦闘行為での犠牲者を出していない。
これが政府の慢心に繋がっていなければよいが……と怒りと共に深い憂慮も感じている。
やがて天候は曇天から雨模様に変わり、終いには暴風雨となり海上が荒れ始める。高い波が襲う中、荒波を掻き分け快速を飛ばしてユースティア護衛艦隊群が進み、ドゥーリ共和国艦隊と僅か10km地点まで接近していた。
「敵艦発砲!」
報告と共に護衛艦隊群の付近に着弾し、大きな水柱が上がるがドゥーリ共和国艦隊の方は荒れる波に翻弄されてその着弾点は疎らだ。
この中で命中させるのは至難の業だろうと考えられる。
「この状況で沈めても救助活動などできんぞ……しかし……」
この護衛艦隊群のトップとして決断しなければならない。
敵を救うと言う政治的な判断に応えるのも必要だが、部下を死なせる訳にはいかないのだ。
ロキソス海将が断腸の思いで射撃の許可を決断した。
「各艦に通達。攻撃を開始せよ」
『各艦に通達。各自攻撃を開始せよ。繰り返す。攻撃を開始せよ』
全艦に攻撃命令が下された。
射撃管制システムが全てをリンク、統括し照準が合わされて対艦ミサイルに火が灯る。
もう後戻りはできない。
結果は見るまでもない。
「(どうか、死ぬ者は楽に逝けることを祈る。我々は生きる者を全力で救助するのみ)」
ロキソス海将ができるのは瞑目し黙考することだけ。
―――
「敵艦隊発見!! 1時の方向!! 戦艦5、巡洋艦8、駆逐艦14と思われます!」
敵艦隊発見の報を受け、艦橋内は騒がしくなる。
全員が食い入るようにその方角を注視していた。
ユースティアの艦が空を飛ぶと言うことを知っている者は少ないはずなのだが、声を上げたのはその彼らなのだろう。
「敵は海上艦隊……海上艦隊です!」
その言葉にジェリム海将がガバッと勢いよく顔を上げた。
そして聞き違いではないかと自分の耳を疑いつつ尋ねた。
冷静でなどいられない。
「海上艦隊だとッ!? 間違いないのか!?」
「間違いありません!!」
「空飛ぶ艦隊ではないのだな!?」
「そのようです!」
ここに至ってようやくジェリム海将は冷静さを取り戻そうとしていた。
空から一方的に攻撃されて終わりだと思っていたのが、そうでないと分かると僅かながらでも希望の火が灯ると言うもの。
海戦ならば万が一も有り得るかも知れない。
「皆、傾注! 敵は強い! だが我が国と同じ海上艦隊だ。勝てない道理はないッ!! 貴君らの奮闘に期待する!!」
船は大揺れに揺れており、照準を合わせるのも一苦労だろうがそれはあちらも同じこと。
監視員からの情報に寄れば目測10kmと言ったところだ。
当たる。当てて見せる。
ジェリム海将の命の賭けどころがやってきたと言うことだ。
「通信開け! 各艦射程に入り次第射撃を開始せよッ!! 撃ちまくれッ!!」
先程までとは打って変わってしまった司令の態度に艦長が驚いている。
いつもの勇猛なジェリム海将に戻ったと歓喜しているのだ。
「司令! 見せてやりましょう! 我が軍の力を!」
戦艦〈ドーロス〉を皮切りに各艦が敵艦隊に向かって射撃を開始する。
32cm連装砲2基、15cm連装速射砲6基、7.5cm単装速射砲20基が一斉に火を噴いた。
ドゥーリ共和国の砲撃は基本的に当たらない。
しかもこの荒れ狂う天候によって大揺れに揺れる船体では、尚更命中度は下がるだろう。
ジェリム海将はとにかく数で勝負するしかないと考えていた。
空飛ぶ戦艦まで造ってしまう国家である。
それくらいせねば勝てるはずがないと瞬時に理解したのだ。
空飛ぶ船を派遣せず、海上艦隊のみで迎撃してきたのは不思議だが、舐められていようと何だろうと理由などはどうでもいいことだ。
要は勝てるチャンスが巡ってきたと捉えるべきなのだ。
轟音が響き、その衝撃でバランスが悪くなった船体が更に軋み、揺れる。
このままバラバラになってしまうのではないかと思わされるほど船体が悲鳴を上げているのが分かった。
「機関の出力を上げろ! 最大船速で接近し死んでも当てろッ!!」
敵艦隊の周囲に何十もの水柱が上がる。
命中弾の報告はまだない。
ジェリム海将の必死な命令に艦橋内の緊張は否が応にも高まっていく。
「くそッ……当たらんか……」
しかし敵艦からの攻撃がないなと訝しんでいた丁度その時、報告があがる。
「敵艦、爆発!」
「当たったのか!」
「いえ、主砲ではなく甲板が……?」
期待を込めて問い掛けるも要領を得ない回答が返ってくる。
それにジェリム海将を含め、ほとんどの者の脳内が?で埋め尽くされる。
だがそれも一瞬――強制的に理解させられる。
大きな衝撃と共に。
「な、何事だ!」
船体の揺れが大きくなり傾き始める。
そこでようやくジェリム海将が悟った。
口から出るのは畏れを含んだ言葉のみ。
「一発で当ててきたと言うのか……?」
「ま、まさかそんなことが……」
ジェリム海将と艦長が驚愕する中、それを裏付けるかのように悲痛な報告が上がり続ける。
「戦艦〈ゲルダーグ〉轟沈! 戦艦〈ドリドル〉大破……轟沈! 巡洋艦〈ドゲス〉轟沈!――」
最早、報告が追いつかず冷静さを欠く監視員と通信士たち。
「司令! 本艦、左舷に穿孔有り! 浸水が止まりません!」
「注水を開始しろ! 砲撃手には撃たせ続けろ!」
随分な無茶を言うと自嘲気味に薄く笑うジェリム海将。
自慢のドゥーリ共和国艦隊が次々と沈んで行く。
為す術もなく。
通信で最期の言葉を送ってくる艦長もいる。
「げ、限界です! 本艦も沈みます!」
「総員、退避せよ!」
ジェリム海将はそれだけを告げると独り小さな声で呟いた。
彼は死ぬと分かっていて派遣されたと知っていたし、政府の判断も間違っていると思っていた。
それにもちろん死にたくないとも思っていた――が生き恥を晒す気はない。
「期待するだけ無駄であったか……やはりノーラント氏の言うことは真実だった。死地へと送り出したのは政府だが、この場の責任者は俺だ。皆、恨むなら俺を恨んでくれ……すまない」
沈みゆく船の中で最期の轟きが鳴り響いた。
どうやら意地の一発を撃った猛者がいたようだ。
それを聞いてジェリム海将は最期の言葉を口にする。
諦念の籠った言葉を。
「是非もなし……」
しかし彼の必死さと気迫がもたらした砲撃手、最期の一撃は予期せぬ成果を上げることとなる。
明日7/21(月曜日)から新連載を開始します。
タイトルは以下の通り。
『異世界に転移させられたんだが俺のダンジョン攻略が異世界と地球で同時ライブ配信されているようです』
投稿開始は18時からで月曜日は3回更新予定です。
URLは第1話更新の後で貼っておきます。
是非読んでみてもらえると嬉しいです。
よろしくお願い致します。
(-人-)ヨロヨロ
明日は12時の1回更新です。




