第44話 激震 ③
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――西方世界・アトランティス帝國・帝都クリティアス
タイカ大帝國から遠く離れたアトランティス大陸の列強国。
その大部分を支配するアトランティス帝國の皇帝ポセイドン47世は左程気に掛けることもなく普段通りの毎日を過ごしていた。
帝國宰相に伝えられた時も「そのようなことどうでもよいわ!」と一喝したと言われている。そんな些事よりも現在、侵攻している大陸南部に出現したクルセフク王国をどうにかしろと考えていた。
「まったく列強国が敗れた? 敗れぬからこそ列強国なのであろうが。勘違いも甚だしいわ」
アトランティス帝國は太古の時代に大陸ごと沈みかけた時に突如としてこの世界『ゼノ』に転移してきたとされている。
最初は誰もそんな夢物語などを信じる脳内お花畑など存在しなかったが、世界の全貌が明らかになるにつれて転移と言う超常現象が信じられるようになり歴史書にまで記され現代に伝わるとされる。
アトランティス大陸が転移した当時、大陸にはテタリス人の他にも多数の民族が存在した。
彼らは全てではないがその悉くを滅ぼして現在のアトランティス帝國を建国。
建国後は自らをテタリス人と言う呼称からアトランティス人に変更し、正統な大陸の統治者であることのアイデンティティとした。
『ゼノ』は異世界国家が転移してくる世界であると判明してからかなりの年月が経過しているのだがアトランティス帝國がある西方世界には中々国家が転移してくることがなかった。そんな状況がアトランティス帝國内を内紛が絶えることのない国家に変え、その煽りを受けて皇帝は権威は持つが権力や武力を喪失してしまい群雄割拠の時代に突入していた。現在、列強国でいられるのは外敵に対しては一致団結して撃退する民族性があってこそなのである。
そんな訳でポセイドン47世自身は国内がまとまって海外へ侵出することを願っていたが国内の乱世がそれを許さなかった。
有名無実と化した皇帝に近づくのは官位官職をもらって権威付けに利用とする群雄だけであったので彼が腑抜けになるのは仕方ないとも言える。今や海外の動向に気をかけているのは有力な群雄だけと言う状況だ。
つまり今回のタイカ大帝國の敗北に激震が走ったのはアトランティス帝國内で割拠している有力者のみであったのだ。元々魔力を持たず、特段優れた技術がない帝國であったが有力者たちが独自の貿易で力をつけ、今や独特な魔導文明を築いている。また南西世界に存在するトール大陸、通称、南アトランティス大陸との間に存在するナダル機工国との交流によりそんな魔導文明から更に独自の進化を遂げている。
「はぁ……早う乱世を終わらせる者が出て来ぬかのう……」
ポセイドン47世の世を憂う心はまだ晴れそうにない。
・アトランティス帝國の中央部を抑えている群雄・ノルナーガ侯爵
膨大な金の力で圧倒的な軍事力を誇りアトランティス帝國の統一を目論むノルナーガ侯爵は列強国が落ちたことに危機感を持つ者の1人であった。彼は統一後のことを考えて機工技術と魔導技術を融合させた超兵器の開発を進めている。
人工魔導オートマトン、アンドロイド、サイボーグ技術など開発に潤沢な資金を投入し、更には自在に操ることのできる魔導生物兵器を創ろうとしていた。だからこそ、タイカ大帝國の超生物兵器――最終兵器とまで言われた炎龍を落とすほどの国家の存在に驚愕したのである。
「迅速にこの国を統一せねばならん。我が国は強い。だがいつまでも内紛を起こしているようではいずれタイカ大帝國の二の舞になりかねん」
「真に……このことに気付いている者は果たしてどれほどいることやら……」
ノルナーガ侯爵の焦りを含んだ言葉に側近が同意する。
奇抜な発想をする彼を理解する数少ない腹心の1人だ。
