第11話 ユ・ガリア親善交流 ①
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神聖ヴァルガリア帝國親善使節団が乗る飛行機が海上を飛行していた。
間もなく到着となったところで、凄まじい轟音を響かせたナニカとすれ違う。
「な、何だッ!? 今の爆音はッ!?」
「攻撃か? まさかそんなことはあるまい」
「ええい! ユースティアの先導機とやらは何をしているのだッ!」
機内が騒然とする中、離れて行った轟音がまた近づいてくる。
不安を覚えた者が皆、窓の外に目をやるとそこにはユースティアの航空機が並行して飛んでいるのが見える。
ユースティアの戦闘機が左右に2機、先頭に1機着いて飛んでいる状況だが、親善使節団の面々はそれが戦闘機だとは理解していない。
「何てことだ……この飛行機と同じ速度で飛んでいるぞ?」
「いやいやいや、一度すれ違ったのを見ましたよね? Uターンして戻ってきたんですよ! あの飛行機は速いですよ!」
魔導技術部長のライネルだけは嬉しそうな表情で1人はしゃいでいた。
まるで子供のような満面の笑みを浮かべてぶつぶつ何か呟いている。
お得意の分析状態に入った彼はそうなるのだ。
「しかしどうやって飛んでいるんだ?」
神聖ヴァルガリア帝國の飛行機はマギロンがある空域なら、取り込んだ空気と爆裂の術式でマギロンにより燃焼、爆裂させ噴流の反動の力を得て推進力を発生させることで飛行している。
存在しない場所では魔導による変換ができないため本国で産出される魔石を装着しそこからエネルギーを取り込んで同様の現象を生じさせている。魔石はマギロンを蓄積する特殊な鉱石であり、それに内包されたエネルギーが枯渇すると機能しなくなるため定期的な交換が必要となる。
設計や原理が正しく理解されていないため、その力を有効に生かすことができず大幅に速力は低下しているのだが、それはライネルですら知らないことであった。つまりジェットエンジン並みの出力はあるのにもかかわらず生かしきれていないと言う訳だ。
まさに宝の持ち腐れである。
「我が国の戦闘機と酷似しているようだが……」
情報管理部長のハウエルは困惑の色を隠せない。
神聖ヴァルガリア帝國の戦闘機『ガリアンヌMKⅡ』は時速550km。
それと同等の速度で飛んでいるのだから彼らが驚いたのも無理はなかった。
「ユースティアも魔石を使用しているのか?」
「そうかも知れませんね。でもナダル機工国やムー連邦の機械式である可能性も否定できません」
海軍次官のターリンの疑問にライネルが答える。
軍の者として超大国たる帝國と同等近い、いやそれ以上かも知れない魔導技術を持っているのが不満なのだ。
「まぁ皆さん、落ち着きましょう。彼の国へ行けば自ずと分かることです。ある程度は技術を開示してくるでしょうし」
外務次官のガルレアはこいつらもいい加減にその傲慢な考えは捨てろよと心の中で思っているのだが、何とか宥めることしかできずにいた。
一度鼻っ柱を折られるべきなのだ。
超大国であると言う自負が彼らの目を曇らせている。
やがてユースティアの領空に入り間もなく着陸となった時に彼らは窓から見た光景に愕然とさせられる。
数多の高層建築物が建ち並び、帝國の飛行機よりも大型のものが空を飛んでいる。都市計画が素晴らしいのか整然とした美しい街並みが広がっている。
遠くには巨大な橋が架かっており、地上を走る自動車の姿や鉄道と思しきものも確認することができた。
侮っていた。
想像の範囲外と言う言葉すらヌルい。
想像の遥か上を行っている高度な魔導文明社会がそこには存在した。
誰もが固唾を飲み、二の句が継げない状況で、中には自身のプライドが叩き壊されて小刻みに震えている者すらいる。
それは着陸時のアナウンスが流れシートベルトを装着する時まで続いた。
座ることでようやく落ち着きを取り戻した者は多かったと言うことだ。
やがて長い旅も終わりを告げ、ザルツ本島最大の都市クォーカに到着するとロビーにはユースティアの外交官が出迎えにやってきていた。
その何処か神経質そうな長身の男は自らをヨシカワと名乗ると慇懃にお辞儀をして話し始めた。表情はにこやかで常に笑みを浮かべており物腰も柔らかい。
