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混沌なる異世界(カオス・ワールド)~様々な異世界国家が集まる異世界の坩堝~  作者: 波 七海
第二章 変わる世界編

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第3話 難航する避難

いつもお読み頂きありがとうございます。


本日は14時の1回更新です。

「はぁ……本当に連れてくるとはな。カザマ一等陸尉……」


 カザマの目の前では調査隊を束ねるコットン一等陸佐が溜め息をついて俯いていた。何かマズイことをやらかしたかと心配になり焦りがじんわりと心に広がっていく。


「あれ? 許可……取りましたよね?」

「ああ、聞いた。確かにな……忘れてくれ」


 カザマたちはマグネダ陸防基地に帰還後、基地から遠く離れた場所に病人を隔離して報告のため基地へと戻っていた。

 例の魔法少女ノルンも一緒であるが念のためマスクを着用させている。


「この子が例の魔法少女です。基地から40km地点にあるオドーア村からお連れしました」


 カザマがそう簡単に紹介するとノルンが一歩前へと踏み出した。


「私はノルンと言う。貴国に興味があって連れて来てもらった。翻訳魔法が使えるので役に立てると思う」


「ノルンさん、態々(わざわざ)遠いところありがとうございます。言葉の壁は厚い。是非ご協力をお願いしたい」

「分かった。頑張る」


 ノルンにはこれから国交を結んだ国の大使や現在、派遣している国家の国民と会ってもらい言語解析や通訳として雇うことが決まっている。

 できることなら翻訳魔法自体の研究にも加わって欲しいと要望がきたのだが、体がいくつあっても足りないのでそちらは未定だ。

 ちなみに彼女の師匠であるバルドルも魔法を使えるので協力を仰ぐことになっている。


「さて例の病気だが……」

「ノルンの話ではイチコロ病と言う名前らしく、罹患すると咳が出始めて2週間で発熱。1か月で天国行きだそうです。あ、後は恐らく飛沫感染だと思われます」


 既に防疫部隊は患者を診ているはずだが、研究棟はまだ建設中である。

 ユースティア本土には未知の病原体は確認されていないが、クレア半島では本国に存在しない病原菌が発見されており既に研究が始まってはいる。

 もし一致を見れば解析は速まるだろう。


「後は魔物と遭遇したそうだな」

「はい。村が襲われていたようなので加勢しました」

「本当に魔物なのかね? 人間や亜人ではなく?」

「ファンタジーに出てくるケンタウロスや大型のウルフのような個体だったので間違いないかと」

「今、どこまでが我々人間に友好的なのか問題になってるからな……意思の疎通ができないかしっかりと確認してくれ。危険だけどな」


 そうなのだ。

 意思の疎通を試みようとする前に襲ってくるのが魔物なのだろうが、先制攻撃ができずに一時的にせよ武器が使用できない状況になるので大いに危険である。


 政府は外聞を気にする。


 この世界ではユースティアはまだ新参国家であり国交を結んだ国も少ない上、国家を股にかけて活動するメディアがいないので多少は安心なのだが問題は国内なのだ。国内向けにユースティア国防隊は異世界でもちゃんと人道的に活動を行っていますよとアピールし続ける必要があった。

 万が一にも敵対勢力や人型の魔物を殺しただけで虐殺と騒がれかねないため慎重に慎重を重ねなければならない。ユースティアメディアは基本的に反体制なので敵対勢力を殺し過ぎるだけで騒がれるのは間違いないのだが。


