第35話 アルトア解放
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――ドゥーリ領アルトア総督府
総督府内では上層部の間で激論が交わされていた。
「降伏などもっての外である! まだ総督府は落ちておらんし各地に陸軍が駐屯している。この状況で降伏などしようものなら本国からどのような仕打ちを受けるか!」
「しかしですね。報告によれば敵の戦闘車両?らしきものは容易く城壁をぶち破り、城壁上のドゥリス速射砲も全てあっさりと撃破されたと言うではありませんか」
実際に目撃した者の驚きと言ったらそれはもう半端ないもので、その狼狽っぷりには怒りも吹っ飛んだ程であった。
「しかも全弾命中したそうですね。信じられませんが……」
「ドゥリス速射砲を打つのにどれだけの距離計算と火薬の調整が必要だと思っている! そんな馬鹿なことは信じられんわ!」
「だが現実だ。命中精度だけではないぞ。その威力も凄まじい」
アルトア総督のデュッシ・ノーラントはドゥーリ共和国内でも比較的穏健派である。
だからこそ、その内政手腕も買われて初の海外統治の長として選ばれたのだ。
激しい議論が続いている中でも彼は冷静に耳を傾けていた。
「まだ時間はある。前線の兵士たちからも話を聞きたい。連れて来てくれるか?」
総督が静かにそう告げると控えていた秘書官たちが外へ飛び出していく。
彼は執務室で瞑想するかのように目を閉じて肘掛に腕を置いて座っている。
そうしながらも深い思考の波に身を投じていた。
まさか初めて得た海外領土の統治でこのような事態になるとは全くの想定外だ。
しかも敵は見たこともないような空飛ぶ戦艦とでも言うべきものを操り、原理の分からない兵器で砲撃をしてくる。
それだけなら魔法文明とはこのように強力な技術を有するのかと理解できた。
しかしどうだ。陸上戦力は恐らく機械文明の兵器を使用している。
それに我が国には空を飛ぶ艦など持たぬ。
あんなものが本国上空に侵入し空から一方的に攻撃をされたら亡国は必至だ。
廊下からドタバタと慌ただしく走る音が近づいてくる。
兵士たちが連れて来られたようだ。
「ご苦労である。前線の様子を聞かせてもらえるか?」
「は、はい。私は城の防御塔から見ていたのですが敵軍は鉄車の砲を前面に押し出してきました。それは凄まじい連射速度で城壁に設置していた我が軍の砲に命中弾を与え撃破しました。こちらが準備をしている間にです。射撃する暇もありませんでした」
「鉄車に砲塔がつけられているのか……」
「進軍を止めようと発砲しましたが、こちらの武器は全て弾かれ効果は認められませんでした」
「敵陸軍の武装は見たかね?」
「直接は見ておりませんがダダダッと言う連射音と共に仲間たちは為す術もなく倒れていきました。我が国の歩兵銃よりも連射性に優れているのは間違いありません」
まさか総督府の長官に直接報告するとは思ってもいなかったのか緊張した面持ちで兵士が答える。
目の前にいるのは大物の政治家であり雲の上の人物なのだ。
緊張するなと言う方がおかしい。
「空を飛ぶ戦艦についてはどうかね?」
「地獄でした……命中精度は不明ですが整備された港が完全に破壊されました。戦艦の側面にある砲塔が淡い緑色に光ったかと思うと地上に向けて一斉射撃が行われ仲間たちが……仲間たちがッ……」
先程とは別の兵士が証言したのだが目撃した光景を思い出したようで嗚咽が漏れる。
「やはりこの戦いは無駄に兵士の命を失うだけだと愚考します」
「しかしッ……しかしッ……まだ軍は全滅した訳ではないッ……」
「あんな化物相手にどう戦うと言うのですか!」
「夜襲や奇襲、包囲戦術で戦えば――」
「相手もそれは想定済みでしょうし空に逃げられれば手も足も出ません」
またも議論が熱を帯び始めた。
継戦派も降伏派もどの目も真剣そのものであり国のことを想う熱い気持ちが伝わってくるようだ。
「降伏条件はどうなっている?」
「アルトアの解放のみです。捕虜になっても丁重に扱うと言っております」
甘い。ドゥーリ共和国なら降伏しても厳しい条件をつけるところだ。
捕虜についても丁重に扱うとは考えられないことであった。
ドゥーリ共和国がいた旧世界には戦時国際法のようなものはない。
「もうよい。私の意思は決まった。全軍に武装解除を指示、総督府は降伏するものとする」
「閣下!! それでは――」
「よい。恐らく技術格差があり過ぎると私は考える。埋められない差だ」
「政治生命が終わると言うことです! 閣下はまだまだやるべきことがあると仰っていたではないですか!」
「安いものだ。それに最後の仕事がある。政府を説得し我が国の損害をできる限り少なくして講和することだ」
総督は苦渋の決断を下した。
もう反対する者はいなかった。
こうしてドゥーリ領アルトアはユースティア国防隊の圧倒的な火力の前に降伏した。
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