「ことが起こったのは東方世界。誰もが遠い地の出来事だと関心すら抱かぬ。列強国や準列強国は海外に進出し次々と植民地化を進めているのだ。いくら我が国が頑強と言えどいつかは技術格差により敗れる時が来よう。東方世界はまだまだ植民地化されていない土地がある。我々はそこへこそ進出すべきなのだ! 西には暗闇で閉ざされているが恐れずに進めば東の海に出ると言われている。海上にはマギロンはないが反重力物質を実用化できれば東方世界へ至ることができよう。急ぐのだ! ナダル機工国と連携して開発を急ぐのだ! 金に糸目はつけん」
空を飛行する魔導艦を作ってもマギロンがない以上、海上では飛行できない。
そこで代替機関として想定しているのが反重力物質である。
トール大陸で発見されたと言うそれはまだまだ稀少であるが、少量でもある程度の物を浮かせることが可能だ。
ノルナーガ侯爵はアトランティス帝國を統一し海外へと進出、列強国たる力を示す夢を見る。
・アトランティス帝國北部
アトランティス大陸の北部は中央大陸の西側に位置する獅子州とぶつかることが日常になっている。
獅子州は複数の国家の連合体であり獅子州連合と呼ばれている。
連合国と戦う時には団結するが、それ以外の時は別問題であり、まとまった勢力圏を作り上げたノルナーガ侯爵家とは違い未だ群雄が割拠している状態だ。
そんな彼らにはタイカ大帝國敗北の危機感などなかった。
遠くの戦よりも目の前の戦であり、生きるか死ぬかがかかっているのに他に目を向けている余裕などない。中央からの圧力も高まっているため、各家が滅びないことに全力を挙げている。
アトランティス帝國北部はいずれ中央のノルナーガ侯爵家に飲み込まれるだろう。
・アトランティス帝國南部
アトランティス帝國の南部は三つ巴の戦いが繰り広げられている。
オードモル公爵家、リュージ伯爵家、イマヅ伯爵家の三国だ。
南部はアトランティス大陸の別民族の国家があることでそちらとも戦争が勃発しており北部よりも戦闘が常態化している。しかしイマヅ伯爵家が中央のノルナーガ侯爵家と同様にナダル機工国と貿易することで次第に台頭してきていた。
既にサイボーグ技術が発達しており人間の力を実力以上に発揮させることにも成功し、南部諸国やアトランティス帝國内での争いを優位に進めている状況だ。
だが少しは余裕があった心にも影が差す。
タイカ大帝國が敗北したのが理由だ。
「時間がない……ノルナーガ侯爵家が南部に攻め込んできたらアトランティスは統一されてしまうだろう。その前に南部を統一せねば……しかしリューク国、イワン国、アミマ国の侵攻も跳ね除けなければならない。東方世界では列強国たるタイカ大帝國が敗北したと言うではないか」
中央部では新たに転移してきた国家であるクルセフク王国とも戦っていると聞くが左程問題なく戦いを続けているようだ。
「緩衝地帯になっているムーリ子爵家が敗れれば、ノルナーガ侯爵は間違いなく南部征伐軍の大号令をかけるでしょう」
「最悪、降伏も止む無しではありませんか?」
「何を弱気なッ! イマヅ伯爵家は1000年前から存在する名門だ。成り上がり者に屈する訳にはいかない!」
イマヅ伯爵家当主ヨシスの考えはノルナーガ侯爵と近いのだが、名門意識が邪魔をして共に歩むと言う選択肢を取れないでいた。
中央を支配するノルナーガ侯爵は既に様々な新兵器開発に着手していると言う。
それに皇帝であるポセイドン47世を抑えて絶大な権力と権威を持ち、莫大な富を兵器だけでなく工芸、芸術、文化と言った多種多様な分野にも注ぎ込みアトランティス帝國全体を反映させようとしている。
アトランティス帝國を1つにまとめ上げる器は間違いなく持っているとヨシス・イマヅ自身は思っていた。
中央に反抗してあべこべにイマヅ伯爵家が天下を統一するか、大人しく頭を下げるしか方法はないのか?
それほどまでに海外進出の重要性を理解していたし列強国として更に国力を高める必要性を感じていた。このままではタイカ大帝國のようになってしまうと言う焦燥感がそこにはあった。
イマヅ伯爵は列強国の長になる野望を心に抱き、今日も戦へと赴く。
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