第5話 対ユ強硬派・ドゥーリ共和国
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ユースティアとドゥーリ共和国との話し合いは遅々として進んでいなかった。
それは言葉の壁であり、また軍部の無知からくる侮りである。
アルトアの王子オリナスはすぐにでも故国に戻りたいと嘆願したが、政府はすぐには承諾しなかった。
もちろん、治安面に不安があったからである。
アルトア総督府が無条件降伏し武装解除が行われたとは言え、ドゥーリ共和国からの10万にも及ぶ入植者がまだ存在するのだ。とは言え陸防隊と空防隊の戦力はアルトアに残してあるし、講和交渉を行う上でも丁度良いことから政府は止む無くオリナスの帰還を認めた。
スレイン総理は倒れたものの、迅速な救急対応により今では回復し総理の座に戻っていた。野党からは健康不安説が大々的に主張されたものの、幸いなことに国民の支持は受けていない。
それもこれもスレイン総理が突如として侵略して来たガラベルム帝國に対して断固たる迎撃姿勢を示したと言う情報が流れたせいであるが、これはスレイン総理を護るべく動いた派閥が意図的にリークしたものであった。
逆にガラベルム帝國戦時に総理代行であったニコライ官房長官は本土への犠牲も止む無しと語ったことをリークされて逆に総理の任命責任が問われたのはとんだ笑い話である。
「(取り敢えずクレア半島情勢は収まった。だがいつまでも緊急事態宣言を出しっぱなしって訳にもいかんよなぁ)さて北にはドゥーリ共和国、南西にはガラベルム帝國と言う脅威が存在する訳だがドゥーリ共和国に関してはかなりの技術格差があるんだし普通に国交正常化、通商でいいと思うんだがどうだい?」
「異論はないですね。ただ彼の国の海軍はまだ自分たちの敗北を信じられないようでアルトアを取り戻せと主張しているようです」
講和交渉はアルトア王国で行われている。
オリナス王子が王国を再興したため、既に統治権はアルトア王国に戻っている。
今ではドゥーリ陸軍と衝突した際の破壊跡を再建している状況で、天然資源に関しても調査を進めているところだ。
「不正確な情報ですが徹底的にやられた陸軍は完全に沈黙しているようです。それに国内でも何故やり返さないのか?との主張が出ているとか」
「最悪、もう一戦やる必要があるかも知れんなぁ……」
スレイン総理も復帰したはいいが頭の痛い問題は山積しており、思わず愚痴ってしまいかねない状況が続いている。
相手には航空戦力がないようなので敗北する可能性など無きに等しいと言えるだろう。平和外交も良いのだが、この世界は実力至上主義――旧世界の帝国主義時代であることを考えると強硬な姿勢を見せるのも悪い選択肢ではない。
「とにかく言葉ですね。アルトア総督だったノーラント氏は何とか国内世論と政府上層部を国交正常化に持って行こうと動いておられるようですが……」
ノーラントは総督府長官の頃から積極的にアルトア語を学ぼうとしていたため片言であるが読み書きができるらしい。その姿勢はユースティアの政治家たちも見習うべきものだとスレインは素直に感嘆する。
そこへニコライ官房長官が口を挟む。
「その件でご報告があります。マグナ半島で現地協力者が得られたのですがその中に翻訳魔法を使える者がいるとの報告が上がってきております」
「翻訳? マギロンの何とかが違って無理だって話じゃなかったのか?」
「その人物、ノルン・ノルニル氏はとても優秀な魔導士だそうでしてマギロンの同位体問題など関係なく魔法の行使が可能であるとのことです」
スレインはそれは朗報だと素直に喜びながらも、今までのことを思い出していた。
上がってくる情報がいずれも凶報続き。
いつの間にかそれに慣れ切っていた自分に対して何故か可笑しくなってしまう。
「彼女はマグナ半島の言語を翻訳魔法を使って教えると言ってきたそうなので、既に許可は出しております」
「使えるのは彼女だけなのかい? 複数人いれば助かるんだがな」
「もう1人、彼女の師匠に当たる方が使えるそうです」
「1人回してくれねぇかな? 無理そうか?」
「ノルニル氏は現地の調査隊に協力してマグナ半島を回っているそうでして……師匠のバルドル氏は教師役を務めているようですが」
「呼び戻すのもなぁ……半島の調査も急務であることは確かだ。それにまたタイカ民主国が変な動きをしても困るからな」
ユースティア政府としてはさっさとドゥーリ共和国と国交正常化に持って行きたいところなのだが、まだまだ道は遠そうだと閣僚一同そう思うのであった。
―――