「では任務に戻ります」

「ああ、無茶だけはしてくれるな。あ、後なこの地に都市も作るらしいぞ。また問題が色々起こるんだろうなぁ……」


 カザマが苦虫を噛み潰したような顔に変わる。

 まさか本土からも入植する気かと政府の正気を疑った。

 まだまだ安全が担保されてもいないのに速くもそんな話が出ていること自体おかしいだろう。


 拝金主義者たちの悪辣な顔が目に浮かぶようだ。


 カザマたちはノルンとバルドルに挨拶すると再びオドーア村へと出発する。

 高機動車の中でオカダとカーネルが代わる代わる尋ねてくる。


「隊長。あの村の人たちをこのまま見殺しにするんですか?」

「そんなことはしない。ただ俺たちにできるのは魔物の襲撃から村を護ってあげることくらいだ」

「でもたいちょ、あの村は半分以上が病気だって話じゃないですか。もう維持できませんよ」

「まぁなぁ……」


 勝手な行動で陸防隊の仲間を危険に晒すことはできない。

 それは理解しているのだが……。

 2人は何か察したのか、カザマにそれ以上何も話しかけてくることはなかった。


 無言で走ること40分。

 特に何事もなくオドーア村にたどり着いた。

 村の外では何やら騒ぎが起きている。


「戻ったぞ。一体何があった?」

「あ、隊長……それが分からないんです」

「は?」

「村人たちが村から出ようとしているのは分かるんですが……」


 カザマが思い当たったのは「あ、コイツらに翻訳魔法かけてもらってない」であった。取り敢えず間に入るカザマとオカダ。


「どうかしましたか? 何があったんです?」

「おお、あんた方は言葉が通じるのか! わしらはなこの村を捨てて親類を頼ろうと思ってな」

「えええ!? 病気の人たちはどうするんです?」

「このままでは全滅してしまうんじゃ。健康な者だけでも村を出なければならん」


 確かにこのままでは全滅は必至。

 村長の言い分も分からないこともない。


「魔物に襲われたらどうするんです?」

「そうなったらそれが運命だったと諦めるだけじゃよ」


 そうまで言われては何も言い返すことはできない。

 カザマには見捨てることができなかった。

 図らずも眉間に皺が寄る。


「チッ……分かりました。途中まで護衛しますので速く準備してください」

「そ、それは真かね!? 非常に助かる申し出なのじゃがいいのかね?」

「ええ、頼る相手がいる村まではどの程度の距離がありますか?」

「ここから近いところで25kmと30kmくらいかのう」


 村長の話では途中で二手に分かれるとのことなのでその地点までの護衛を受けることに決める。

 とは言え、病人たちは連れていけないと言う。

 確かに避難した村でも流行して最悪、病気が半島全土に広がる可能性すらある。


「隊長、見捨てる気ですか!」

「んなことは言ってない! ……仕方ないが空防隊に輸送ヘリで病人を運んでもらうしかない」


 オカダの怒りに任せた一言にカザマも憤りを覚えるが目を瞑ってグッと堪える。

 隊長としての自覚がそうさせるのだ。

 無線で再び陸防基地へ連絡を取る。


『コットン一等陸佐、病人の受け入れを要請します。空防隊に輸送ヘリの出動を要請して頂けませんか?』

『何……? まだ受け入れると言うのかね? 抗生剤の投与で様子を見ているが新薬ができるまでどれだけかかると思ってる! 仲間にも危険が及ぶかも知れんのだぞ!』

『仕方ないと愚考しますが。国防隊は我が国の領土であるマグナ半島の原住民を人道的に保護する義務があると考えます』

『ぐ……』


 コットンももっともなことを言っているしカザマもそれは理解している。

 しかしズルい言い方になるがカザマの言うことも正しいと言えば正しい。


『仕方ないか……だが完全隔離だ。空防隊へ要請する。とは言え輸送ヘリは運ぶだけだ。病人の隔離はお前の部隊だけで行え!』

『了解です。終わり』


 無線が終えると輸送ヘリの到着を待って移動を開始させる。

 先頭と最後尾を高機動車が真ん中辺りをY63式装甲車が進む。

 とは言っても先導する相手は荷馬車の集団。

 とても避難進度は上がるはずもなく遅々として進まなかった。


「進みませんねぇ……遅すぎッスよ」

「仕方ないだろ。小さな村でも300人はいるらしいし、その大半が病人で基地へ連れて行くと言っても残りの避難民は100人以上だ」


 他の都市に向かう以上、手ぶらで避難すると言う訳にもいかないのが人間である。一時的にせよ村を放棄するのだからできる限りの財産、荷物を持って行きたいと考えるのが普通であろう。


