第7話 亜人都市ボーア
いつもお読み頂きありがとうございます。
本日は12時の1回更新です。
第5調査隊はオドーア村からノルンの指示に従って北進して行った。
目指すのは亜人の都市ボーア。
街道もない荒地をただひたすら爆走する。
緑が少なく丘のようになっている場所や小高い山々もあるにはあるのだが生えている樹木も疎らで、どこか灰色の世界にいるような気がしてくる。
「見えた。あれがボーアの街」
新しく見る物が珍しいようで、ずっと双眼鏡を覗き込んでいたノルンが発見の報を上げる。それを聞いてすぐにカザマもすぐにそれで遠方の様子を窺った。
「へぇ……結構大きそうな街だな。誰が治めてるんだ?」
「亜人の各種族から代表者を出して合議制で統治しているらしい」
各種族の族長たちが色々と取り決めを行っているのか。
初めての邂逅に期待が高まる。
カザマは心が高ぶるのを感じていた。
「たーいちょ! もうすぐッスね。どんな娘がるんだろうなー」
カーネルも運転席で楽しみでしょうがないと言った表情をしている。
ニヤニヤが止まらないようで緩みっぱなしだ。
「おい、カーネル! ちゃんと運転しろ!」
ゼロム曹長が毎度の如く叱り飛ばした。
このやり取りも何度目だろうか。
どんな都市なのか期待だけでなく不安もあったが杞憂に終わる。
なかなかどうして立派な防壁を備え護りも堅牢に思える。
人間だけが高度な文明を持つなんてことは傲慢な考えか、とカザマは内心で反省していた。
そうこうしている内にあっと言う間に街に到着するが、ノルンは目立たないように気を配ってくれたようで裏手の通行口の方へ誘導される。
見慣れない高機動車に最初は警戒していた門番たちであったが、ノルンが話を通してくれたお陰ですんなりと入ることができた。
やはり現地協力者がいるのは非常に大きい。
第5調査隊は間違いなくマグナ半島ガチャSRRを引いたと言えるだろう。
大きな都市だけあって内部の道幅も広く通行には問題なさそうだったが、流石に配慮して各族長が住む領主館へは徒歩で向かう。もちろん念のために武装はしているし、残していく車輌には何人か見張りの隊員を置いておく。
中には人間を毛嫌いする者もいるようだし、翻訳魔法をかけることも忘れない。
一緒に行きたい態度を露骨に示して涙目になる隊員もいたが、もちろんスルーである。こう言うところは隊長の特権だなとニヤケ面をしていたらサイトーに思いっきり蹴られてしまった。
ノルンの話では魔法使いと言うだけあって族長たちとは面識があるらしい。
彼女もだがその師であるバルドルの知名度が高いそうだ。
「あんな好色そうな爺さんでも偉い人だったんだな……」
「好色?」
「いや、何でもない……」
急な訪問に族長は対応してくれるのか心配であったものの、つつがなくファーストコンタクトは終えることができた。
案外、トップは暇らしく揉め事が起こらない限り出番はないそうである。
種族としては獣人種の狼人族、豹人族、猫人族、兎人族などが多数を占めており爬虫類系の亜人は少ない。
族長たちにはカザマたちがユースティアと言う国家の軍人でありこの半島を領有することになったと伝えてある。向こうからしてみれば突然やってきて何を言っているんだと言う話だが、生活が向上し文明度も高くなる上、他国の軍が侵攻して来たら防衛すると言うと対応が少し変わった。
何でも度々マグナ半島に人間の軍隊が攻めてきて戦いになるらしい。
こう言うことは最初が肝心で胸襟を開いてお偉方で話し合うべきことだとカザマは思っている。
中々活気溢れる中央通りを真っ直ぐ進むと大きな邸宅が建てられているのが目に入ってくる。まるで地球で見た洋館みたいだなとカザマは考えつつ邸宅の鉄柵の感触を確かめているとノルンが「何をやっとるんだ」と言う目でこちらを見つめていた。
「そっちじゃない。そこは族長たちの話し合いの場。商人宅はこっち」
「あははは……了解。それにしても人間みたいな生物が生まれると文明も似た感じになるもんなんだな……」
「どの世界も変わりませんよねぇ」
「……? 『どの世界も』とはどういう意味?」
オカダの何気ない一言にノルンがすかさず喰いついてくる。
まさに好奇心の塊。魔法使いの鏡である。
「あたしたちはね。この世界とは違う場所から来たのよ?」