――ドゥーリ共和国・首都ドゥエリア
「やはり、ユースティアともう一戦交えるべきだッ!」
国防会議の議場内に海軍長官のジョナサンの大音声が響き渡る。
対ユ強硬派の筆頭と言っても良い彼は海軍が負けたとは決して認めなかった。
だまし討ちのユースティアのレッテルを貼り、政府内だけでなく国民を巻き込んで騒ぎを大きくしている。
大統領コッセルは内政手腕こそ優れていたが、優柔不断で植民地獲得競争に名乗りを上げることには消極的な姿勢を見せていた。それがジョナサンの血圧上昇の元であり、ドゥーリ共和国軍が動かない原因でもあった。
「とは言ってもな。陸軍が手も足も出ずに大敗したのだろう? 私は気が進まないな」
「大統領、しかし海では負けていません。私は決して抗戦派ではありませんが、このまま国交を結ぶとなれば不平等な条約を押し付けられかねないと愚考致します」
コッセルの弱気な発言に国防長官のランスが諭すような口調で意見を述べた。
それに力を得たのか、ジョナサンは増々勢いに乗って話し出す。
「その通り! そんなことでは他国との国力も開くばかり。国力差は経済格差となり技術格差に繋がるのです! それとも何か? 隣国へ戦争を仕掛けようとお考えなのかッ!?」
「そ、そんなことは考えてはいない……しかしノーラント議員の言うことも尤もだと思うのだ」
ノーラントは今、アルトアと本国の間を行き来して多忙な日々を送っている。
政府高官からは無条件降伏した者を国交締結の交渉に参加させるなと言う意見も多かったのだが、彼の優秀さを知っている大統領は無理やり交渉に捻じ込んだのだ。そのノーラントはたった今、この場にいて額に汗しながらも議論に耳を傾けていた。コッセルの視線が助けを求めるかのように彼へと向けられる。
「私もランス国防長官の意見はご尤もとは思いますが、あの圧倒的な戦力差を見せつけられると……そうですな国が大ダメージを、いや滅亡する恐れがあるとさえ考えております」
「め、滅亡だって!? 滅多なことを申されるなッ!」
ノーラントの控えめながら大胆な推論にジョナサンの怒りに火が付いた。
思わず怒鳴りつけてしまうが、周囲の者も彼の気持ちが理解できたため批判しようとはしない。
「グラッチェ殿は如何お考えか?」
仕方ないので陸軍長官のグラッチェに意見を求めるノーラント。
それに対する答えはシンプルの一言であった。
「私としても彼の国とは戦わぬ方が良いと考えている……」
「貴殿も臆したのかね!? もういい……陸軍は腑抜け、腰抜けだらけの骨なし三等兵よ。まだまだ艦隊は残っている。国力を高め産業革命を成功させて海軍を増強して来た。それもこれも海外派兵のためだッ! 我が国が富国強兵を進めるためには邁進するしかないッ! 今戦わずしていつ戦うと言うのだッ!」
ジョナサンの怒りは最早怒髪天を衝いていた。
その挑発的な言葉にグラッチェが静かな怒りを滲ませて反論する。
「……それは断じて聞き逃せない発言だ」
「ほう。臆病者にも多少は思うところが残っていたのだな。我々海軍は敵艦隊を破る。陸軍は占領する。簡単なことだとは思わんかね?」
「その陸軍が負けたのだと言うことを思い出して頂きたい……我々がいなければ海で勝っても領土を支配、維持することはできんのだぞ?」
植民地化の後に徹底的に現地人の牙を抜くとしても、まずは統治のためにそれなりの陸上兵力が必要だ。愚民政策と徹底した搾取で反抗の気力すら奪ってしまえば、少数での統治も可能ではある。しかしそれには長い時間が必要だ。
「とにかく我が国は一度占領したアルトアから叩き出された。その意味を考えて頂きたい。どうしてもと言うのなら他の国にでも攻め込んだらいいのです」
ノーラント自身はユースティアの存在を知ったため、無理に海外進出せずに貿易で国力を高めた方が良いのでは?と考えを変えていた。
ユースティアは危険である。国力は馬鹿にできないし恐らくドゥーリ共和国とは比較にもならないほどの超大国だ。
だから戦わない。その結論に至っただけである。
勝てない戦争はするべきではない。
大義のためならまだ許せるが、兵士たちを無駄死にさせる訳にもいかないのだ。
コッセルはこの期に及んでも継戦派が多いことに戦慄を覚えていた。
とにかく大統領令で無理にでも国交正常化路線に決定してしまうか。
そう考え始める。
結局、会議は踊るが進まず交渉は継続することだけが確認された。
しかし納得がいかないジョナサンは動き始める。
多数派工作と世論誘導を行うために……。
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