「神聖ヴァルガリア帝國使節団の皆様、長距離の移動お疲れ様でした。我が国までご足労頂き感謝の念に堪えません」
「お出迎え感謝致します。外務次官のガルレアと申します。本日からお世話になります。文化などの違いからご迷惑をお掛けするかも知れませんがよろしくお願い致します」
外務次官のガルレアも外交のプロである。
卒なく挨拶をこなして見せる。
「とんでもない! こちらこそよろしくお願い申し上げます。皆様にはまず旅の疲れを癒すため旅館にご案内致します。そこで料理や温泉などをお楽しみ頂ければと思います」
「温泉……ですか? それは一体どう言ったものなので?」
「温かいお湯が地下から湧き出しているのですが、それを大きな桶のようなものに貯めて中に入ることで体を温め疲れを取ることができるんです。効能も色々ございまして疲労回復や怪我の回復、神経痛など体の不調に良く効くとされております。是非ご体験して頂ければと思います」
神聖ヴァルガリア帝國内には火山などなく国家転移時の地震以外はそれも起こらない。ましてや温泉などないし湯船に浸かると言う文化はなかった。
ちなみにユースティアは転移後も温泉が枯渇することがなかった。
これには地質学者たちも首を捻らざるを得なかったらしい。
ユースティア製の自動車――リムジンバスに乗せられて一行は旅館へと向かう。
流石に疲れているだろうとの配慮から、色々と見てもらうのは2日目からである。
「それにしても道路が良く整備されているな……」
「振動も少ないですし乗り心地もいい。我が国の車とは全然違いますよ……」
「ウチのはエンジンも気まぐれだし空調もこんなに整ってないぞ?」
「確かにそうですね……ナダル機工国やムー連邦の自動車よりも性能は良いでしょうね」
『……』
いきなり鼻っ柱を折られる親善大使一行。
バスの中が異様な静けさに包まれる。
「そもそも飛行機から惨敗だったな……」
「ええい! 惨敗などと言わんでくれ! 余計に惨めになる!」
それを敏感に感じ取ってヨシカワは胃が痛むのを堪えながら何とかその場を盛り上げようとする。
「あッ……皆様、右手をご覧ください。クォーカ市最大の電波塔が見えますよ。夜になるとライトアップされてとても綺麗なんです。是非見て頂きたいなぁ」
「どれくらいの高さなのだね?」
「ええと555mですね。首都のマグナティアにはもっと高いものもございますが」
『……』
またもやこの場を沈黙が支配する。
ヨシカワもやったか……?と気まずい顔に変わるが、そこでへこたれないのがエリート外務官僚である。
気を取り直しパァッと明るい表情を見せると、話題を変えて話し出す。
切り替えが速いのは優秀たる証だ。
「えーと、あ! あの橋をご覧下さい。あれはザルツ本島と首都のあるヴェイン本島を結ぶ最大の橋なんです! 長さは何と約35kmで高架には自動車道、高架下には鉄道が走っております」
『……』
自分はプレッシャーに強い方だと思っていたが、どうやらそれは勘違いだったようだ。そうやって自身の情けなさを痛感したヨシカワであったが、最後の手段に出ることにした。
「で、では皆様、この辺りでカラオケなど如何でしょう」
「……カラオケとは何なのでしょう?」
他の者たちが押し黙る中、律儀にもガルレアが問い質したが何処か沈痛な面持ちだ。反応してくれたのが嬉しかったヨシカワは喜び勇んで説明する。
「我が国の娯楽の1つです。こうマイクを持って音楽に合わせて歌うんですよ」
「ほう……そんな娯楽があろうとは……我が国にはそのような文化はありませんからね。是非取り入れるのも良いかも知れません。ははは」
ガルレアも自国にない文化なので興味は引かれたようだ。
もちろん歌う文化自体はあるし合唱団や劇場などで歌う歌手はいるものの、素人が歌う設備などない。
「文化は国の垣根を超えますからね。では参ります! 一番ヨシカワ! 『惑星のさみだれ』歌います!」
バスの中には最後まで空気が読めなかったヨシカワの元気の良い声だけが延々と響き渡っていた。
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