「この世界と違う場所?」
「ふッそれを人は異世界と呼ぶ」
「異世界……こことは違う世界があると言うこと?」
「そうそう。何かこの世界は色んな世界が集まってできてるみたいよ?」
オカダは何故かドヤ顔を作りながら偉そうな口調で胸を張る。
突っ込もうかとも思ったが蹴られそうなので止めておいた。
ちなみにユースティアが国交を結んだ国々は口を揃えて、この世界に国家転移してきたと言っていたのだから間違いではない。
「私はこの辺りの地域から出たことがないので知らなかった」
「バルドルさんなら何か知ってんじゃないのか?」
「聞いてみる……」
こうやって知識は集積されていくんだな。
魔法使いと言うのは研究者みたいな側面も持っているのだろう。
カザマは天才魔法少女の凄さをどんどんと知ることになる。
ノルンが案内したのは大きな商館であった。
街の中央にある邸宅よりは小さいが立派な石造りの館になっており、内部も豪奢な調度品が置かれている。
恰幅の良い小太りの男で人あたりは良さそうに見える。
バルドルの知り合いだと言うことなので信頼できる人物なのだろう。
「初めまして。私はノルン・ノルニルと言う。師匠であるバルドルの紹介でここへやって来た」
「バルドル殿の……では魔法使いでいらっしゃると?」
「そう。それで今日は商談がある。きっと貴方にとっても良い話」
「それはそれは興味がありますな。是非お聞かせください」
ノルンの隣に腰掛けているカザマと背後に控えるオカダたちの様子を見て感じるところがあったのだろう。
自己紹介をする商人の男の目は輝いていた。
「この半島はユースティアと言う国家が領有することとなったらしい。彼らは彼の国の軍人」
「なんと! この化外の地と呼ばれ、どの国も手を出さなかった土地を統治すると?」
「ええ、我が国はタイカ大帝國と戦争をしたんですが、その賠償としてこの半島を差し出されましてね」
「あのタイカ大帝國に勝ったのですか!? 列強国と名高く周辺国家を朝貢国として従属させていたあの!」
流石商人だけあってか情報にも精通しているようでタイカ民主国や周辺国と貿易をしているらしい。
「そこで話がある。これからはマグナ半島の通貨はテアとなる。そして彼の国は未知の品物、この辺りでは決して入手できない物を持っている」
「なるほど。それで商談だと。是非ともその商品を扱いたいものですな」
ノルンの意を酌んですぐに理解する辺り、流石は商人と言えるだろう。
彼女はこれ幸いとばかりに畳み掛ける。
「ここにテアの通貨がある。その価値は計り知れない」
「紙の通貨ですか……? 金銀ではないのですな」
「その通り。このお金は信用で成り立っている。このマグナ半島において今は紙くずも同然だが、いずれその価値は一気に高騰する」
「信用ですか……なるほど……信用が……」
「ここにテア紙幣がある。これは先行投資と思えば良い。貴方の財力でマグナ半島だけでなく周辺国家から異世界独特な品物を入手して欲しい。私はそれを半島の南端に造っている街でユースティア人向けに売る。そして得たお金でユースティア製品を購入し今度は現地人向けに売り出す。通貨と製品が一般に浸透するまでまだまだ時間が必要。その間に儲けるだけ儲けるべき」
商人はノルンの言葉をぶつぶつと小さな声で反芻しながら考えている。
しかしすぐに納得したようで承知したと返事をした。
「ついでにで良いが地下資源と言うものも探している。変な場所や珍しい場所を見つけたら教えて欲しい」
「金、銀などの鉱脈などですかな?」
「それでも良いが、例えば燃える水のようなもの良い。ユースティア人からすれば新資源と言う可能性もある。とにかく何でも良いからお願いしたい」
「よろしいでしょう」
商人は立ち上がると手を前に差し出した。
ノルンがその手をがっちりと掴むと固い握手を交わした。
ユースティアの利益まで考えてくれるとは思ってもみなかった。
カザマは改めて天才魔法少女ノルンに畏敬の念を覚えたのであった。
ありがとうございました。
また読みにいらしてください。
評価★★★★★とブクマを頂けると嬉しく有り難いですし、やる気もでます。
感想やレビューもお待ちしております。
何卒よろしくお願い致します。
明日も12時の1回更新です。