 更に季節は6月。

 この世界は平面だが一応は中央に赤道のようなものが存在するらしく、ユースティアは旧世界と極めて近い明確な四季を持つ場所に位置している。

 それより少し緯度が高い程度のマグナ半島も雨が多い時期に差し掛かっているのが現状だ。一行は泥濘ぬかるみにハマって中々進めないでいた。


「ん……? 隊長、何かが飛んでくるように見えるのですが」

「何か?」


 ゼロム曹長が何かに気付きカザマに報告してきたので、双眼鏡を受け取りそれを覗き込む。


 確かに何かが飛んでくるのだが――

 カザマにはクレア半島での事変に関する資料で見たことがあった。


「曹長、あれって飛龍って奴じゃないですかね?」

「資料で読んだが、空飛ぶトカゲでしたか」


 そうこうしている内に飛龍が3体こちらに向かって近づいてくる。

 あっと言う間に距離を詰めてくるその速度に驚愕しつつもカザマは直ぐに指示を出した。


「全車、避難民の前へ! 飛龍3体を確認! 襲って来るぞ。全火力で迎え撃てッ!」


 かなりの速度で下降してきた飛龍たちは避難民たちに襲い掛かると、その鋭い牙を突き立てた。資料には肉食とあったことを覚えていたカザマが吠える。


「撃ちまくれ!」


 各隊員の魔導小銃から7.62mmの弾丸が連射で撃ち出され、適格に飛龍へヒットする。

 しかしその表面を覆う鱗に阻まれ跳ね返されている。

 正確には多少はダメージが入っているのだがそれも軽微だ。


「たいちょ! 効いてませんよ!?」

「外皮を狙うなッ! 腹部を狙えッ! 柔らかい部分だッ!」


 カザマはは知る由もないが、ガラベルム帝國が戦った飛龍改の硬い鱗は12.7mm機関銃を弾き返していた。

 飛龍でも7.62mmでは貫けないようだ。

 その間にも避難民たちは火炎弾に焼かれたり、食い殺されたりと被害は広がっていく。


 1体が腹から血しぶきを上げて落ちる。

 もう1体は弾丸の乱射を受けて体と羽で防御体勢を取り自分を護っていた。

 更にもう1体は不利と見たのか上昇し高度を取って火炎弾を吐き散らす。

 それは重力に従って落下し下にいた避難民たちを焼き尽くした。


「オカダ! 個人携帯対戦車弾(LAM)持って来い!」

「いや、Y7型携帯地対空誘導弾にしろッ! 高過ぎて当たらん!」


 カザマの指示にオカダがY7型携帯地対空誘導弾を撃つ準備をする。


「捕捉次第撃てッ!」


 その声と同時にトリガーを引くと発射器から誘導弾が白煙を引いて発射され上空の飛龍へと超音速で肉迫。

 滞空していた飛龍は自身に飛んでくる物を察知したのか回避行動を取ろうとするが避けられるはずもない。

 上空で大爆発を起こし飛龍は四散し肉片がバラバラと地面に落ちた。

 最後の1体も連射には耐えきれず、最終的には鱗を貫かれて動かなくなる。


 厄災から逃れた避難民たちから安堵の声が上がる。

 先頭付近にいた者たちは喰われたり焼かれたりして死亡したが、それでも8割近くは生き残っていた。生き残っても大火傷や怪我を負った者も多いが。


「まさか飛龍を斃してしまうとは……」


 生き残っていた村長が成り行きに着いて行けないのか茫然としながらも呟いた。

 死を覚悟していたが、マグナ半島では空の覇者たる飛龍が落とされたことに避難民たちは陸防隊員たちに畏怖の念を覚える。

 誰もが感謝の言葉を口にしてカザマたちに駆け寄ってくる。


「あー何とかなったなー」

「海空では飛龍を撃ち落とすのは簡単みたいだったようですが陸の装備ではきついですな……」

「死ぬかと思った」


 その後、何とか泥濘ぬかるみ地帯を抜け避難民を約束の場所まで送り届けることができた。全員が心の底から安堵したのは言うまでもないだろう。それほどの重圧であった。


 避難民たちを見送った第5調査隊は病気感染者たちに対応するため基地へと取って返した。

 

 帰ったら病気感染者への対応と、飛龍に対する報告書など作業に追われることになるカザマはこれからのことを考えて憂鬱になるのであった。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。


明日は12時の1回更新です。

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